第27話 トイレを作りたい
スロリ町の地下排水管の工事もどんどん進み、全ての家と屋敷に排水管が設置された。
しかし、その時、僕はとある事に気づいていなかった。
それは――――。
「クラウド様、排水管? の工事は終わりましたけど、この鉄管達は何に使うんですか?」
「え? そりゃ…………トイレ?」
「といれ??」
あっ…………鉄管埋め作業が二月……つまり半年で終わり、カジさんから何に使うのかと言われるまで全く気付かなかった!
そもそも鉄管を取り付けるトイレを作るのを忘れてたよ!!
「これから――――トイレを作ります!!」
「「「といれ??」」」
職人三人が首を傾げる。
彼らとテーブルに囲い、紙に便器とそのシステムを説明した。
この世界では地下にあれを溜めて、魔法で一気に消失させており、魔法使い達もあまりやりたがらず、費用も高額で有名だった。
都会で貴族達は良いけど、平民達はそれに困っているように見える。
それでもバルバロッサ領は領抱え魔法使いが率先して処理してくれていたので、大きな問題にはなっていない。
スロリ町のような田舎町だと、汲んで排泄物処理場に集めて置くのだ。
僕達子供には割り振られない仕事なので、今まで一度も捨てた事はないけど…………実情を知った時には驚愕していた。
特に、真っ先に思い付いたのが、可愛い妹のサリーである。
も、もちろんお母さんも!
女性には色々タブーな事があるはずだからね。
こういうのを放っておきたくはないよね。
それで色々画策しているうちに、領内の全ての家に前世のようなトイレを作っちゃえと思ったのだ。
「では、ここに座って用を足すと?」
「はい、それと家の天井部に雨水を貯めて流せば、そのまま排泄物処理場に流れる訳です」
「ふむ……だから鉄管に全て高低差があるのですね。さすがはクラウド様。着目点が素晴らしい」
最近カジさんは何がある度に僕を褒め過ぎるようになっている。
鉄管の継ぎ目用の配管継手を説明した時とか、目から火が出るくらい興奮していたっけ。
異世界のスキルを使い継手を簡単に鉄管にくっつける所の方が驚いたんだけどね。
「あとは、どうやって水を集めるかと、水を流す方法も考えないと……」
「ふむ、ゲルマン殿、このタンクとやらに水が貯まると重くて家が倒れるのではないだろうか?」
「うむ、儂もカジ殿と同じ事を考えておったわい」
やっぱりタンクに水を溜めるのは厳しいのかな……。
その時、エンハスさんが思いもよらなかった事を話す。
「それならいっそのこと、外に作っちゃいます?」
「「「外?」」」
「ええ、水を溜めるタンクを外に作るようにして、そこから水を中に入れてしまえば良いのでは? 鉄管ならまた作ればよいのですし」
「だが、高低差が無ければ水は下に流れないから、外に作ったとしても難しいのでは?」
「確かにそうですね…………、それならば、タンクという概念を捨てれば、それを解決出来る簡単な方法がないこともないんですが……」
「エンハスさん! その方法ってなんですか!?」
僕が食い入るように見つめると、エンハスさんが嬉しそうに笑い続けた。
「単純に水を溜めるタンクを使わず、水を使える方法を使えばよいのではないでしょうか?」
「水を溜めず、使える方法??」
「ええ、『水の魔石』を使う事で解決します」
「『水の魔石』??」
「はい、『水の魔石』は内部に水の力を溜めている魔石です。普段なら魔法と共に使うのが基本ですが、この魔石には一つだけ裏技があります」
「裏技??」
エンハスさんは不敵に笑う。
「ええ、僕達『魔技師』が作れる『エレメント抽出器』という魔道具なら、『魔石』の中に入っている水や火を外に出す事が出来るのです。それにより『水の魔石』から水を引き出す事が出来るのです。但し、本来の使い方と違う為、魔石の中の魔素を使う訳ではありません。ですから『水の魔石』から『水の力』が徐々になくなり、最終的には水は出てこなくなります」
魔石から水を取り出せる!?
「実はこれは、大貴族や王族の方々が愛用している使い方です。一般に浸透してない理由としましては、そもそも魔技師が多くない事、それに『エレメント抽出器』を作る材料が高価な事、安定して『属性魔石』を供給出来ないからです」
「なるほど……ではまず『エレメント抽出器』を作れる材料、そしてエンハスさん次第なのですね?」
「そういう事になります! 水の魔石については良い方法があるので、まずは『エレメント抽出器』の材料を集めてください」
「分かりました。後で材料と手に入る場所を記入して渡してください。それと、エンハスさんには頑張って貰う事になりますけど……」
「問題ありません! 僕の事など、気にせずこき使ってください! 必ずや成果をあげてみせます!」
お、おお……エンハスさんのやる気が満ち溢れている。
あまり無理はしてほしくないけど、町の為に暫くは頑張って貰わないとね。
今回の事業が終わったら、ちゃんと皆には休暇をあげないとね。
それとロスちゃんの爪も準備しておかなくちゃ。
◇
「という事で、サリー先生! ここのリストにあるモノを狩れる場所があれば教えてください!」
「はいっ! お兄ちゃんくん!」
いつの間にか手に入れた伊達眼鏡を着用したサリーが眼鏡をくいっとあげる仕草をする。
何処で覚えたのか知らないけど……可愛い。
「う~ん、この『結晶の砂』なら向こうの洞窟で取れるし、『土ゴーレムの核』は砂漠のゴーレムを倒せばいいし――――」
砂漠!?
この世界にも砂漠ってあったね……。
「問題はこの『ソフトミスリル』だね」
「『ソフトミスリル』??」
「うん。鉱物ミスリルに似ているけど、非常に柔らかくて、加工もしやすいの。代わりにミスリルほどの強度はないから、武器とかには全く使われないの。それと似てるから名前がそう付けられてるだけで、『ソフトミスリル』は鉱物じゃなくて、魔物の『クレイタートル』の甲羅なの」
「ふむふむ、そのクレイタートルが生きてる場所が近くにないの?」
「ご明察! 寧ろうちの王国内には存在しないの」
「ふむ……では『ソフトミスリル』は輸入するしかないのか」
「そうだね~多分だけど安価では手に入らないと思うよ?」
柔らかいのにミスリルと似てると名付けられたほどの素材だもんな。
一度、デミオさんに相談してみようかな……。
あのデミオさんからまたどんな無理難題な事を言われるやら……。
「あ、それはそうと、お兄ちゃん?」
「ん? どうしたの?」
「最近ティちゃんと仲良いみたいね?」
「えっ?」
「この前、ティちゃんが遊びに来てくれた時、何やらお兄ちゃんと――――デートしたとか言ってたんだよね?」
サリーの鋭い瞳が僕を捉えた。
「い、いや、た、たまたま……」
「へぇー偶々で市場とか行ったりするんだ?」
「えっと……あれは、ホリちゃんとロスちゃんの散策で……」
「へぇー散策してるのにティちゃんにプレゼントを買ってあげるんだ?」
えええええ!
何で知ってるの!?
ティナ令嬢が欲しそうに見つめていたペンダントを買ってあげただけなのに……しかも、ものすごい安いの。
「綺麗なペンダント付けてたんよね~」
「あはは……あれはものすごく安い――――」
「値段じゃないの! お兄ちゃんが買ってくれたのが問題なの! 分かる!?」
えええええ!?
全然分かりません…………。
「お兄ちゃんは反省しなさい! もっとサリーの事を先にいたわりなさい!」
「は、はひ! かしこまりました!」
「よろしい! では今からデートね!」
えええええ!? なんでそうなるの!?
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