第43話 兄と妹と変態①

 スロリ森の村が完成して直ぐに、砂漠から歩いて来てくれたゴーレム達が到着した。


 ロクにもイアやハイエルフ達の紹介をして、ゴーレムたちにはスロリ森の更に東に行ったところにある『結晶の砂』が取れる洞窟の前で生活して貰う事にした。


 早速村に着いたロクの背に乗り、サリーがまた声を木霊させて遊び始めていた。




 今度はワルナイ商会から連絡が来た。


 どうやら『ソフトミスリル』を入荷出来たそうだ。


 真っ先に知らせに来てくれたのが、他でもないエンハスさんで、いつもクールなエンハスさんが鼻息を荒らしていたので、そのままワルナイ商会本店があるバルバロッサ領都エグザ街に向かった。




「お兄ちゃん」


 エグザ街に着いて早々、一緒に着いて来たサリーが声を掛けて来た。


「どうしたの?」


「私はこのままティちゃんところにいくね?」


「分かった~商談終えたら向かうね」


「うん!」


 最初に辺境伯様の所にサリーを下ろし、僕はそのままワルナイ商会に向かった。




「クラウド様、いらっしゃいませ」


「こんにちは」


「デミオ様からご用件は賜っております、こちらにどうぞ」


 受付嬢さんに案内され、倉庫に案内された。


 他の商品も沢山並んでいて、バルバロッサ領最大商会なだけあって品揃えや量がとても多い。


 その一角にプラチナ色の光り輝く金属が大量に置いてあった。


「こちらが『ソフトミスリル』でございます。非常に軽く柔らかいのですが、高い強度を誇る素材となっております」


「確か魔物の素材でしたよね?」


「そうでございます。隣国にしか生息地がないので、本国では輸入に頼っております」


「この素材って需要はあるんですか?」


「ええ、需要はとても高いのですが、必要とされる部門が限られているので、値段が高騰したりはしない訳でございます」


 なるほど……柔らかさは場合によっては、デメリットになるからね。


 この世界で素材や金属が最も使われるのは、間違いなく武具だろう。武具に求められるのは固さと硬さだろうから柔らかい『ソフトミスリル』はあまり使われないのだろう。


 恐らく、エンハスさんのような『魔技師』による『魔道具』作成で主に使われるのだと思われる。


「ご説明ありがとうございます! では、売れる範囲で売ってください!」


「はい、こちらの全てを持ってくださって大丈夫です」


「え!? 全部!?」


「はい、これは全てクラウド様の為に仕入れたモノですので、是非全て買ってくださいませ」


「分かりました。では全て購入させて貰いますね」


 それから受付嬢さんと値段の確認をして、金貨を十数枚渡した。


 運搬費用も込みではあるけど、中々の金額になった。


 後はスロリ町に運んで貰えるので、のんびり待つ事にしよう…………エンハスさんはまたもやソワソワしそうだけどね。




 『ソフトミスリル』の購入も終わったので、ワルナイ商会本店を後にして、ティナ令嬢の所に行こうとした時だった。



「待ってよ! お兄ちゃん!!」



 向こうでお兄ちゃんを追いかける女の子が見えた。


「は!? 付いて来るんじゃねぇよ! ミリは家に帰って!」


「や、やだ!! ミリもお兄ちゃんと一緒に行きたいの!!」


「お前が来ると足手まといになるんだよ! 早く帰れよ!!」


 そう言葉を残し、兄は妹を置いて走り去った。


 そのやり取りを見て、僕はいつかの勉強にサリーを残して狩りに出かける自分達を見てるような感覚だった。


 その場で大泣きしている妹のミリちゃんが見える。


 ふふっ、うちのサリーはあんな風にわんわん泣いてはいなかったけど、どこの家も兄と妹というのはああいう関係なのかな? さっきの兄の格好からみて、きっと仕事に向かったんだろうと思う。


 僕はわんわん泣いているミリちゃんに近づいた。


 頭に乗っていたロスちゃんをミリちゃんの前に見せる。


「ロスちゃんだよ~!」


「うわぁぁぁん――――えっ? お犬……?」


「可愛いでしょう! ふかふかしてるから触ってみるかい?」


「いいの?」


「大丈夫、ロスちゃんは優しいから噛んだりしないよ」


 ミリちゃんは恐る恐るロスちゃんの頭を撫でた。


「ふわふわして柔らかい!!」


「でしょう? うちの自慢の毛並みだから――――君、名前は?」


「えーっとね、私、ミリって言うの!」


「ミリちゃんか、お家まで送るよ。一人じゃ危ないからね。その間、ロスちゃんを抱っこしていいからね」


「やった!! お兄ちゃん、ありがとう!! ロスちゃんふわふわ!」


 ロスちゃんもミリちゃんの腕の中で平和そうな顔をしている。



 歩いている道の両脇には色んな店が点在していて、中には出店のような店もちらほら。


 とても活気がある印象だ。


 しかし、ミリちゃんに連れられ、商店街を通り過ぎ、一般住宅地を前に脇に入って行った。


 そこは一般住宅地区や商店街とはまるで違う雰囲気だった。


 そのまま歩き、とある家の前に止まるミリ。


「ここはうちの家だよ!」


 失礼かも知れないけど、とても家と呼ぶには難しいくらいボロボロだ。


 ロスちゃんが一鳴きすれば崩れ落ちそう。


 ミリちゃんが家に向かって「パパー!」と叫んだ。


 こんな真っ昼間からパパ?


 兄はまだ僕と同じ歳くらいなのに仕事に向かっていたのにな……。


 ミリちゃんの声を聞いてか、家の中からとある男性が出てきた。


「ん? ミリか…………!? ミリ!!!!」


 出てきた男性はミリを見つめると、急に叫んで走って来た。


「ッ!? ミリ! 危ない!! ロスちゃん! あの変態・・を吹き飛ばせ!!」


「がお~」


「ぎゃああああ」「パパ!?」


 ミリに向かって走って来るすっぽんぽんのおっさんに、ロスが一鳴きした。


 ロスから凄まじい風圧の咆哮が前方に広がり、すっぽんぽんの男があられもない姿で家に吹き飛ばされた。


「ぱ、パパ!!!」


 え?


 あれ?


 もしかして……あの変態・・がお父さん!?


 ボロボロの家に吹き飛ばされて、大事な場所を唯一のタオル一枚で隠していた変態を見つめた。


 ミリちゃんが、泣きながら変態を「パパ!」と呼びながら揺れ起こそうと必死にしていた。


 あ……これは誤解していたのかも知れない……。

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