第35話 風神の短剣
ハイエルフ族は基本的に閉鎖的な種族である。
それにも大きな理由があった。
その理由というのは――――
◇
祭りの準備を終えたヘリオンさんがお母さんと一緒にテントに戻って来てくれた。
ヘリオンさんは小鳥たちの前に一礼をし、僕とお母さんの前に座った。
「クラウド様、お待たせしました」
「いえいえ! コメ達の事を先に聞いていたので、丁度いい待ち時間でしたよ!」
「コメ……達?」
「はい!」
僕の声に応えるかのように、コメ達七羽が僕の頭や肩の上に乗って来た。
「この子達の名前、コメです」
「こ、コメ……ですか……」
何を隠そう、先日降りてくるとき、米粒だなーとしか思えなかったので、名前をコメにした。
本来はシルファというらしいから、シル達でも良かったんだけど、シルって元日本人として音の響き的に大変宜しくないと思ったので、コメにした。
ヘリオンさんが少し引き攣った笑顔になった。
うちの従魔達は僕が命名する決まりがあるからね! ロスちゃんが勝手に決めた決まりなんだけどね。
「それで、ヘリオンさん? そろそろ事情を聞かせて貰ってもいいですか?」
「あ、ああ、そうでしたね。ではまず我々ハイエルフについて説明を始めなくちゃいけませんね」
ハイエルフ族って普通のエルフ族とは違うのだろうか?
「まず、ハイエルフ族はここからずっと西側に進んだ『ヘルギアノス森』で住んでおりました」
『ヘルギアノス森』、それは魔物の楽園と言われている森で、人は立ち入るのすら不可能と言われている森だ。
「元々風の精霊の加護を受けていた我々の種族です。かの地でも生きるのには十分でした……しかし、とある種族との戦いが起きてしまい、我々はこれ以上戦いを広げない為に、村を捨て、東へ逃げたのです。その果てにこの地に住み着くようになりました」
戦うより逃げる事を選んだのね。
僕もあまり戦いは好きではないから、その選択に好感が持てる。
「そんな我々ですが、本来なら元の地を守る
「役目……」
「その最も大きな理由とまして、クラウド様が持っていらっしゃるその短剣にその理由がございます」
「え? この短剣ですか?」
僕はまだ腰に付けていた短剣を手に持った。
美しい翡翠色の短剣が、テント内の光を受けて、美しく光り輝く。
「その短剣の名は『風神の短剣』と申します」
「風神の?」
「はい、風の神の加護が込められている短剣です、この世界にたった一つの『
「えええええ!? そんな大事なモノを僕に預けて良かったんですか!?」
「『
「ひいい!? か、返します! は、はい!」
僕は慌てて短剣をヘリオンさんの前に持って行く。
そんな僕を、ヘリオンさんは笑顔で見つめ、
「いえ、その短剣は既にクラウド様のモノでございます。どうか、そのまま身に着けてください」
「えええええ!? そ、そんな! 命より大事なんじゃ……」
「はい、その最も大きな理由、それは――――その『
「厳しい理由?」
「その短剣を運ぶ手立てがなかったのです。ですから、あの森でずっと持ち主が現れるその日まで待ち続けていたのです…………何故なら、『風の
「う~ん、ずっとハイエルフ族が守っていたのですからね、ハイエルフ族の方が受け継いだ方がいいでしょうけどね、それと運ぶ手立てが難しいというのは?」
「はい、『
へ、へぇー、この短剣さん……そんな力があったんだ……。
確かに変な気配はしていたけど、まさか
「あれ? でも僕は何ともないんですけど?」
「それが、主と認めたからこそなのでしょう」
「では皆さんはこれをどうやってここまで?」
「はい、それぞれ代わる代わる持ち運びました。最初この地に辿り着いた頃はみんな大変な状態だったと聞きます」
「え? 聞きます?」
「はい、我々ハイエルフ族がこの地に住み着いて、既に三百年になりますから」
三百年!?
昨日の事のように話すから、ここ最近の出来事かと思ったよ!
「我々ハイエルフ族の寿命は人族の三倍は長いですから、三百年前というと昔という感覚はあまりありません」
そ、そっか……寿命の差があるのか……。
「昔から伝わる言い伝えでは、『風神の短剣』の持ち主は必ず魔物に
「そ、そうでしたか、それにしても、こんな大事なモノを簡単に預けるなんてびっくりです」
「あはは、それは寧ろ、こちらの台詞です、あれほどの魔物の
そして声を上げて笑うヘリオンさん。
「分かりました、この短剣はこのまま預からせて頂きます」
「はい、それが一番ありがたいのです。それに…………」
「それに?」
ヘリオンさんは、僕の上に乗っていたが、既にロスちゃんの頭や身体の上に乗っているコメ達に目をやった。
「伝承に伝わる『風の精霊シルファ』様が生まれたのです、おっと、今はコメ様でしたね。我々ハイエルフ族はこの日をずっと待っておりました。生きているうちにコメ様をお目に掛かれるなんて……これほど光栄な事はないのです」
ヘリオンさんの優しい笑みに反し、コメ達のドヤ顔になった。
シルファって呼ぶとめちゃ不機嫌な表情になり、コメと呼ぶとドヤ顔になる。
こうして、僕はまた可愛らしい従魔(?)を仲間に出来た。
そして――――
- 個体『クラウド・ベルン』の才能『ちょうきょうし』のレベルが上昇しました。-
の声が頭の中に響いた。
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