第42話 スロリ森
数日後。
スロリ町にはたまに可愛らしい声で「お兄ちゃん~! 大好き~!」という声が木霊するようになっていた。
先日、僕は町民達に向けて発信した声を木霊させる魔法をサリーも使って見たいと言い出して、サリー担当のコメから木霊風魔法を出して貰っては、定期的にああやって「お兄ちゃん~! 大好き~!」って声を木霊させている。
たまに、アレンの「兄ちゃん~! 大好き~!」って声も響いたりする。
弟と妹のいたずらが微笑ましいんだけど、毎回お母さんに怒られるのは僕だけどね……。
そんな楽しい数日が過ぎ、遂にハイエルフ族の一団が到着した。
捕虜になっているダークエルフ族の一団も大人しくしていたそうだ。
町の中にティナ令嬢の姿がなくて全員がっかりしていたけど、大丈夫なんだろうか……。
ダークエルフ族の皆は、一旦、狢達の家の地下に幽閉する事にした。
彼らにはこれからとんでもない
ハイエルフ族の一団が到着したけど、まだ住む場所を決められず……というか、コメ達はどうしたのだろう?
荷物などを一時的に屋敷の中に入れ終わる頃、漸くコメ達が帰って来た。
【ご主人様! お待たせ!】
「やっと帰って来た! どうなったの?」
【バッチリだよ! 何処か好きな場所に連れてって!】
ん?
好きな場所に連れてって?
言われた通り、コメ達とレーラさんとで、住んで貰おうと予定していたスロリ町から東に行った所に広がっている平原に来た。
この平原は、更に進めば『結晶の砂』が取れる洞窟に行ける平原だ。
何もないただ広い平原だから、ここに家を建ててハイエルフ達に住んで貰おうと思っていた場所だ。勿論、お父さんの許可も取ってある。
ハイエルフさんが全員で百名程、スロリ町の中でもいいけど、高い所が好きと言っていたから、ここに山でも作ってしまおうかなと悩んでいた。
【では、紹介するね!】
コメ達が平原に広がり、くるくる回り始めた。
回っている場所の地面から緑色の光が現れ、魔法陣が一つ浮かび上がった。
そして、魔法陣から人のような形の緑色の輝く光が一体現れた。
「初めまして、わたくし、大樹の精霊ドライアードと申します」
現れた美しい女性は僕に向かって優雅に頭を下げた。
それを見ていたレーラさんが驚く。
「ドライアード様!?」
「あら、貴方はハイエルフ族ではありませんか?」
「は、はいっ! ハイエルフのレーラと申します」
レーラさんがその場で跪いた。
えっと……これは僕もそうした方がいいのかな?
コメ達が僕とドライアードさんとレーラさんの肩に乗って来た。
「あらあら、レーラちゃんですね。そんなにかしこまらないでください。本日はコメ様の要請でクラウド様の力になる為に来ました」
「え? 僕の?」
「はい、どうやらハイエルフ達の住処の為に森が必要だとの事でしたから」
「そうですね、向こうの森でもいんですけど、魔物とか多いですし、この平原が場所としては一番いいんですけど……」
「かしこまりました。この場所でよろしければ、わたくしにお任せください」
「えっと、はい。お願いします……?」
僕が想像していたモノと違う流れに少し戸惑って返事をしてしまった。
優しく「ふふっ」と笑みを浮かべたドライアードさんはその場で魔法の詠唱を始めた。
見ただけで魔法の詠唱なのは分かったけど、今まで見た事がある魔法の詠唱とは大きく異なっていた。
詠唱というより…………歌だった。
ドライアードさんの綺麗な歌声が周囲に響き、緑色を魔法の波動のような波が歌声と共に広がる。
とても幻想的な光景に目を奪われていると、次第に周囲の大地から草が生え始めた。
直ぐに一面が青くなり、草の間から木が生え始めた。
最初は小さかった木もどんどん大きくなり、ものの数分で顔を上に向かないと見れないほどに大きくなった。
「す、凄い…………」
思わず口に出してしまった自分の声に反応して我に返った。
やがて、ドライアードさんの歌が終わり、平原だった一面は見事なまでに森となった。
森に気を取られて気づいていなかったが、歌い終えたドライアードさんの身体が小さくなっていた。
元々は大人の女性の身体で、大樹の精霊と言うだけあって綺麗な明るい緑色の長い髪がとても魅力的で、聖母のような美しさを持っていた。
しかし、今は大人ではなく、少女に変わっている。
元々の美しさよりは、可憐さが目立つようになっていた。
「ドライアードさん!? 身体が!?」
「はい、我々ドライアードは支配下にある森の成長と共に成長します。わたくしは本来なら違う森を管理していたのですが、コメ様の要請によって、森は別なドライアードに譲りまして、わたくしはこちらの森を管理人となりました。ですのでまだ森が若い為、わたくしもこういう状態となります」
「ええええ!? ここに住んで貰えるのですか!?」
「はい、クラウド様、不束者ですがこれからよろしくお願い申し上げます」
「こ、こちらこそ! 歓迎します! ハイエルフさん達も皆さんきっと喜んでくれると思いますよ!」
「はいっ! 我々ハイエルフ族はとても嬉しいです!」
レーラさんがドライアードさんの手を引いて嬉しそうにしていると、スロリ町の東側にいきなり森が現れた為、町民やお父さん達もやってきた。
お父さん達に原因を説明している間に、レーラさんにはハイエルフさん達を引いてドライアードさんの紹介やら、森の状況を確認したりと慌ただしい時間が過ぎていった。
数日間。
鍛冶場をフル稼働させて、森のハイエルフ達の家を急いで建てた。
家を建てるスキルがあると、とんでもない速度で家が建ち始めた。
ハイエルフ達の中にも鍛冶やら制作のスキルを持ってる人もいて、一緒に森の中にハイエルフ族の村を作りあげた。
既に木材は沢山用意してあったのもあって、完成まで数日で終わるなんて、本当に凄い世界だ。
森の名前は『スロリ森』と名付けて、ハイエルフ達の村は『スロリ森の村』と名付けた。
それと、ドライアードさんにも名前を付けた方がいいとロスちゃんから言われ、ドライアードさんに確認したら、是非名前を賜りますとの事で、ドライアードさんの名前は『イア』と名付けた。
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