第39話 新たな従……魔?

 朝になって、僕達は泊っていた馬車から降りて、顔を洗って森の村の広場に向かった。


 おお…………ハイエルフさん達がとても楽しんだようで、広場のあちらこちらに寝転がっていた。


 そんな中、後ろからコメ達を背中に乗せた可愛らしいロスが近づいて来た。


【ご主人! 報告があるよ!】


「ん? ロスちゃん、どうしたの?」


【実は、昨日、ハイエルフの中に裏切り者がいて、料理の中に強力な睡眠薬が入れられていたの】


「へ?」


【その後、敵が襲撃して来たので退治しておいたよ!】


「えっ??」


【取り敢えず、褒めて!】


 ロスから爆弾発言でポカーンとしながら、全力でロスを撫でまわした。


 コメ達も手伝ったらしくて、一緒に撫でまわす。


 右手でロスと、左手で一か所に纏まったコメ達を対応する。


 ぎゅうぎゅう状態のコメ達がめちゃくちゃ可愛い。


「お兄ちゃん、おはよう! 朝からどうしたの?」


 サリーがレーラさんとアイラ姉ちゃんと歩いて来た。


「えっとね、ロスちゃんからね、裏切り者がいて料理の中に睡眠薬が入れられていて昨日の夜襲撃があって退治した。と言われたんだよ」


「……たった一言なのに凄い色んな事が入っているね」


「く、クラウドくん!? 裏切り者って何!? そこ詳しく教えて!」


 レーラさんが食いついて来た。


 それもそうよね、この場合の裏切り者って、自然とハイエルフ族の中からって事になるだろうから。


「ロスちゃん、その裏切り者とか、敵とか、もうちょっと詳しく教えて」


【うん! 裏切り者は向こうの家に住んでいる老人のハイエルフだよ!】


 ロスは短い手で向こうの家を指さ…………前足で指してくれた。


「レーラさん、あの家の老人のハイエルフさんが裏切ったそうですよ」


「え!? ゲントン爺さん!?」


 レーラさんが爺さんの家に走って向かう。


 取り敢えず、流れ的に僕達も付いて行く。


 家の中に入ってみたが、もぬけの殻だった。


【既に敵にやられたからそこにはいないよ?】


「レーラさん、どうやらその爺さんは既に敵にやられたって……」


「っ! …………分かったわ。直ぐにお父さんに知らせに行かなくちゃ!」


 レーラさんが全力で何処かに走り去った。


「お兄ちゃん……なんか凄い事になったね」


「そうだな。僕はアレンくん達に教えていくから、サリーはお母さん達にお願いね?」


「うん!!」


 僕達は分かれてそれぞれの知り合いに報告をした。


 丁度報告が終わり、広場に集まった頃、レーラさんと族長のヘリオンさんも来てくれた。


「クラウド様、裏切りの件は……どうやら真実のようでございます。森の奥に縛られていたゲントン爺さんと…………ダークエルフの数十人を確保しました」


「ロスちゃんの言った通りなんですね……ゲントン爺さんはどうして?」


「……申し訳ございません、彼が人間を嫌っているので、クラウド様が『風神の短剣』を持った事に不満を持っていた可能性がございます」


「元々はハイエルフさん達が守っていましたからね、僕としてはいつでも返しますが……コメ達から怒られそうですけどね」


「はい、その短剣は既にクラウド様の物です。これからもコメ様をよろしくお願いいたします」


「それはもちろん、コメ達は僕の従魔になってくれましたから」


 納得したように頷いたヘリオンさんは、その場で土下座をした。


「えっ!? ヘリオンさん!?」


「クラウド様、我が一族の者の所為でクラウド様並びにご家族様を危険に晒してしまいました……どうか、私の首一つで一族の罪を許してくださいませ」


 直後、ヘリオンさんは顔をあげ、腰にかけていた短剣を取り出した。


 その行為が何を意味するのかくらい僕にも分かっていた。


「お父さん!!!」


 レーラさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。


「コメ!!」


【あいさ!!】


 僕の頭に乗っていたコメ一匹が一瞬でヘリオンさんが持っている短剣に突撃した。


 カーン!


 コメがぶつかった短剣が、ヘリオンさんの手から奥に飛ばされた。


 僕も急いでヘリオンさんの元に駆けつける。


「ヘリオンさん!」


「く、クラウド様……」


 僕はヘリオンさんの前に着いて直ぐに思いっきりヘリオンさんの頬を叩いた。


 ベシッ!


「!?」


「ヘリオンさん! 今の痛みを忘れないでください! 僕は命を軽く扱う人が大嫌いです! ヘリオンさんは自分の命で罪を償おうとしてますけど、そんな事で償われても嫌ですし、罪だとも思ってません! 自分の命の重さをちゃんと自覚してくださいね! 死んでしまったら……悲しむ人が沢山いる事を――――――ほら、見てください」


 僕は後ろに集まっているハイエルフ達とレーラさんを見つめた。


 ヘリオンさんも涙を流し、彼女達を見つめる。


 ハイエルフ達とレーラさんの安堵の涙が、彼らの深い絆を示すかのようだった。


「ヘリオンさん、これからは今のような事は絶対にしないでくださいね?」


「――――はい……我々ハイエルフの古いおきてです……既に古いのですが、これで掟も無くさねばなりませんね……」


「掟は大事だとは思います……ですが、それも命あってのものです。絆あってこそのものです。それを越えた掟なら……僕は壊すべきだと思います」


「…………はい。此度は大変申し訳ございませんでした」


「種族によって掟や文化も違うでしょうからそれをとやかく言うつもりはありません。でもヘリオンさんから『風神の短剣』を持った僕がこれからは族長になると仰いましたね? これからのハイエルフさん達の命は族長の僕が持ったと言っても過言ではありません! つまり、皆さんはこれから僕の所で馬車馬のように生きて貰いますからね!」


 近くに来てくれたレーラさんと、後ろに並んでいたハイエルフ達が一斉に僕の前で跪く。


「「「我々ハイエルフ族一同、これからクラウド様に忠誠を誓います!!!」」」


 うん、うん!


 これから皆には命の大事さをちゃんと教えないとね!


 それと掟というのが気になるから、後でレーラさんにも聞いておこう。






「ねえねえ、お母さん?」


「どうしたの? サリーちゃん」


「今まで沢山の魔物達がお兄ちゃんに跪いてきたのね」


「そうね。いつも話してくれてるから覚えてるわよ?」


「……今度はハイエルフなのかな~って」


「あ……言われてみれば、魔物を越えてしまったわね」


「どうしよう……これから異種族から隣国人とか…………従魔? 従人? 沢山連れて来たらどうしよう……」


「それは困るわね…………お父さんにも相談しておかなくちゃ」


「お父さんとお母さんは大変そうだけど……お兄ちゃんは楽しそうだね」


 エマとサリーはハイエルフ達に囲われているクラウドを微笑ましく見守っていた。――――内心焦りながら。

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