第30話 新しい馬車
森の村を見つけてから三日が過ぎた。
この三日間どうやって砂漠まで行くか悩んだ。
単純にロクの背中に乗って行ったとしても、往復に一日以上はかかる計算となる。
なので、何処かで必ず一泊しなくては間に合わない。
更に、『土ゴーレムの核』は一つでも重いらしく、幾つもロクに持たせるのは危険かも知れない。
纏めると、
①往復一日以上かかる為、外泊の許可と取らなくちゃいけない。しかも、運搬の事も考えると一泊二日ではなく、二泊三日くらい考えなくちゃいけない。
②重さのある『土ゴーレムの核』を運搬する為の方法を考える。ウル達に乗せるのは良くない気がする。一番良いのは熊さん達に運んで貰う事だけど、それでは速度が遅いのだ。
以上の二点を改善しようと三日間色んな作戦を考え込んだ。
◇
「駄目!」
ううっ……知ってはいたけど……お母さんの口からは真っ先に飛び出た言葉だ。
「でも……それじゃ『土ゴーレムの核』が手に入らないの……」
「クーくん? 貴方達はまだ子供なのよ!? 本来ならティナ令嬢様の所に行くのすら一人で行かせたくないし、狩りにも――――はぁ……」
落ち込んでいる僕を見たお母さんが溜息を吐く。
「その『土ゴーレムの核』があれば、スロリ町の生活はもっとよくなるのね?」
「え? う、うん! 絶対によくなるよ!」
お母さんは目を瞑って何かを考え込んだ。
そして、
「…………分かったわ。二泊三日の旅、了承しましょう」
「やった!!」
「但し~!」
お母さんが右手人差し指を前に立てる。
「私も同行します」
「お母さんが!?」
「そうよ? お父さんには私から話しておくからね。クーくんは
えっと……旅行に行く訳ではないんだけどな……。
話し終えたお母さんはお父さんがいる執務室に向かった――――鼻歌を歌いながら。
まあ、こうなる事も少しは予想していたから、次の運ぶ手段に着手しよう。
◇
「おお、クラウド様。いらっしゃいませ」
「カジさん、お母さんから許可を取りました。例のモノを最優先に進めてください」
「分かりました。それにしても、クラウド様は面白い事を考えるモノですね」
今まで行商に行くときに使っていた輿。
熊さん達に持って貰う事で、上に荷物を乗せていた。
更に僕やサリー達もその上に乗って楽々移動していた。
しかし、欠点としては、やはり速度。
熊さん達も輿が崩れないように歩いて進んでいるから、自然と速度が落ちるのだ。
ウル達との走りに比べるとその差は一目瞭然。
それを今回の遠征で克服しようと考えたのだ。
まず、この世界の馬車について勉強した。
馬車の形や使い方は、前世の馬車と何ら変わりがない。が、前世とは全く違う所もある。
最も違う所は、前世でいう『
本来の馬車――――ひいては車に用いられるサスペンションは、車体の揺れを軽減する為についている。
もしその軽減装置が無ければ、車体の揺れを直接受ける事になってしまい、車酔いや衝撃をもろに受けてしまうのだ。
ではこの世界の軽減装置事情はどうなのか。
一言で言えば、前世と比べものにならないくらい、良いモノだった。
これには大きな理由があり、馬車で最も使われている軽減装置は、『振動軽減』を付与した車体であった。
つまり、実際車体はものすごく揺れているのに、魔法のおかげで全く揺れを感じないのだ。
初めて隣の町に移動した時に乗った馬車に感動すら覚えたのだ。
しかし、これには一つ弱点もあった。
それは、揺れ自体が無くなり訳ではなく、感じなくなるだけである事。
それによって何が起きるのか。
馬車の天井部分が使い物にならないのだ。
例えば、馬車の天井部分に荷物を上げたとする、すると、走った途端馬車の揺れが直接響き、馬車の天井に乗せていた荷物は落下するだろう。
なので、この世界の馬車は天井部分は全く使えないのだ。
そして、最も大きい弱点。
それは、運転者――――つまり、馬車の操縦者にこの魔法の恩恵は全くない所だ。
馬車の操縦をする人の事を、『
折角
その概要は既にカジさん達に説明しており、外泊の許可もほぼ取れているので、これから急ピッチで進める事となる。
そして、馬車の車輪にももう一つ工夫をする事にした。
この世界の本来の馬車は、わざと車体を重くする必要があった。
何故なら、馬車を止める術がないからである。
わざと車体を重くする事で、馬の速度をゆっくり落として止まるようにしているのが現状である。
つまり! 今すぐ止まりたい! と思っても止まる事が出来ないのだ。
こういった背景からも、馬達への負担も大きい。
なので、前世の記憶を頼りに、車輪に一つ工夫を入れる事にした。
それは、――――『ブレーキ』である。
御者がいつでもブレーキを踏んで止められるようにした。
この事により、馬車の重さを軽減に成功し、馬車を引っ張る馬達への負担を減らした。
ただ、ブレーキを付ける事により、車体の中に掛かる慣性も何となしなくちゃいけないんだけど、これも不思議と魔法で何とでもなるそうだ。
意外にもこの世界の馬車が優秀過ぎるのだ。
こうして着々と、新しい馬車の作りが進んだ。
馬車は二両編成で、一両目に人が乗り、二両目で荷物を乗せる。
更に車輪にサスペンション実装やブレーキの実装により、揺れは格段に無くなり、地味な旅でも馬車の屋根の上に登れるようになった。
――――そして、更に五日後。
新しい馬車が完成した。
◇
「えっと……クーくん? これが新しい馬車なの?」
「うん! 新しい馬車、名付けて『スロリ馬車1号』だよ!」
「す、スロリ馬車1号…………今まで見た事もない形だね、二つの馬車を繋いだ感じかしら?」
「うん! 後方の馬車の車輪には前方の車輪と同じ動きをするような魔法が組み込まれていて、簡単に止まれるよ! 乗り心地も、今までの馬車の比じゃないくらい良いはず!」
「そ、そうか、それは凄いわね…………でも」
「でも?」
「一番気になるのは、あの前の部分なんだけど……?」
「あ! 今回の旅は速さも重視しているから普通の馬では物足りないと思ったので、今回はウル達三十頭に引っ張って貰います!」
「…………馬車というよりは、狼車かしらね……」
クラウドの自信満々の紹介に、小さくツッコミを入れるエマであった。
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