二章

第41話 木霊する十文字

 色んな事があった森の村でのお泊りからスロリ町に帰って来た。


 真っ先にお父さんにハイエルフ族を迎え入れる話をつけた。


 ティナ令嬢と執事のアルフレッドさんも既に辺境伯様の所に帰って行って、今回の件の報告をお願いしておいた。


 一応、これからの件もあって、コメ達の一匹をティナ令嬢に付かせる事になった。


 ティナ令嬢がホリを抱っこして、肩にコメを乗せると、「これでクラウド様とお揃いだわ!」と無邪気に喜んでいた。


 それを見たサリーからも無言の圧力があって、コメの一匹をサリーに付ける事にした。


 しかし、この時、僕はとんでも事をしていたのだ。


 まさか……コメ達によってあんな事になるとは、この時の僕は想像だにしていなかった。




「お父さんにはハイエルフ族の受け入れの許可も貰えた事だし、あとは住処が問題だね」


「ありがとう!」


 目の前のレーラさんがとても嬉しそうにしている。


 ハイエルフ族が来るまで数日かかるのだが、お父さんにハイエルフ族である事を証明するために、レーラさんには先に一緒に来て貰った。


「レーラさん達ってお家を木々の上に建ててましたよね?」


「そうね~、私達は風と共に暮らしているので、木の上の方が安心するかな!」


 ハイエルフ族の得意なのは風魔法らしくて、木一つ分を軽々と飛び上がっていたし、降りていた。


「ん……森で住んで貰ってもいいけど、ちょっと遠いね、お父さんからは何処に住んで貰っても構わないと許可を得たから…………どうしようかな」


 と悩んでいると、コメ達が飛び上がった。


【ご主人様! 私達に任せて!】


「ん? コメ達が何とかするの?」


【うん!】


 そう話したコメ達は一匹を残し、全員が何処かに飛んで行った。


 良く分からないけど、この一件はコメ達に任せる事にして、僕はエンハスさんの所にお邪魔した。


 エンハスさんは届いた土ゴーレムの核で早速『エレメント抽出器』の核の部分を作っていた。


 いつもはクールだけど、物を作っている時のエンハスさんはものすごい自画自賛しながら作っていて、遠くからみると怪しさしか感じないのよね……。


「ん? これはこれはクラウド様! 見てください! これが『エレメント抽出器』の核の部分になるモノです! 後は『ソフトミスリル』で枠を作り、『水の魔石』をセットすれば完成です! この美しいフォルムどうですか! 僕が作ったモノはそこら辺の『魔技師』なんかよりも芸術性にも優れて性能まで高いと自負しております! これからのスロリ町にはかけがえのない品になる事でしょう! この魔道具を見る度に作った僕の名前が皆さんに伝わる! これほど嬉しい事はありません! 更にはクラウド様に認められて、多くの研究や魔道具作成に関われるなんて、これほど嬉しい事はありません! さあ、クラウド様! 急いて『ソフトミスリル』をお願いします! そうすれば、たちまち完成した――――――」


 バタン。


 僕は盛り上がっているエンハスさんを置いて、部屋を後にした。


 うん。


 部屋の外でもさっきの会話続いていて怖い。


 エンハスさんはものすごく仕事が出来てクールなイケメンなのに、どうして制作中はあんな風になってしまうのだろうか……。


 因みに、あれを放置しておくと一時間くらい喋り倒すので、気にしないで帰る事にしている。


 エンハスさんは楽しそうだし、これからも頑張って欲しいけど、その心配はいらなさそうね。




 鍛冶場やお店を巡り皆さんの頑張っている姿を確認した後、お父さんに言われていた町民達にハイエルフ族の受け入れの件を伝える事にした。


 町民達を一か所に集めないといけないんだが、こういう時は事前に連絡をしておいて、招集の鐘を鳴らすのが今までのやり方だ。


 しかし、これだとものすごく時間がかかる。


 ハイエルフ族が数日で来るはずだから、その準備とかも考えるとあまり時間をかけたくはない。


 そんな事を思っていると、肩に乗っていたコメから【それも私に任せて!】と話した。


「どうするの?」


【これから私の魔法で町内にご主人様の声を届けるよ! えいっ!】


 コメから可愛らしい掛け声の後、目の前に目に見えるくらいの緑色の風の塊が現れた。


 触ってもいいとの事で恐る恐る触ってみると、感触的にも形的にもわたあめだった。わたあめは触ると直ぐに溶けて手がベタベタになるけど、この風の塊は全く変化はない。


 少し強く押してみても、形は変わるけど、直ぐに元の形に戻った。


【その風の魔法にご主人様の声を入れると、ここから周辺に声が響くようになって、皆に聞こえるようになるよ~】


「ほえ~それは凄いね」


 ――「ほえ~それは凄いね」


 ――――「ほえ~それは凄いね」


 ――――――「ほえ~それは凄いね」


 うわあああ!


 自分の声が周辺に木霊こだましていく!


 山の上で叫んだ声が反響して木霊するのと似た感覚だった。


 直後、僕の声を聞いた町民達がみんな驚いてしまった。


「こほん、これから連絡をします、これは風魔法で皆さんに聞こえるようにしています!」


 ――「こほん、これから連絡を」


 ――――「します、これは風魔法で」「こほん、これから連絡を」


 ――――――「皆さんに聞こえるよう」「します、これは風魔法で」「こほん、これから連絡を」


 うわああああ!


 反響した言葉が二つの言葉が一つに重なって、更に三つの言葉が一つに重なって聞こえるよ!


 言葉が重なって、最早何言ってるのか全く分からないよ!!


【あ! 言うの忘れた! ご主人様、その魔法はピッタリ十文字だけしか送れないからね!】


 なにその十の発音じゃなくて、十文字という変なルール。


 漢字いっぱい使ったら多い発音を送れるって事なのかな?


 この世界では漢字なんで使われてないはずなんだけどな……?


 まぁ……それは取り敢えず置いておくか。


 この魔法に語り掛ける時は、十文字分だけを考えて喋らないといけないのね。


「皆さん、これは魔法です」


 ――「皆さん、これは魔法です」


 ――――「皆さん、これは魔法です」


 ――――――「皆さん、これは魔法です」


 おお!


 ちゃんと十文字分だと綺麗に響くな。



 それから十文字分ずつ、「これから連絡をします」、「これから新しい住民」、「増えますよ」、「異種族だけど仲良くね」と四回に渡って連絡事項を終えた。


 一回一回に割と時間を使うので、これから連絡する時は紙にでも書いて話す内容を決めておかないと、意外と大変かも知れないね。






「あらあら、領主様の息子様がまた面白い事をしてらっしゃるな」


「んだな~今度は変な魔法で遊んでらっしゃるのかね~」


「それにしても、あの声が重なって聞こえるのは、凄い経験だったね」


「そうだな、声ってあんなにぴったり揃うと、あんなに気持ち悪いなんて知らなかったよ」


「んだんだ」


 その日、スロリ町の町民達は不思議な体験をして、そのうちクラウドの重なった声が悪夢に出るような人まで現れた。




 その日、クラウドはお母さんにめちゃくちゃ怒られた。

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