第31話 土ゴーレム

 クラウドたちは新しく出来上がった馬車に乗り込み、お父さんと町民たちに見送られながら砂漠に向かって走り出した。




「領主様……」


「どうしたのかね? ケリンくん」


「……えっと…………あれは馬車ですか?」


「さ、さあ……クラウドが馬車だと言っていたが……」


「僕の知ってる馬車とは随分と…………引いてるのも狼ですし……」


「う、うむ……俺もそう思っていた所だよ」


「それにあの速度……馬車ってあんなに速く走れるんですね……」


「ああ……クラウドが普通の馬車より三倍は速いと、馬車を赤く塗っていたよ」


「確かにあまり見かけない色ですね、赤い馬車……赤い狼車?」


 領主及び全ての町民たちには疑問しか残らなかったが、凄まじい速度で離れていく馬車(?)を眺める事しか出来なかった。




 ◇




「お兄ちゃん! この馬車、すっごく速い!!」


「うん! ウル達に頑張って貰ってるから、普通の馬車より三倍は速いのだよ! 三倍は!」


「凄い!! 三倍だ!!」


 サリーが嬉しそうに車内で飛び跳ねた。


 車内も長距離移動を考えて、従来の馬車の内装より三倍は大きく作っている。


 そもそも車体が重い従来の馬車より、この大きさにしても軽いのが特徴だ。


「あ、クーくん?」


「うん?」


「一つ気になったんだけど」


「どうしたの?」


「えっとね、御者の為に馬車の揺れを減らしたと言ってたよね?」


「うん! 馬車の揺れを魔法だけでなく、直接軽減しているのがこの馬車の素晴らしい所だよ!」


「……えっと…………その御者ってどこなのかしら?」


「え?」


「ほら、前に誰も座ってないでしょう?」


「あ~、大丈夫! ウル達とは意思疎通が出来るから、御者がいなくても、ウル達だけで発進から停止まで行えるの!」


「…………それって御者要らずじゃ……」


「…………こ、これからは違う馬車にもこれを投入すればいいんだから!」


「そ、そうね。この馬車には要らなくても、他の馬車には良いかも知れないわね」


「う、うん!」




 ◇




 馬車に揺れる事、数刻。


 いや、全く揺れてないけどね。


 馬車の天井部分に上がれるようにもしたので、お母さんとサリー達も楽しい旅を満喫していた。


 ウル達の無尽蔵な体力のおかげで、休む事なく、南の森を抜ける事が出来た。



「あ、暑い……」


 僕は流れる汗をぬぐう。


 荷馬車の方では着替えたお母さんとサリーが降りて来た。


 いつもはドレスのような服を着ているけど、暑い砂漠に着いたので、涼しげなロングワンピース姿になった。


 大きな帽子も二人にはピッタリだね!


 それにしても、サリーはお母さんに瓜二つで二人とも、ものすごく美人さんだ。


 正直、冴えない感じのお父さんと美人なお母さんが不似合いな気がするのよね。


 どうしても前世のイメージがあるから、美女がさえない貧乏貴族に嫁ぐのには違和感がある。


 今度聞いてみようかな。




「あっ! お兄ちゃん! ゴーレムだよ!」


 サリーがいち早く反応して指差した場所から大きな土のゴーレムが出てきた。


 予想していた以上にゴーレムだった。


 ごほん。


 某ゲームの形のまんまのゴーレムの赤い目が僕に向く。


 ――――そして、


 ゴーレムはその場で跪いた。


「お兄ちゃん凄い! ゴーレムも跪くの!」


「あら、これは噂のクーくんの力なのね?」


「そうなの! お兄ちゃんの前ではどんな魔物も跪くの!」


「うちのクーくん、凄いわね!」


 お母さんとサリーはべた褒めしてくれていたけど、隣にいたアレンとエルドが戦えなくて残念そうにしていた。


 この二人……バトルジャンキーになってないよね!?



【ご主人! ゴーレムが配下になりたいみたい!】


「う、うん。『土ゴーレムの核』を手に入れたいんだけど大丈夫だろうか?」


 ロスちゃんがゴーレムと何かを話し合う。


【大丈夫だって! ただ、一度産むのに1か月はかかるから、毎月10個くらいしか出せないんだって】


「10個か、それなら何とかなりそうね。他にもゴーレムがいるなら助かるんだけど……」


 すると、ゴーレムの後ろから3体のゴーレムが現れた。


【あの3体も従うって!】


「そうか、ありがとう! それはそうと……ゴーレムをどうやって運んだらいいかな?」


 見た目だけで非常に重そうだ。


【このまま馬車には乗せられないから、あのまま歩いて来て貰ったらいいと思う! ゴーレムはお腹も空かないし】


「へぇー、ゴーレムってご飯食べないの?」


【ゴーレムによって違うみたいだけど、土ゴーレムは土の中から栄養分を食べるらしいから、庭でも飼えると思う!】


「そ、そうか……ではゴーレム達には悪いけど、スロリ町まで歩いて来て貰うよ? ロク! 悪いけど、案内兼護衛お願いね!」


【かしこまり!】


 ロクの案内で、ゴーレム3体はゆっくり歩き始めた。


 う~ん。


 あの速度なら町に着くまで暫く掛かりそうだな。


「あ! 待って! その前に、『土ゴーレムの核』を数個出して欲しいんだ!」


 ゴーレム達は大きく頷いた。


 ――――そして。






 口から大きな卵のような塊を吐き出した。






 ううっ……、もうちょっとさ、腹からポンって出すとか出来ないの?


 口から出るとこ見てしまったよ……。


 ゴーレム達はそれぞれ4つずつ吐き出して貰った。


「あ、ありがとう、スロリ町まで気を付けてね」


 ゴーレム達が再び歩き出した。


 さてさて……この塊をどうしようかな。


「さて、ひとまず、エルドくんと――――」


「ひ、ひい!?」


 アイラ姉ちゃんがアレンの後ろに隠れる。


 ぐふふ。


 隠れても無駄だよ~。


「あ~い~ら~ねぇ~ちゃん?」


「あ、アイラはいません~」


 アイラお姉ちゃんがアレンの声のモノマネをする。


 意外と上手いかも?


「ほら! 早く積むよ!!」


 涙目のアイラお姉ちゃん、エルドに加え、僕とアレンで落ちていた塊を拾い上げ、荷馬車の中に放り込んだ。


 中々の重さだったので、10個全部出して貰わなくて良かったかも。



 こうして、僕は『土ゴーレムの核』を12個獲得して、新たにゴーレム4体を仲間にした。


 そして、次なる目的地、『森の村』に向かった。

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