第28話 結晶の砂

 次の日。


 まず『結晶の砂』を取りに、サリー達と一緒にベルン領外れにある山に来ていた。


 ベルン領は大陸の東側に存在していて、いわゆる田舎領だ。


 ここら辺一帯は山と森ばかりで、意外にも魔法やスキルが発達したこの世界では木々は邪魔でしかないみたい。何故なら魔物で素材が手に入るから、壁とかも頑強に作れるからね。わざわざ木や石を採用しないそうだ。


 そんなベルン領は北に大きな山脈があり、その名を『ギガンテス山脈』という。元々ロスちゃんやロクが過ごしていた山脈だ。


 ベルン領とギガンテス山脈の前には、いつも狩りに出かけている山がある。


 その反対側の南側には森が広がっており、その一角が狢達の巣があった森で『崩壊の森』と呼ばれていた。


 そこから更に南側に行くと少しずつ熱くなっていき、最終的には砂漠に辿り着く。


 今度は西側を見ると、最初にアングルス町があり、更にもう少し西に進むとギインザ街、更に西に進んでバルバロッサ領の領都エグザ街がある。


 そこから更に西側に進み、バルバロッサ領を抜けると王国領に入り、更に西にずっと進むと王都があるけど、今の所は行く予定はないね。


 そして、あまり行かない東側。


 特に目ぼしいものがないので、基本的に進む事はない。ただただ広々とした高原が広がっている。


 そこから更に東に進むと、ちょっとした山があり、大きな洞窟があった。


 その洞窟が今回の目的地だ。



「お兄ちゃん、洞窟中にはヴァンパイアコウモリが生息しているから気を付けてね!」


 おお……いかにもいそうな吸血蝙蝠コウモリがいるらしい。


「ちょっと暗いね、アレンくん? 光の剣お願いしていいかい?」


「いいよ! 光り輝け! 勇者の光の剣!」


 アレンが持っていた剣から眩しい光が輝き始めた。


 おお!


 これで洞窟中がちゃんと見えるね!


「アレンくんはたいまつ役だから、サリーとアイラ姉ちゃんはアレンくんの守りね、エルドくんとヘイリくんは『結晶の砂』を見つけてね、青い砂だから直ぐに分かると思う」


「「りょうかい!」」


 アレンを守りつつ、洞窟中を探索し始めた。


 洞窟の奥からはポタッポタッと水が落ちる音と、僕達の歩く音が洞窟内に響く。


 そう言えば、この世界に生まれてからこういう音が反響する場所は初めて来たかも。


 五人でも狭いと感じないくらいに広い洞窟を進めると、奥からキラリと青く光る一帯を見つけた。


「青い光が一帯に広がっていて綺麗だね」


「うん! でも、ここに『結晶の砂』があるという事は……その上に――――いた」


 サリーが上を向いたから、同じく上を見上げた。


 そこには――――無数の赤い目がこちらを見つめていた。


「ヴァンパイアコウモリか……」


「でもおかしいな……彼らは非常に攻撃的なはずなのに、全く襲ってこないの」


 サリーが首を傾げたその時、一匹の一際大きいコウモリがゆっくり下に降りて来た。


 ――――そして、僕の前に頭を下げる。


 ああ……またこうなるのね。


【ご主人! この子がお越しくださり光栄です――って言ってるよ~】


 僕の肩に乗っているロスちゃんから言われた。


「えっと、僕達はこの青い結晶を取りに来たんだけど、貰って行っていいかな?」


 コウモリは僕の声に、もう一度頭を下げた。


 僕がありがとうと伝えると、コウモリはまた天井に上がって行った。


「よし、これで『結晶の砂』は取り放題だね! エルドくん、ヘイリくん、よろしくね」


「「りょうかい」」


 二人は持参していた大きな袋に青い砂を懸命に入れ始めた。


「ん~」


「どうしたの? お兄ちゃん」


「この『結晶の砂』ってこの一帯に纏まっているのよね」


「そうだね」


「こんなに広い洞窟で、ここに纏まっている事が不思議でね」


「あ~、それはそうでしょう。だってあの砂って――――――」


 サリーが上を指差した。




「彼らの排泄物だから」




 えええええ!?


 あれって鉱物とか自然発生したモノじゃないのか!


 うっ……エルドとヘイリには申し訳ないけど、二人に頑張って貰おう……。


 お、そういえば……もう一人パシ――――手伝いがいたな。




「アイラ姉ちゃん」


「え、えっ!? ど、ど、どうしたのかな? クラウドくん」


「二人で集めるの大変そうだなーって」


「あ、あはは……お、男の子だから大丈夫――じゃないかしら?」


「ほら、上のヴァンパイアコウモリ達は襲って来ないから、アレンくんの護衛はしなくても大丈夫」


「ひ、ひぃ――――」


 アイラ姉ちゃんに袋を渡して、満面の笑顔を見せる。


「では、お願いね?」


 アイラ姉ちゃんは諦めたように、肩を落として青い砂に近づいて来た。


 いつも勇ましい聖騎士も、こういうものは苦手なのね。



 僕は最初の目的だった『結晶の砂』を大量に獲得出来た。


 ヴァンパイアコウモリからいつでも取りに来てもいいとの事なので、ロクを使ってたまに差し入れをする事にして、『結晶の砂』を集める仕事をしてくれる人も雇う事にしよう。




 ◇




 ◆アイラ◆


 私はもうお嫁さんに行けないかも知れない……。


 あくどいクラウドくんの所為で……私は…………あの青い…………ううっ……。


 真っ青になった手のまま、青い砂を入れた袋を持って帰る間、どうして私はここにいるのだろうと思ってしまう。


 最初は勇者様が大人になるまでの間、護衛の為と言われたけど……ここに私がいる必要はあるのだろうか。


 そもそも、あのロス師匠に誰が勝てるというのだ……。聖騎士団長様でも恐らく勝てないだろう……。


 そんな事を思いながら屋敷に着くと、クラウドくんは直ぐに風呂に入れてくれた。


 本来なら貴族である彼らが先に使うのが習わし。


 でもクラウドくんは、そういう習わしは基本的に無視する。



 ――――そういう優しい所が…………嫌いになれないのよ……。



 多くの魔物達から愛される彼、家族からの信頼も絶大なモノで、勇者様は彼の言う事なら何でも迷わず聞く。


 まさか……光の剣をたいまつの代わりにするなど、前代未聞だ。


 でも勇者様は嫌な顔一つしない。


 勇者様も、賢者様も、聖女様も、彼には頭が上がらない。


 クラウドくんは一体何者なのだろうか……。




 今日のご飯は私の大好物の兎肉ハンバーグだった……これもクラウドくんの意向で決まった事みたい。


 …………私の分だけやけに大きいハンバーグに、また彼の優しさを感じてしまった。

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