第38話 襲撃、黒いエルフの一団

 森の村に深い闇が訪れた頃。


 ハイエルフ達の若者は酔いつぶれ、地面で眠っている者も多々見えていた。


 クラウド達も既に眠気に負け、馬車内で眠っていた。


 虫の音一つ聞こえない静寂が不気味さえ感じられていた。


 そんな静寂の闇の中を静かに動いている一団がいた。


 彼らは森の村の近くで止まる。


 暫く一団が身を隠していると、向こうから老人のハイエルフが一人出てきた。



「来たか……」


「はぁはぁ…………ま、待たせた…………」


「ちゃんと全員眠ったのか?」


「あ、ああ、間違いない。全員眠りに着いた」


 老人ハイエルフは懐から怪しい瓶を一つ取り出す。


「言われた通り、満遍なく料理に入れたぞ」


「そか、これで……お前たちハイエルフ族を解放・・してやるぞ」


「あ、ああ! 人間なんかに媚びるハイエルフ族を解放してやってくれ!」


 その瞬間、老人ハイエルフがその場で倒れた。


「勿論解放してやるとも! グーハハハハ! 風神の短剣は我々が頂くとしよう!」


 一団の一人がご機嫌に笑う。


 その反動で深くかぶっていたフードから顔が露になった。


 そこにはハイエルフ族と同じ顔立ち、尖った耳だが、ハイエルフ族とは違い肌が闇のように黒いエルフであった。


 彼が右手を上に上げて、前に傾ける。


 一団は一斉に森の村に向かって飛び込んだ。




 ◇




【みんな! 動いたよ!】


【りょうかい! ウル隊散開!】


【【【ハッ!!!】】】


 寝静まった森の村から、ファイアウルフのが村の外に飛び出た。


【コメ達は後方をお願いね】


【ロス司令、りょうかいで~す!】


 ロスの周りの小鳥七匹が空の向こうに羽ばたいて行った。


【ロス司令、私も出るわよ?】


【ロクもありがとう! 私は正面を守るね】


【任せたわよ!】


 続いてロクが森の向こうに飛び出て、ロスがゆっくりと正面の入口に立った。




 ◇




 森の村に近づく一団。


 彼らはそれぞれ武器を持っており、これから森の村を蹂躙する予定だった。


 しかし。


 森の村が見え始めた直後、彼らのうち数人が闇の中に消えていった。


「!? 全員集合!」


 男の声で散っていた一団が一か所に集まった。


「…………7人減ったか」


 素早く現状を確認した男は鋭い目で回りを見渡す。


「闇に震わしモノよ! 我の声に応えよう、全てを飲み込め! ダークスワロウ!!」


 男の手から禍々しい暗闇が放たれ、周りの飲み込み始めた。


 しかし、直後、向こうからとんでもない赤黒い炎が闇を飲み込んだ。


「なっ!? 俺の魔法を飲み込んだ!? ちっ、姿を見せろ!」


 男の声に応えるかのように、上空から一匹の鳥が降りていた。


「…………は? ロック鳥!?」


 その圧倒的な姿に黒いエルフ達が目を奪われた。


 彼らが気を取らていた時、周りから静かにファイアウルフが大量に囲み始めた。


「くっ!? ファイアウルフの大軍だと!? そんな……馬鹿な……」


 あまりの出来事に判断が遅れた黒いエルフ達をファイアウルフたちが襲った。


「ちっ! 全員退却!」


 という声が響いたが、それに反応出来る者は誰もいなかった。


 直ぐに引き返した男だけが、その場から逃れる事が出来た。





「く、くそっ! なんなんだ! あんな強力な魔物の大軍がいるって聞いてないないぞ!」


 悪態をつきながら平原を走る男だったが、向こうに見えたあるモノが目に入った男が、その場で立ち止まった。


「あ……は? そ、そんな馬鹿な! な、何故!!」


 男の手が震え始めた。


 そんな男に容赦のないの魔法が襲い掛かる。


 男は涙を流し、抵抗する事なくその魔法を受け止めた。


「我々はとんでもない事を――――」


 風魔法に吹き飛ばされた男が、失う意識の中、小さく呟いた。




 ◇




 暗い森の向こうから、七匹の小鳥達が森の村に戻って来た。


【コメ達もお疲れ様~】


【ただいま~ロス司令】


 コメ達がそのままロスの背中に載る。


 小さいロスだが、コメ達も小さい分、全く違和感がない。


 その周りには何倍も大きい狼達が顔を下げていた。


【ウル達もお疲れ様! もういないとは思うけど、村の周辺の警備は任せたよ!】


 ウル達の一斉の【ハッ!】という返事の後、速やかの村の周囲に散って行った。


 そして、空からロクがロスの前に降りて来た。


【それにしても、ご主人様の能力のおかげで便利になったものだわ~】


【ご主人の新しいスキルは、とても便利ね!】


【それぞれの従魔同士で遠距離念話が可能になる……思っていた以上にとんでもないスキルね】


【うん! これがあればご主人の警備ももっと楽になる!】


【そうね、ティナ嬢ちゃんの所の子とも念話が通じるのはいいわね】


【そうね! ご主人を通さなくても向こうの状況が分かれば、ご主人の為にもなるし】


【ええ、それはそうと、私はそろそろ向こうに戻るわよ?】


【あい~ここは私とコメ達に任せといて!】


 一度合流したロクだったが、元のゴーレム達の道案内に戻って行った。



【そう言えば、コメ達も敵の捕獲ありがとうね】


【あい! あのままにして置いても逃げられないはずよ】


【うん! 後はハイエルフ達に任せよう】


 ロスとコメ達は悠々と、ご主人が眠っている馬車に戻って行った。




 ◇




 その頃、森の村からは遥かに遠い場所に一頭の鳥が飛んできた。


 鳥はそのまま、とある家の窓を口ばしで優しく叩くと、窓が開いた。


ようやく来ましたか…………」


 黒い肌、魅了するかのように澄んだ青い瞳の若いエルフが飛んできた鳥の足に掛かっていた小さな筒から紙を取り出した。


「――――――なるほど、風神の短剣の居場所が見つかりましたか……流石はお父様です。これはこのまま吉報を待つだけですね。これで……我々ダークエルフ族にも光が…………」


 若いダークエルフは遠くの父親の面影を思いながら、いずれ届くだろう『風神の短剣』を楽しみに待っていた。


 ダークエルフの神童にして、並外れた魔力を持って生まれた彼はダークエルフ族の希望となり、ダークエルフ族の中から『風神の短剣』の主として、期待を一身に背負った族長の息子であった。


 多くの光の者から蔑まれてきたダークエルフ族の希望は、自分の父親の帰りを楽しみにしていた。

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