第47話 サリーの完璧さんすう教室②

「もう完成した!!」


 改築が終わった『学校』の校舎の前でサリーがはしゃいだ。


 学校のイメージは、前世の小学校と大学校を足して割った感じにした。


 大きな講堂をメイン教室として、これから計算を教える事にする。


 講堂以外にも講堂を小さくして十人程が座れるように作った小教室が他に8つあり、これから出来上がるであろう『トイレ』もしっかり完備させた。


 更に、まだ活動はしないが、お昼の食事が出来るように、給食室も作った。名前はただの厨房だけど。


 建物の中に一際豪華な部屋がある。


 それが『教員室』である。


 この部屋には『教員』の資格がある人しか入れない。


 豪華に作ったのには理由があって、この世界で誰かに教える立場の『先生』というのはとても偉い傾向にあるそうだ。


 世間体的なモノもあって豪華にしたのと、他の子供達にも『先生』を目指して欲しいと思っていて、平民だからこそ豪華な部屋で寛いだり、仕事をする事を夢見てる子供も沢山いるのだ。その夢の指標になって欲しいからこそ、『教員室』が豪華に作ってあるのだ。


 まぁ……サリーから「お兄ちゃんの偉業を教えるのに、部屋が質素とか嫌!」と言われたからでは、決してないのだ!



 現在、教員は僕とサリーの二人。


 アレン達にも声を掛けたんだけど、人に教えるのは難しいから、雑用なら手伝うとの事だ。折角なので、計算万能木の板を大量に作って貰っている。が、既に大量の木の板が完成していて驚いた。


 一通り、打ち合わせが終わり、サリーが町に向かって木霊を響かせる。


「これから~十歳までの~」「子供は~みんな~」「町の東側の建物まで~」「全員集合!」


 サリーの可愛らしい声が町に広がった。


 暫くして、町の各地から子供達が数十人集まった。


 意外にも子供って多いんだね。


 あまり町にまでは降りて遊んだりしなかったから、全く気付かなかった。



「はい! みんな集まりましたね! これからお兄ちゃん先生からありがたい言葉があります! しっかり聞いてください!!」


 え!?


 僕が言うの!?


 しかもありがたい言葉って……。


 前世で校長先生がひな壇からつまらない言葉を垂れ流すのを思い出した。


 ううっ……校長先生みたいにはなりたくないよね。簡潔に伝えよう!



「え~っと、これから皆さんには、この『学校』で計算について学んで貰います! 明日の朝、鐘が三回鳴った刻にこちらに集まってください! 以上です!」



 その中、一際大きい子が手を上げた。


 ちゃんと発言前に手を上げるのはこの町が教育を意識している証拠だろう。


「はい、そちらの男の子、どうぞ」


「クラウド様! 僕達には払えるお金がないんですけど……」


「あ~言い忘れましたね。ここで計算を学ぶのは、『スロリ町の町民の義務』です! なので、お金とか要りませんよ?」


「えっ! ただで教えてくださるのですか!?」


「勿論です! これからのベルン領を担う皆さんにはしっかり計算を覚えて欲しいんです。だから、この『学校』に関しては…………全て無料・・・・ですよ!」


「「「「凄い!!!」」」」


「それと、皆さんには一日中来て貰いますので、お昼の弁当は持ってこなくて大丈夫です。お昼の給食も無料で付いてますので、お楽しみに!」


「「「「わあああ! やった!!!」」」」


 既にお母さんにも相談が終わっており、お母さんは「大人数の炊き出しの練習だもの! やりたいわ!」と快諾してくれた。


「では、明日から『学校』で会いましょう! 最初は五日間ですからね! ちゃんと親御さんにも伝えるのですよ?」


「「「「はーい!」」」」


 直後、サリーが一歩前に出た。


 それだけで不安を覚える……。




「はーい! みなさん、『学校』での挨拶・・は『クラウド様、忠誠を誓います!』ですからね!」


「「「「クラウド様! 忠誠を誓います!!!」」」」


 いやいやいやいや!


 サリーちゃん!?


 忠誠は強制するものではないのよ!?


 しかし、既に子供達の目が本気のそれだった……。




 ◇




 次の日。


 町に鐘の音が三回響いた。


 朝に三回鳴らされるのは、朝が来たという知らせで、昼にも三回、夕方にも三回鳴らされる。


 スロリ町ではこの鐘の音が三回鳴るのを中心に生活しているのだ。緊急時は激しく沢山鳴らされるんだけどね。


 暫くして、スロリ町の子供達が集まった。


 人数があまりにも多すぎてもよくないので、今回は自分で判断出来る歳……主に5歳から10歳までとしている。


 最終的な目標は歳関係なくスロリ町の町民全員にある程度計算を覚えさせたい。



 集まった子供達を講堂に案内して、席に自由に座って貰った。


 前世ではクラスで仲良いグループで固まったり、普段関わらないクラスメイトを省いたりしてたけど、スロリ町にはそんな雰囲気は一切なくて、全員が出来る限り前に座りたがるくらいだった。


 作り的には遠くなればなるほど高い位置になるので、身長差でひな壇が見えなくなるって事はない作りだから、最前列も喧嘩する事なく分けていた。



「では、これから『さんすう』を教えます~! 皆さんの机の下に木の箱があります! それを開けて見てください!」



 サリー先生の言葉に、子供達が一斉に木の箱を取り出す。


 二十センチ程の箱の中には、『完璧さんすう教室木の棒』が大量に入っている。


「この木の棒の名前は、『クラウド様による完璧さんすう教室の木の棒』です! さあ、復唱してください!」


「「「「クラウド様による完璧さんすう教室の木の棒!」」」」


「はいっ! よくできました!」


 サリー先生!?


 名前が色々変わり過ぎてるし、僕の名前が付いてるんですけど!?


「その木の棒は、我らのクラウド様の教えの大事な物です! 一つ一つ大切に扱ってください! もしも――――」


 ずっと笑顔の可愛らしいサリーだったが……もしも――――の後、しかめっ面になり、






「一つでも折ったりしたら…………」






 あまりの迫力に小さい子供が泣き出しそうだった。泣き出してないけど。


 ゆっくり右手の親指で自分の首を横切らせるサリー。


 その意味がどういう意味か、この場にいる全員が分かるはずだ。


 って!


 たった木の棒一つでそんな物騒な!?


 それからサリーの可愛らしい声が講堂に響き始めた。


 『賢者』らしく、説明もちゃんとしてて、黒板を使って足し算や数字をしっかり教えつつ、木の棒で数え方もしっかりしていた。

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