第50話 ドM達に効く作戦

 スロリ町も大きな出来事は落ち着き、『学校』の運営も順調に進み、『エレメント抽出器』の作りも順調に進んだ。


 そして、水面下で進めていたとある事を、次のステップに進める事にした。




「皆さん、ここの生活は…………随分と慣れたみたいですね」


「「「「クラウド様!」」」」


 既に僕の事を『様』で呼んでいる大勢のダークエルフ達を目にする。


 彼らは狢達の巣で暫く生活して貰っていた。


 勿論、毎食の食事はきちんと与えていた。


 実はこの食事に僕の狙いがあった。


 彼らに提供する食事は、全てお母さん作の超高級食事のみを提供している。


「では、皆さんにはこれから地上に出て貰いますね」


「「「「ハッ!」」」」


 既にリーダー含み、全員が素直になっている。


 狢達の巣から外に出ると、眩しい光が出迎えてくれた。


 僕が外に出て、次々ダークエルフ達が素から出て来て、整列する。


 それにしても…………これは狙い通りを通り越して、狙い以上の成果かも知れない。


 モソモソ集まったダークエルフ達は全員…………。






 とてもっていた。





 それもそうよね。


 地下で運動も魔法も使わず、出される料理は多めで且つ、お母さんのめちゃくちゃ美味しい料理だから、全部を平らげてしまうからね。


 あれを一週間ほど経験しただけで、ここまで太るのかと思えるくらいだ。


「ダークエルフの皆さん、既にリーダーさんから何度か事情は聞きました。全ては『風神の短剣』の為と。ですが、既に『風神の短剣』は僕の持ち物となりましたので、皆さんの中からが現れる事はないです。ですので、これからのハイエルフ達との抗争は止めてくださいね」


「「「「ハッ!」」」」


「では、これからになりますが…………このまま帰っていいですよ」


「「「「えっ?」」」」


 帰っていいですよと言った途端、ダークエルフ達全員が絶望した表情をする。


「既にハイエルフ達を襲った罰は受けて貰いました。リーダーさんからも誠意のある対応をして貰って、話し合いも良好に進んだので、ダークエルフさん達はこれから釈放しますね。この町から南に真っすぐ行けば、森に入れますので、そこから東に向かえばダークエルフさん達が来た方向になるはずです」


 ますます絶望するダークエルフ達。


 その中、リーダーが一歩前に出て来た。


 以前着ていた服が既にパンパン膨れ上がっている。


「クラウド様、今回の寛大な処分……ありがとう……ございます…………」


「いえいえ、これからは二度・・と会う事もないでしょうし、皆さんも元気で過ごしてくださいね」


 二度と――ってくだりで既に涙を流す者までいた。


「かしこまりました…………短い間でしたが……大変お世話になりました……」


 リーダーも最早泣き出す寸前だったけど、一所懸命に我慢している。


 この方……とても強い方らしいんだけど、今回の狙いが見事に的中したって事だね。


 僕とアレン、サリーで見送りに町の外までダークエルフ達と出て来た。


 既にリーダー除いて、号泣している。


 彼らは重い足取りでスロリ町から少しずつ離れて行った。


 そして、スロリ町から離れ、見送りも最後の場所に着いた。


「あ、皆さん?」


 僕の声を待ってましたと言わんばかりに、全員が一瞬で期待の眼差しで180度体勢を変え、僕に注目した。


「これはあくまでも提案であって、強制でも何でもないんですけど。我々は良き隣人・・・・となら喜んで交流を受けますから、もしそういう――――」


「「「「やった!!!!」」」」


 いや……まだ話し終わってないんだけど……。


 そして、直ぐに全員がその場で跪いた。


「「「「我々一同、これからもクラウド様に忠誠を誓います!!」」」」


 あ……ちょっとやり過ぎてしまったかも知れない……。


「あはは……忠誠じゃなくて、良き隣人として――――」


「いえ! 我々ダークエルフ族はこれからクラウド様の為に手となり足となる所存でございます!」


 わあ……全員本気の目だ……。


「まぁ、それは一族の者と良く相談してからてくださいね」


「「「「ハッ!!!」」」」


 それから、すぐに全員が素早く森の中に走り去った。


 普段のスリムな体型から、随分とふくよかになったのに、あれでも俊敏に動けるのは凄いと思う。


 隣で見ていたアレンとサリーがニヤニヤした。


「兄ちゃんの狙い通りになったね!」


「そうだな、狙い通りに進んで良かったよ」


「さすがお兄ちゃんだよ! サリーも頑張るね!」


「あはは、サリーにはう~んと頑張って貰ってるからね。あまり無理はしないでね?」


「えへへ~分かった!」




 今回、ダークエルフ達の処遇として、最も効果的だと思ったのが、餌付け作戦だった。


 お母さんの美味し過ぎる料理をたらふく与えて味を覚えさせる。


 更には量も多めにあげて、身体に沁み込ませる。


 それを十日ほど続けた結果、彼らを餌付けに成功した。


 こんなに簡単に出来たにも理由があって、ハイエルフ同様、ダークエルフ達にも厳しい掟というモノがあったり、住んでいる場所が強い魔物に溢れている森なので、美味しい食事に普段からありつけないのだ。


 そんなダークエルフ達が、初めて出会った超絶美食は、匂いだけで泣き出す者がいた程だ。


 号泣しながら食べていた彼らに、この作戦はピッタリだなと思ったのだ。


 ハイエルフとダークエルフ。


 何故争っていたかは知らないけれど、ハイエルフの族長となった僕は、これからのハイエルフ族の為、争いごとを無くしてあげたかった。


 だから、ダークエルフ族を餌付けして、これからの抗争を辞めさせたかったのだ。


 それが見事に的中して、しまいには忠誠まで誓われる羽目になったけど、まぁ結果良しでいいんじゃないかな?


 そう言えば……最近、あっちこっちから忠誠を誓われるようになった気がするな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る