第48話 広がる忠誠の輪

 サリーによる、さんすう教室はものすごく受けが良かった。まだ初日だけどね。


 授業を受けている子供達の顔は、全員が輝いていた。


 それを眺めながら一つ分かった事がある。


 この世界の子供は全員が頭が良いと思っていた。


 サリーを筆頭に、アレンやティナ様も一回教えただけで理解する。


 でも、今回サリーの授業で学んでいる子供達は殆どが理解出来ずにいた。


 サリーはそういう場合の事も既に考えていたらしく、授業の合間合間に間を入れて、理解出来なかった子供を既に理解している子供が率先して教え始めた。


 理解が遅い子供をバカにする事もなく、教える子供を妬む事もなくしっかり感謝している彼らの姿に、人の優しさを感じられた。


 暫く勉強と休憩の時間が繰り返され、数時間経過して三回の鐘の音が聞こえた。



「ここまで! お兄ちゃん先生は、勉強は区切りを大切にしないといけないと仰られています! 一旦、勉強の事は忘れて、これからお昼ご飯にしますよ~!」


「「「「やった~!!!」」」」


「では、終わりの挨拶・・!」


「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!!!」」」」


 嫌だあああああ。


 挨拶が忠誠の言葉になってるよ!!


 サリー先生!? 一体何をしているんだ!?


 それにいつの間にそういう挨拶を決めたんだ!?


 子供達の挨拶が終わり、講堂から厨房が繋がっている『給食室』に全員で移動した。


 『給食室』は6人座りが出来る円状のテーブルが複数並んでいる。


 子供達でも真ん中の部分に手が届くくらいの小ささのテーブルだ。


 大人6人は窮屈そうだけど、大人の場合、4人で使えば問題なさそう。


 子供達はそのままテーブルに座る事なく、給食を運んだり、食器を並べたりテーブルを拭いたりしていた。


 この世界の子供達の生活水準って、ものすごく高いのかも知れない。


 何故か僕とサリーは手伝わせて貰えなくて、正面の長テーブルに座らされた。


 準備がとんとん拍子で進み、美味しそうな匂いが給食室全体に広がり、主食や副食のくぼみがあるプレートに主食のパンを始め、お肉や野菜が彩られた料理が載って運ばれて来た。


 子供達の手際の良さにより、すぐに準備が終わり、全員が座った。


「こほん、ではお兄ちゃん先生に感謝しながら食べましょう!」


「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!!!」」」」


「食べる時は『頂きます』でしょう!!」


「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!!! 頂きます!!!」」」」


 違う違う!


 忠誠は誓わなくていいから!


 楽しいお昼が始まり、お母さんが作った美味しい料理を食べていく。


 子供達からは家のご飯より美味しいって泣きながら食べてる子までいた。


 うちのお母さんの料理って、この世界で色んなモノを食べて来たけど、正直、一番美味しいと言っても過言ではないからね。



 食事が終わり、少しの休憩があり、また授業が進んだ。


 数字を覚える事がメインで、覚えた数字ですぐさま足し算と引き算を勉強する。


 サリーの手腕の良さで、三日目で既に全員が一桁の足し算と引き算を理解した上で、数字まで覚えきった。


 最初はこの世界の子供って全員が理解度が高いと思っていたけど、決してそういう訳ではない事を知ったから、サリーの手腕だろうね。



 そんなこんなで、五日目を迎え、変わらずの勉強を続けていたのだが、既に二桁の計算を始めている子供達は、より実践的な計算が必要だという事で、サリーが用意した銅貨と銀貨を使い、物を買った場合や売った場合の練習に励んだ。


 既に計算が得意となった子供達はあっという間に貨幣の数え方や計算を覚えた。


 中には貨幣は100までしか存在しないと、銅貨100枚で銀貨になり、銀貨100枚で金貨になるから、皆が口をそろえて簡単だと言っていた。



 こうしてたった五日で計算が得意となった子供達が大量に増えた。


 更に次の五日間は11歳から14歳までの子供を中心に教えた。そして、五日後全員が計算が得意となった。


 スロリ町の子供全員が計算が大得意となり、全員が店番や交渉役も担えるようになった。


 それを見ていた大人達は子供達の大きな成長に喜んでいたが、自分達の計算能力の低さに悲しむ人も多々いた。


 勿論、これも既に想定している。


 実は子供達を先に勉強させたのには、大きな理由があった。


 子供達は知識を無邪気に吸収する。


 そして、それはいずれ大人を越えていくはずだ。


 本来なら子供達の活躍は大人達から見れば喜ばしい事だろう。


 しかし、その活躍は自分達には出来ない・・・・事に大きな意味があるのだ。


 自分が幼い頃に学べたら…………という願望が生まれる。


 そして、その願望は大人達の知識欲求を駆り立てるのだ。


 11歳組が終わったその日の夕方。


 お父さんの声が町に木霊し、町の全ての大人達が集まった。


「集まって貰ったのは、他でもない『クラウド様の完璧さんすう教室』を皆にも受けて貰おうと思っている!」


「「「「うおおお!!!」」」」


 お父さん!?


 クラウド様の様は要らないんじゃないかな!?


 大人達らしく、盛り上がりが凄まじい。


「しかし、皆には仕事があって、中々参加する時間がないと思う。そこで、交代制で学んで貰う事にした! その振り分けは後程発表する! それと、教えるのはここにいるサリー先生もそうだが、皆には小さな・・・先生が各自付く! この『学校』では先生に対する非礼は許されない! 皆、それを理解した上で参加するように! もし、参加したくない者は途中から辞めても一切咎めないのでそのつもりで!」


「「「「うおおお!!!」」」」


 その後、サリーが一歩前に出た。


 …………この光景どこかで見た事あるような?






「はーい! みなさん! 『学校』での挨拶・・は『クラウド様、忠誠を誓います!』です! さあ、復唱してください!」


「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!!!」」」」


 サリー先生!?!?


 やっぱりそれは変えないのね!?




「クラウドくん……」


「はい……」


「大変だね……」


「お父さん! 分かってくれるんですね!」


「勿論だとも、サリーちゃんはお母さんそっくりだからね」


「あっ…………お父さん、今度お母さんとの馴れ初め聞かせてください」


「ああ、いいとも……はぁ」


「はぁ」


 サリーの「えいえいお~」に合わせて「クラウド様! 忠誠を誓います!」と叫ぶ大人達を見ながら、僕とお父さんは溜息を吐いた。

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