第49話 ペイン商会の受付嬢の実情

 スロリ町に『ソフトミスリル』が遂に到着して、才能『魔技師』のエンハスさんが張り切って次から次に『エレメント抽出器』を作り上げていた。


 『エレメント抽出器』はトイレ用に考えていたけど、よくよく考えたら水場ならどこでも使えると思ったので、エンハスさんには悪いけど、大量生産をお願いした。


 そこで、一つ計算違いしていた事に気が付いた。


「クラウド様、最近『学校』というモノに力を入れておりますね」


「ええ、町民達の知識や力が増せば、ひいてはベルン領の為になりますからね」


「なるほど……それはとても素敵ですね……しかし、クラウド様?」


「はい?」


「…………ダンジョンの事はお忘れではないですよね?」


「…………」


「…………」


「……」


「……」


「うわああああ! 学校の事ですっかり忘れてた!!」


 エンハスさんが、「やれやれ」と呟く。


 実は『エレメント抽出器』はそのままでは使えない。


 それもそうよね、エレメントの力を引き出す為には『魔石』が必要だからね。



 エンハスさんから教わった『魔石』とは、


 通常、魔物を倒せばそのまま素材となる。というか、素材というよりは、動物のように身体が残るのだ。


 でもこの世界には『ダンジョン』という場所があり、『ダンジョン』の中には外で見かける通常魔物とは違い、ダンジョン魔物というのが居るそうだ。


 ダンジョン魔物の最もな特徴としては、倒した場合、その場で消える事だ。


 では、ただ消える魔物はどうなるのか、それが『魔石』になるそうだ。


 魔物にはそれぞれ『属性』というのがあるらしく、倒した場合、属性に因んだ『魔石』を落としてくれるそうだ。


 その『魔石』は単体でも使い道が多くて、特に『魔法』系統の才能を持っている者が主に使い、杖に魔石を付けて魔法の威力を上げたりするそうだ。


 『魔石』は内臓された属性エネルギーを消耗し、使い切ったら割れて消え去るそうだ。なので消耗品として売られているそうだ。




 僕は大急ぎで、隣のアングルス町のペイン商会にやってきた。


「あっ!! クラウド様!?」


 受付嬢で、商会頭の娘さんのルリさんが出迎えてくれた。


「ルリさん、お久しぶりです」


「本当ですよ! 最近エグザ支店にしか顔を出して下さらないから……」


「向こうに用事が多くて……そろそろスロリ町も色んな事業を始める予定ですので、これからまたお世話になります」


「お世話だなんて! 何でも言ってくださいね!」


「それは助かります! 実は『水の魔石』を大量に購入したいのですが」


「『水の魔石』ですね! 分かりました! ペイン商会が総力を上げて集めて参ります!」


「あはは……あまり無理して欲しい訳ではないんですが、大量に必要ではありますので、よろしくお願いします!」


「はい! あっ、そうだ! クラウド様、今から少し時間を頂く事が出来ますでしょうか?」


「えっ? はい、大丈夫ですよ?」


「やった! こちらで少しだけ待ってください!」


 ルリさんがバタバタと他の店員に何かを伝えていた。ちらっと『水の魔石』の単語が聞こえたから早速集めてくれるのだろう。


 すぐさま裏に消えたルリさんは一分もいないうちに現れた。可愛らしいワンピース姿で。


 ……これってまさか…………。


「さあ、クラウド様! 行きましょう!」


 少し僕より背が高いルリさんにエスコートされて町に出た。


 少し歩いてペイン商会の反対側に向かった。


 ティナ令嬢とサリーがよく腕に絡んでくるけど、二人とは気心が知れた仲なので何とも思わないけど、二人を除けば初めて女性に腕を絡まれた。


 ルリさんからも女性特有の甘い香りがふんわりしていた。女性ってみんなこんな良い匂いがするのかな。


 彼女に連れられて向かったのは、お洒落なお店だった。


 中からはふんわりと甘い香りが外まで広がっていた。


「クラウド様! 今日は私が奢りますので、気にせずいっぱい食べてくださいね!」


 中に入ると、可愛らしいテーブルや装飾が並んでいて、すぐに店員に案内され、二階のテラス席に案内された。


 待っている人もいたのに、顔パスみたいに入ってたけど大丈夫なのだろうか?


「この店は私の全額投資で始めた店なんです~私がオーナーになっているので、お気になさらず!」


「オーナー!? ルリさん……凄くしっかりしてるんですね」


「ふふふっ、女の子は可愛いモノに目がありませんからね。これから装飾品の店もやりたいんですけど、まだ資金が集まらなくて、ゆっくりですけど、頑張りますよ!」


 それから色んな抱負を話してくれたルリさん。夢を持って突き進む人は何処か輝いているように見えるね。


 店員さんが素早く運んでくれたのは、前世のホットケーキに似たケーキで、可愛らしい絵柄のクリームが描かれていた。


 クリームも生地も正直言えば、普通なモノだ。


 しかし、普通なモノにアイデアを載せて可愛らしく作っただけで、ここまで人気な店になるのは凄い事だと思う。


 これは今度お母さんも連れて来て、是非とも経験して貰わないとね。


「クラウド様」


「はい?」


「私、この景色がとても好きなんです」


 外には楽しみに待っているお客さんの姿が見えたり、店内は美味しい~可愛い~の声が聞こえたり、笑顔いっぱいの店員さんが頑張っていた。


「この店は、クラウド様がうちの店を助けてくださった時に思い付きまして、値段など全く気にせず全て任せてくださったクラウド様に私達は何とか恩返しがしたいと頑張って、それが良い方向に巡って……それがとても素晴らしいなと思えたんです。だからこの店も出来る限り、利益を残す事よりも、働いてくれる従業員を大切にしつつ、より良いモノを出せるようにしたかったんです」


 ルリさんの優しさが伝わってきた。


 ペイン商会と巡り会えた事で、色んな人が幸せになったのなら、それを最初に支えた僕としても、とても嬉しい事だ。


「クラウド様。私達が必要になったら、いつでも仰ってください。出来る限り、クラウド様の力になりますからね!」


「ルリさん……ありがとう」


「いえいえ! こちらこそです!」


 僕はルリさんと短いデートを終え、色んな事を考えながらスロリ町に帰って来た。




 よし! これからも頑張ろう!!


 と思った矢先。


 出迎えてくれたサリーが僕に抱き付いた瞬間、恐ろしいくらい顔付が変わり、


「お兄ちゃん…………サリーがいない間に、また…………女ね」


 と直ぐにバレて、色々釈明したけど、何故か腕に絡んだ事を見抜かれて、ものすごく怒られた。

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