第44話 兄と妹と変態②

 ボロボロの家に変態を運んで、少し汚いベッドに変態を横たわらせた。


 取り敢えず、大事な所にはタオルをちゃんと置いておこう。子供に悪影響を与えそうだからね。


「ミリちゃん、こちらがパパさんなの?」


「そうだよ! うちのパパね、ものすごく強いんだよ! さっきみたいに飛んだり出来るんだ~」


 どうやらミリちゃんにはロスちゃんの咆哮でお父さんを吹き飛ばしたようには見えてなかったらしい。


 それもそうよね。こんな小さな犬の咆哮あんな飛び方しないからね~普通は。


 ちょっと派手に吹き飛ばしてしまって、気を失っているんだが……どうしたらいいものか。


 このままミリちゃんを置いて行く訳にもいかず、一旦ロクに現状を話しておいた。



「それにしても、お父さんってこんな時間でも家にいるの?」


「う~ん、最近は毎日いるんだ~、うちのお父さんね。冒険者だからな!」


「冒険者?」


 おお!


 遂に異世界と言えば、定番な冒険者!


 僕が前世で良くやっていたゲームは、基本的に主人公が勇者モノばかりだったけど、ゲームの中では主人公が冒険者から始まるゲームも多々あったのを覚えている。あまりやった事はないから何をするゲームなのが知らないんだけど……。


「冒険者か~魔物とか倒してくるのかな?」


「えっとね~魔物を倒す人はうちのお兄ちゃんみたいなハンターって言うの」


「ハンターか! じゃあ、冒険者は何をするの?」


「ん~、ん~、冒険?」


「冒険…………まぁいいか。お――――」


 流れで「お母さんは?」と口に出そうになったけど、急いで止めた。


 こんなボロボロな家。


 兄が危険なハンター。


 父が冒険者。


 総合的に考えると、奥さんは既にここにいないかも知れないからね。


 倒れている父親や置いておいて、ミリちゃんにはロスちゃんと一緒に遊んで貰う事にした。


 少し家の中を見て回る。


 予想通り、ボロボロな家で、ここら辺一帯は恐らく『スラム街』に近いだろう。


 僕が想像している『スラム街』ほど悪いモノではないみたいだけど、この家だけでなく、周りも中々なボロボロさだからね。


 暫く目を覚まさない父親の所為で、随分と待っていると遂に父親が起き上がった。


「いや! 起き上がるならそっちより本体が起き上がれよ!」


 思わず、ツッコミでミリちゃんの父親の頭を叩いた。


 その甲斐もあって、寝込んでいた父親が漸く意識を戻した。


「ん……ここは……はっ!? 俺は何故裸に!?」


「それは僕が聞きたいですよ!」


「ん? 君は……? ッ!? ミリ!! その化け物から離れ――――」


「大丈夫。僕の犬です」


「――――は? 犬? あれが?」


「ええ。僕の従魔なんですけど、可愛らしい犬でしょう?」


 信じられないモノを見るような目で、ロスちゃんと僕を交互に見つめるミリの父親。


 ロスちゃんが優しくミリに飛び込み、モフモフしている姿を見て、漸くおっさんも納得したようだった。


「それはそうと、取り敢えず、服を着て貰えませんか?」


「あ、ああ、そうだな……」


「そもそも何で裸なんですか?」


「ああ、ちょっと汗を流していたんだよ。そうしたらミリの声ととんでもない威圧感を感じて飛び出したのさ」


「なるほど……それは仕方ないですね」


 とんでもない威圧感がすごく気になるけど、まあいいか。


 そんなやり取りをしていると、外から騒がしい声が聞こえてきた。


 ん……何処かで聞いたような気が……。



「ティちゃん! ここからお兄ちゃんとの匂いがするわ!」


「サッちゃん! 直ぐに入ろう!」


「うん!」


 直後、ボロボロな家の扉が勢いよく吹き飛ばされた。


「扉がぁああああ!」


 おっさんが吹き飛ばされた扉に飛び上がった。


 すぐに家に突撃してきたサリーとティナ令嬢。


 そして、タオル一枚のおっさん。


 三人が対峙した。


「「「きゃぁあああああ!!」」」


 サリーとティナ令嬢のダブルビンタがおっさんに炸裂して、おっさんが家の奥に吹き飛ばされた。タオル一枚で。




 ◇




「「ご、ごめんなさい……」」


 サリーとティナ令嬢がおっさんに謝った。


 入ってすぐに吹き飛ばしたおっさんは、両頬にビンタの痕が残っていた。


 ミリちゃんがよしよししてあげていて、そんなミリちゃんが可愛らしい。


「全く……人ん家に入ってきて、いきなり吹き飛ばすなんて……なんて娘達なんだ」


「あはは……うちの妹と………………」


 ティナ令嬢の期待の眼差しが背中で感じられる。


「友人が大変失礼しました」


 刺すような視線と、暖かい視線を感じる。


 …………ティナ令嬢もこういう視線を送れるんだね……覚えておこう。


「全く……君達は面白いパーティーだね」


「パーティー?」


「魔物使いに賢者に聖女か。とんでもないパーティーだな」


「あれ? どうしてそれを?」


「ん? そりゃ……俺はちょっとした有名冒険者だからな。それくらい、見ただけで分かるよ」


 へぇ……見ただけで分かる能力でもあるのかな?


「そんな凄い方がどうしてこんなボロ屋で住んでいるんですか?」


「くっ……痛い所を突くな……」


「だってミリちゃんとか……」


「ふむ……まぁいろいろあるのさ。一応言っておくけどな、お金がないわけじゃないぞ?」


「そうなの?」


「この家から離れたくないのさ」


「ふぅん~」


「まぁ、そんな事はいいさ。取り敢えず、うちのミリを連れて来てくれてありがとう」


「いえいえ、これからはちゃんと服着てくださいね」


「元々ちゃんと着てるわ!!」


 ミリちゃんともバイバイして、家を後にした。


 サリーが非常にご機嫌に右腕に絡んで来て、ティナ令嬢がものすごく不機嫌に左腕に絡んで来た。


 流石にそれを拒否する勇気はないので、膨れているティナ令嬢を宥めながら辺境伯様の屋敷に向かった。

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