第33話 馬車旅

 次の日。


 野宿の片付けが終わり、僕達は次の目的地である森の村に向かって走り出した。


 来る時は一所懸命に素振りをしていたアレンだったが、今は窓を開いて外を見て楽しそうに騒いでいた。


 やっぱり子供はこのくらいが丁度いいね!



 本来ならロクに森の村まで案内してもらうつもりだったけど、ロクにはゴーレムの案内をお願いしている。


 このままでは案内役がいないので、スロリ町に向かう途中でウル達が匂いが嗅ぎ分けれるようになったら向かうという道のりになった。遠回りでもないので、気楽に森の風景を楽しむ事にしよう。




 ◇




 一方、その頃、森の村では――――


 レーラを中心とした若いエルフ達が何やら一生懸命に準備を行っていた。


 それを見る大人達の目は冷ややかなモノであった。



「レーラ……本当にうちの村に客人がくるの?」


 不安そうな若者エルフがレーラに向かって話した。


 他の若者エルフ達もレーラに注目する。


「もちろんよ、彼らはまだ幼かったけど、その瞳からは『信念』を感じられたわ。きっとうちの村にも遊びに来てくれるよ」


「そうだといいんだけど……それにしても『風神の短剣』も渡しているんでしょう?」


「そうよ。あの子ったら軽々と持って帰ってったわ」


「……本当信じられないのよね」


 他の若者エルフ達も同意するかのように頷いた。


「でも事実は事実よ。お父様が渡したんだからね」


「それは知ってるけどさ…………はぁ、こんな村に本当に客人が来るといいけど…………」


 そして、若者エルフ達はみな、口を揃えて溜息を吐いた。




「「「はぁ…………肉食いてぇ…………」」」




 ◇




 森を駆け抜け、昼が過ぎ、お母さん特製のサンドイッチで昼食を取りつつ、森の村を目指した。


 サリーは馬車の上で魔法の練習をしていて、速い乗り物から撃つ魔法は難しいと言っていた。


 アレンとエルドは器用な事に、荷馬車の上で対戦稽古を行っていた。


 落ちないか心配だから、馬車の下に護衛のウル達を走らせている。


 お母さんは読書をしつつ、窓の外を眺めたり、魔法の練習をしているサリーの応援をしたりと楽しそうだ。


 僕はというと、とある事を進めていた……だって後が怖いからね……。



 馬車が進み、とある場所で止まった。


 ここから西に真っすぐ進むと森の村に行けるんだけど…………僕達はある人の到着を待った。


 少しの休憩時間、アレンとエルドには汗を沢山かいてしまったので、馬車に作ってある水浴び道具で汗を流す。



 水浴びが終わる頃、空の彼方に見慣れた影が見え始め、暫くして僕達に到着した。




 ◇




「い、いらっしゃいませ、ティナ様」


「クラウド様ったら、私だけ除け者にして酷いわ」


「あ、あはは……新しい馬車作りですっかり……」


「むう…………」


 ――――そう、ロクに急いでお願いして、ティナ令嬢を迎えに行って貰ったのだ。


 ロクと意思疎通は取れないけど、直ぐに意図を感じ取ったティナ令嬢が執事のアルフレッドさんと一緒に来てくれた。


 いくら何でも泊まりに一人で来られては困るけど、執事同伴なら問題ないよね。



「ティちゃん、来なくても良かったのに」


 バチッ


「あら、クラウド様はちゃんと連れてってくれるって約束・・してくれたのよ」


 バチッ


 サリーが驚いた顔で僕を見つめる。


 約束というか……口約束だったし……それに断わりずらかったから……。


「まあまあ、二人とも、そろそろ森の村に行くよ」


「「は~い」」


 …………一緒に手繋いでいるじゃんか! 仲良いのか悪いのかどっちなの!!


 手を繋ぎ、馬車に入るサリーとティナ令嬢。


 その後、サリーの楽しそうな声が馬車の外に響いていた。


 はぁ…………。




 ティナ令嬢とアルフレッドさんを乗せ、今度こそ森の村を目指して、出発した。




 ◇




「このような快適な馬車を作られるとは……さすがはクラウド様でございます」


「いえいえ、これも素晴らしい技術者を紹介してくださった辺境伯様のおかげです」


「それは辺境伯様も喜ばれる事でしょう」


 アルフレッドさんはきっと有能な執事なんだろうなー、僕の家にも執事が欲しい所だね。


 今度お父さんに相談して執事を探して貰おうかな。


「クラウド様、もし宜しければこの馬車と同じ物を販売して頂けないでしょうか?」


「えっ? 販売?」


「はい、辺境伯様もきっと気に入るでしょう。これ程の高性能な馬車、適正・・価格で買わせて頂きます」


「えっと……もう一台作るのはそんなに難しい事じゃないんですけど……そんなにすぐ決めなくても――」


「いいえ、ある程度資産を持ってる人なら、この馬車の有用性、凄さを直ぐに看破出来るでしょう。市場に出せば買い手数多でございます」


 そ、そんなに!?


 少し困った顔でお母さんを見つめる。


「クーくん、私もこういう馬車は見た事もないわ、引いているのはウル達だけど、馬でも出来るのでしょう? きっと欲しがる人は沢山いるんじゃないかな?」


 もしかして……僕はとんでもない物を作ってしまったのだろうか?


「ですが、決して無理にとは言いません、クラウド様が売っても良いと思われる時で良いので、ぜひ考えてくださいませ」


「分かりました。本当に作るだけならそれほど大変でもないんですが……お父さんとも相談させてください」


 アルフレッドさんは優しい笑みで頷いた。


 隣でサリーとはしゃいでいたティナ令嬢も、話を聞いていたらしく、キラキラした目線を僕に送っていた。


 キラキラした目線の隣から、今度はサリーの冷ややかな目線を感じた。


 それを見たお母さんは苦笑いを浮かべていた。




「あ、クラウド様、この前貰った短剣が見たいわ」


 僕は腰に掛けていた短剣を取り出した。


「!? クラウド様、その短剣をどこで……?」


「これですか? 今から行く『森の村』の族長さんから預かっているんです」


 短剣は刀身や柄、鞘まで緑色を強調して作られている。


 驚きなのは、刀身すら綺麗な翡翠色で、鉱石というよりは宝石で作った剣と言った方がお似合いかも知れない。


 色も勿論綺麗だけど、そこに描かれている模様も綺麗。


 雰囲気的には濃い緑で表現しているから、色合い的に『風』を表現したいのだろうか?


「まさか…………ハイエルフ族でございますか?」


「はい、そうですよ。ティナ様から聞いてませんか?」


 僕はティナ様を見つめる。


「えっ? だって…………クラウド様の事を口出しなんてしないわ。あの時の事は誰にも話してないわ。お父様にもね」


 さも、当たり前でしょう? という顔のティナ令嬢。


 意外としっかりしているんだね。


 まあ、隠すつもりとかなかったからいいけどね。


「そうでしたか……あの種族が既にめたのですね……なんて恐ろしい方……」


「へ? 認められてませんよ?? ただ、次遊びに来るとき、この短剣を掲げてくれとだけ言われてますから」


「なるほど……かしこまりました。あの種族と話せる日が来るとは、歳を重ねるとこんな良い事もあるものですね」



 アルフレッドさんが嬉しそうに笑っているけど、ハイエルフ族ってそんなに凄い種族なのかな?

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