第32話 野宿

 ゴーレムの核を無事手にいれた僕達は、お母さんの観光も兼ねて、森の村を目指す事にした。


 しかし、既に太陽が空から隠れ始めていたので、砂漠から少し森に戻った場所で野宿をする事にした。



「では野宿の為に開発した『スロリ馬車1号』の特別仕様を見せるよ!」


 僕の声にみんなが首を傾げる。


 僕は素早く『スロリ馬車1号』の後方の荷馬車の出入り口がある面の下と上にある留め金具を外した。


 留め金具6つ全てを外すと、馬車のが外れた。


 外れた壁はそのまま馬車の上にグイっと上がり、天幕状態をなった。


 そして、外された面に数々の野宿用道具が入っていて、それを外に出す。


 エルドも手伝ってくれて、次々野宿用道具が並び、荷馬車の前は野宿用キッチンとなった。


 キッチンを眺めて、飛び跳ねて喜ぶサリーは、


「お兄ちゃん! 凄い!! 馬車がキッチンになったよ!!」


 とキッチンの整理を手伝ってくれた。



 完成した野宿用キッチンにお母さんが立つと、次々料理を仕込み、どんどん美味そうな匂いが広がった。


 そう言えば、この世界には虫というのがあまりいない。


 あまりというか、ほぼいない。


 前世ではキャンプの際、あんなに虫が寄って来たのに、ここには一匹のコバエすらいない。


 虫よけがいらない世界がこんなに平和とはね……。



 そんな事を思っていると、お母さんから、


「みんな~ご飯出来たわよ~!」


 との声が聞こえてきた。


 軽く素振りをしていたアレンとエルドも、素振りを止めテーブルに向かう。


 サリーは可愛らしいエプロンを付けて、テーブルを拭いたり、食器を並べていた。


 うちのサリーはきっといい嫁さんになりそうだね!


 …………って! 我が妹を嫁にしたくば、わしを倒してからにしろ、とうっかり口に出しそうになった。


 あれ?


 そういや…………一人、忘れた人がいる気がするけど、まあいいか?



 僕達はテーブルを囲い、お母さんの美味しい料理を堪能した。


 アイラ姉ちゃんのハンバーグだけは特大サイズだね。僕がお母さんに頼んで、いつも特大サイズで作って貰っているのだ。


 彼女は意外にも大食いのようで、幼少期からお腹を空かせていたそうだ。


 聖騎士になったのも、お腹を満たす為だと聞いた時は少し笑ってしまったけどね。


 教会から生活費だと金貨一枚を渡された時に不思議だったけど、彼女の食べる量を知っていての事みたい。


 そんな特大サイズのハンバーグを美味そうに頬張るアイラ姉ちゃんがいきなり、


「あれ? そう言えば、ティナ令嬢様は連れて来なくて良かったんですか?」


 と僕に質問を投げかけた。


 ……。


 ……。


 ……。




「ああああああ! ティナ様に声かけるの忘れてた!!!」




 どどど、どうしよう!?


 砂漠と森の村に行く際は、絶対に先に声を掛けて欲しいと念を押されてたのに…………『スロリ馬車1号』の開発ですっかり忘れてしまった!



「ティちゃんなんていらないもん!」


 サリー!?


 急に拗ねるけど、二人はやっぱり仲良しになったんじゃないの!?


 だって、前回の旅ん時も、なんやかんや仲良く遊んでいたじゃん!?


 隣でクスクス笑っていたお母さんが、


「こらっ、サリーちゃん。ティナ令嬢様とも仲良くするんだよ?」


 と宥める。


「えー、だって…………ティちゃん来ると、お兄ちゃんがデレデレするんだもん」


 サリーちゃん!?


 デレデレなんてしてないよ!?


 どこをどう見てもデレデレしている要素なかったでしょう!


 寧ろ、何か気まずい事にならないか不安しかないのに!


「ほら、ティちゃんの事を思っているお兄ちゃん、めちゃ嬉しそうにしてるの」


「嬉しい顔じゃないでしょう! ほら、心配している顔でしょう!」


「ふん!」


 サリーちゃん!?


 どうしていつもティナ令嬢の事となると、こう拗ねるのか…………はぁ、女の子は難しい。




 ◇




 お母さん、サリー、アイラ姉ちゃんの女性陣は馬車で寝て貰って、僕、アレン、エルドの男性陣は荷馬車で寝る事にした。


 そう言えば、この世界に生まれてから誰かと一緒に寝るのは初めてかも。


 一応、意識はあったから覚えているけど、二歳まではみんなで寝ていた。でも三歳になる頃には自分の部屋で一人で寝るようになった。


 大体の貴族がみんなそうらしい。


 僕は昔から寝付きだけは良い方だから、どこでも直ぐに眠れるから一人で寝るのは気にした事はなかったかな。


「兄ちゃん」


「ん? どうしたの? アレンくん」


 布団の中から出ている可愛らしい顔と目が僕に向いた。


「えっとね…………僕って兄ちゃんの役に立ててるかな?」


「へ?」


「ほら、サリーちゃんはあんなに狩りが出来るのに、僕は剣を光らせるくらいしか出来ないから……」


 ちょっと落ち込んだ表情がまた可愛い。


 いつもなら、がむしゃらに頑張っているアレン。気にした事なかったけど、やっぱりサリーに対して不安を覚えているのかも知れないね。


 うちは兄弟がみんな仲良しだから、アレンも露骨に不安な表情を出したのは今日初めてみる。


「ふふっ、それを言ったら、僕も何もしてないよ?」


「そんな事ない! 兄ちゃんは凄い! 色んな魔獣を連れて、大きなお家も建てれるし……こんな凄い馬車も作れるし!」


「あ~、アレンくんにはそういう風に見えていたんだね」


「うん??」


「確かに僕が色々考えて、こうして欲しいとお願いしていたけど……でもこれは、僕の力じゃないんだよ。みんなが一所懸命に頑張ってくれたから出来た事なのね。――――アレンくんもエルドくんも、いつも一所懸命に剣の練習をしているのも、これから誰かの為に頑張る為でしょう? 人は一人では生きていけないから、いつか誰かを支える為に今を一所懸命に生きる二人を、僕は何もしていないとは全く思わないよ」


「兄ちゃん……」


 僕はそっとアレンの頭に手を伸ばす。


 僕はお母さんに褒められたい、なんて我が儘な想いだけで色んな事をしてきたけど、弟と妹の事はあまり見ていなかったかも知れないな……。


「アレンくんが毎日頑張って強くなろうとしている。それは近くで見ている僕が一番知っているよ。だから何もしてないなんて悩まなくたっていい。僕はアレンくんがやりたい事をこれからも続けて欲しいと思っているからね。だからこれからも応援するよ」


「兄ちゃん………………ありがとう…………分かった。僕に出来る事を頑張る」


「ああ、それがいいさ」


 少しアレンくんの頭を撫でてあげると、小さな寝息を聞こえ始めた。


 まだ幼い弟の事、これから見守っていようと思う。

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