第36話 祭りの始まり
テントを出ると、森の村はお祭り騒ぎだった。
既にレーラさん達が沢山準備していてくれていたみたいで、準備もスムーズに進んだ。
それにしても、まだ祭りは始まらない。
僕が外に出た瞬間、村中に一瞬の緊張が走った。
あれ?
皆さん?
どうして僕をそんな不安そうな目で見つめているの?
足を止めた僕に、後ろにいたお母さんから、
「実は、この祭りも全てクーくんの許可がないと始まらないの。一応私が進めておいたけど、ちゃんとみなさんに許可を出してあげてね?」
えええええ!?
歓迎会という名の祭りと聞いていたのに、どうして僕が許可を!?
するとヘリオンさんが続けた。
「実は、我々ハイエルフ族は『風神の短剣』の持ち主を崇める
えええええ!?
僕、いつのまに族長になっちゃったの!?
コメ達がまたもやドヤ顔のまま、僕の頭と肩の上に乗って来る。
その姿に、ハイエルフ達から「おお~」って歓声があがった。
「こほん、まだハイエルフさん達については良く分かりませんが、今日のこの日から、良き仲を築きたいと思ってます! 僕が許可を出すのも変だとは思いますが、今日はいっぱい楽しみましょう!」
「「「おおおー!!!」」」
歓声が上がり、緊張していた面々が緩くなり、祭りが始まった。
◇
「「「に、肉だ!!!」」」
若いハイエルフ達の第一声。それは肉。
お母さんの絶品肉料理に、匂いだけで涎を垂らしたハイエルフ達が群がった。
レーラさんが最初の一口を食べる。
若者の面々がレーラさんの次の言葉を待っていた。
「ん!?!? う、美味過ぎる!!!」
レーラさんの一言で、枷が外れたように若者達が目の前の肉にかぶりついた。そして、
「「「死ぬほどうめぇ!!!!」」」
若者全員が泣きながら肉を貪り尽くしていた。
お母さんの肉料理は天下一品だからね~。
隣で一緒に見ていたお母さんも満足げに見つめていた。
「お母さんの肉料理、大反響~」
「そうね、とても嬉しいわ。これもクーくんのおかげね」
「え? 僕のおかげ?」
ふふっと笑みを浮かべるお母さん。
「クーくんは幼い頃から肉をあまり食べなかったから、クーくんにパクパク食べて貰えるような美味しい肉料理をずっと練習したからね~おかげで今では肉料理ならお手の物よ!」
えええええ!?
確かに僕は肉より野菜派だけど…………あ、言われてみれば、幼い頃も野菜ばっか食べてた気がする……。
シチューに入っていたゴロ肉もあんまり食べなかったっけ。
意外とそういう所まで気にしてくれていたんだ……。
お母さんの温かい愛情が伝わって来た。
ハイエルフ達が涙を流してまで食べているあの肉料理は、そういう愛情もこもって更に美味しいのだろうね。
お母さんが誇らしくて自然とドヤ顔になる。
「それとね、クーくんがいつも野菜を食べてくれるから、アレンくんとサリーちゃんの野菜嫌いも簡単に克服出来たんだよ?」
「え? そうだったの!?」
全くの初耳だ。
「そうなのよ。お兄ちゃんが食べるなら私達も食べるーって、嫌そうな顔で食べる姿がまた可愛らしかったわよ~ふふふっ」
あ~何となく想像出来てしまった。
そういや、アレンとサリーは何をしているんだろう?
周りを探してみると、宴会場の真ん中の焚き火の近くでアレンとアイラ姉ちゃんが、ティナ令嬢とサリーが踊っていた。
前世でも学んだことがあるフォークダンスだった。
というか、まんまフォークダンスなんだね?
ゆったりと、手を繋いで足をクロスさせたり、リズムよく拍手したり、女子がぐるっと回る感じだ。
それにしても、まだ本格的なダンス時間ではないみたいだから、演奏も練習な感じ。
もしかして……アレンとサリーってダンスの練習をしているのか?
「あら、お兄ちゃんは踊りの練習しなくていいのかしら?」
「ん? 僕も踊るの?」
「もちろん踊るわよ?」
「う~ん、でも練習はいいかな」
「あら? クーくん、踊れるの?」
「なんとなく?」
「あらあら、いつの間に……抜け目がないわね」
お母さんが小さく呟く。
だって……一応向こうでも練習していたし。
なんとなく、サリー達の踊っているのを見るだけで覚えられそうだ。
サリーがティナ令嬢に教わっている所を眺める。
ぴょんって回転する所がとても可愛らしい。
ティナ令嬢も令嬢様というだけあって、リードがとても上手くて、ダンス初経験のサリーが伸び伸び上達していく様を眺めているだけで微笑ましい。
ちゃんと出来た時には、お互いに見つめ合って楽しそうに笑っているし…………偶に仲悪いのはどうしてなのだろうか? 本当に女性の事は分からない事だらけだ。
アレンとアイラ姉ちゃんの進み具合もいい感じだ。
アイラ姉ちゃんのリードが良いからなのか、アレンは既にほぼ完璧に踊っている。
アレンって思っていた以上に物覚えが良いみたい。いつも剣ばかり振っていたけど、ここに来てからは剣だけでなく色んな事に興味を持つようになって良かった。昨日の夜、不安がっていたアレンだったけど、すっかり吹っ切れたようで、兄としてとても嬉しい。
ん?
アイラ姉ちゃんがチラッチラッとこちらを見ている気がする。
どうしたのだろうか?
お母さんの事が気になるのか?
「クラウドくん!!」
後ろからご機嫌な声が聞こえた。
後ろを振り向いたら、レーラさんが嬉しそうにしていた。
「レーラさん! 楽しんでますね」
「ええ! クラウドくんのお母様! あのお肉の料理、とっっっっても美味しくて、ありがとうございます!!」
「あら、レーラちゃん、お腹いっぱい食べてくれたかしら?」
「はい! 他の仲間達も満足しています!」
「それは良かった、作った甲斐があったわ」
お母さんは料理を褒められると喜ぶ傾向がある。
大勢に向けて大量に料理するのは初めての経験だと言っていたけど、どうやら楽しかったみたいで良かった。
…………これで街で炊き出しとかやってみようかな?
「クラウドくんは踊らないの?」
レーラさんがウキウキしながら僕の隣に座った。
「ん~、本番で大丈夫かな?」
「へぇー! 流石お兄ちゃんは違うね!」
「そりゃ! サリーちゃん達のお兄ちゃんだからね!」
ドヤッ!
ん?
刺されそうな殺気が僕に向いているような気がするんだが……?
向こうから土煙が上がり始めた。
「お兄ちゃん!!」「クラウド様!!」「クラウドくん!!」
えええええ!?
三人ともどうしたの!?
「あらあら……うちのクーくんは大人気ですわね……私も頑張らないとっ!」
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