第40話 とある業界ではご褒美です

 ハイエルフ達のスロリ町への移住が決定した。


 満場一致で僕が族長になって、基本的に族長の意思で生きていくらしくて、移住はすんなり決まった。


 それからダークエルフ達をどうするかの話になった。


 このまま逃がしてもいいんだけど、また敵になって貰っては困るからね。


 捕虜として一旦スロリ町に連れて行くになった。


 ハイエルフさん達がダークエルフ達を全員集めて連れて来た。


 全員で三十名程。


 その中でも一番ボロボロになっている男がリーダーらしいけど、ロスちゃんから人の中ではとても強い方だとの事だ。


 暴れると大変になるかも知れないらしくて、他のダークエルフ達と比べて三倍くらいぐるぐるに巻かれている。


 巻いている緑色の紐のようなモノは、コメ達の拘束魔法との事だ。


 それにしてもダークエルフ達がボロボロ過ぎだね……。


 ウル達が頑張ってくれたみたいで、とても心強い!


 ウル達一匹一匹に労いの撫で撫でをしてあげた。



「それにしてもボロボロだからダークエルフ達が途中で命が途切れてしまうんじゃないか心配だな……」



 そんな事をボソッと呟いたら、隣で聞いていたティナ令嬢が手を上げた。


「クラウド様! 私に任せて!」


「えっ? ティナ様?」


「私、聖女だから、回復魔法なら………………任せといて!」


 ちょっと待って!


 そのは何!?


 なんかものすごい不安を覚えるんだけど!?


「え、えっと……ティナ様? あまり無理はしなくていいですからね?」


「う、うん! 大丈夫! 頑張る!」


 返事が片言になってない?


 本当に大丈夫かな!?



 そう話したティナ令嬢が縄に縛られているダークエルフ達に向かった。


 ダークエルフ達も既に意識があるようだけど、既にボロボロなのと、口まで防がれているから死んだ魚のような目で落ち込んでいた。


 そんな彼らの前に、ティナ令嬢が堂々と立った。ちょっと表情固いけどね。


 ティナ令嬢が大きく一つ深呼吸する。


 そして――――




「聖なる力よ! 我の声に応えよう! 癒しの光を! ヒーリング!」




 ティナ令嬢の両手から、眩い光が溢れ出した。


 出した。


 うん。


 出たんだけど。


 僕が知っているヒーリングの光って、こう、人を包むような光が広がるはずだ。


 お母さんが使っている所を何度も見ているからね。


 なのに。


 ティナ令嬢が出した光は……全く広がらない。


 寧ろ……集まっていた。






 ――――彼女の手に。






 直後、僕には想像だにしなかった光景が広がった。


「えいっ!」


 と声を出したティナ令嬢が……手に光が集まったまま、平手打ちビンタをした。


 えええええ!?


 平手打ちされたダークエルフ達の打たれた箇所から光が広がる。


 でもティナ令嬢の手に集まっている光が全く減ってない。


 そのまま次から次へ平手打ちをしていくティナ令嬢。


「てぃ、ティナ様! ちょ、ちょっと待って!」


「えっ? クラウド様、どうしたの?」


「えっと、色々聞きたいのはあるんだけど、どうして……平手打ちを?」


「えっ!? …………その……私、光魔法の放出が苦手で……こうして手に集めないと使えないの……」


 ……。


 ……。


 ……。


 ???


 魔法ってそもそも『撃つ』モノじゃないの?


 それを全て手に収束させるなんて……寧ろ、凄すぎるのでは!?


「ま、まぁそれはいいか……それはそうと、ティナ様」


「うん?」


 ちょっと不安そうな表情になるティナ令嬢。


「その平手打ち……手とか痛くなりませんか?」


「えっ? ――――――全く大丈夫! この状態だと私も回復するから、痛みとかも全くないわ!」


「それならいいんですけど……では、他のダークエルフ達もお願いしますね?」


「うん! 任せて!」


 やる気に満ちたティナ令嬢は、ダークエルフ達の頬を次々と叩き続けた。


 心なしか叩かれたダークエルフ達の顔から活気が出ているように見えるんだけど……。


 ティナ令嬢が全員を叩き終えて、最後にリーダーを叩いて回復を終えた。


 ダークエルフ達の回復を終えて、ティナ令嬢がこちらに向かって来た時、後ろのダークエルフ達から一斉に声を揃えていた。




「「「聖女様のご褒美ビンタだー」」」




 ◇




「貴方がダークエルフ一団のリーダーですよね」


「…………」


 少し怖い顔ではあるが、思慮深い瞳が感じ取れる。


 静かに顔をあげた彼は、僕の頭の上に乗っているコメ達に見つめた。


「コメ達が気になります?」


「…………コメというのは、その小鳥の事か?」


「ええ、そうです」


「…………元の名は……『シルファ』……なのか?」


 見てないけど、コメ達の表情がめちゃ強張ってる気がする。


「僕の従魔になったので、コメと名付けたのですから」


「…………もう一つだけ……『風神の短剣』を解放したのは……君なのか?」


 じーっと僕の目を見つめてくる。


 自分達の命を狙っていたとはいえ、彼らからはそれほど邪悪な感じはしない。


 それに、ゲントン爺さんを亡き者にしていない事に少しだけ好感が持てた。


 それによくよく考えたら、眠り薬を入れただけで、毒薬や痺れ薬を入れた訳ではない。


 雰囲気からして、恐らく『風神の短剣』だけを狙って、戦いになったら戦ったのかも知れないけれど、そうならないように眠らせる方法を取ったのが理由かも知れない。



 僕は静かに腰に掛けていた短剣を取り出した。


 美しい翡翠色の刀身が日の光を受けて、その美しさを更に引き立たせていた。


「まさか……人間の中で生まれるとは…………神よ……我々ダークエルフにはその機会すら与えてくださらないのか…………」


 リーダーの両目からは大きな涙の粒が流れた。


「貴方達がどうしてこの短剣を狙ったのか、どうしてここを襲撃したのか、そういうのもろもろ聞かせて貰いますよ? 取り敢えずは暫く捕虜になって貰いますからね、決して、自ら命を絶とうなんて思わないでくださいね、もしそうした場合……貴方が住んでいた町を襲撃しますからね」


「…………そんな心にもない事で脅してくるか……俺も部下の命が惜しい。自分の命ならいくらでもくれてやるが……部下の為なら言われた通りにするのはやぶさかではない」


「それでいいです。では今度はうちの町で会いましょう」




 こうして、森の村での祭りから裏切りによる襲撃の一連の事件が終わりを迎えた。


 ハイエルフ族だけでなく、ダークエルフ族にも大きな問題を抱えていそうな気がする。


 そんな問題を抱えたまま、僕は始めての冒険を終えてスロリ町へ帰って行った。


 それから数日して、ハイエルフ族がダークエルフ族の捕虜を連れスロリ町に到着した。



――――【一章終了】――――

 日頃『転生してあらゆるモノに好かれながら異世界で好きな事をして生きて行く』を読んでくださる読者様、ありがとうございます!

 皆様の日頃の応援のおかげで、40話を迎える事が出来、大変嬉しく思います!

 二章も一章以上に面白い話を繰り広げられるように頑張りますので、この先も応援の程、宜しくお願い致します。

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