第26話 初デート

 カジさんが来る間に、町の地下排水管をどんな感じで埋めるか、色々調査したり、狢達を配置して地面の下に排水管用の穴を掘り進めて貰った。


 スロリ町の地下排水管工事を進ませ、十日が経った。


 そして、遂に一団の馬車がスロリ町にやってきた。




 ◇




「クラウド様、デミオからの支援の元、鍛冶の道具も最上級の物で揃えて貰いました。それと、こちらの職人二人も紹介します」


 馬車から降りたカジさんと二人の男性。


 一人は背が僕くらいだけど、ものすごい身体がムキムキしているというか、今まで見てきた人の中では、アンバランスに見える。


「儂はドワーフ族のゲルマンと申します。この度、クラウド様の下へ来れた事、光栄に思います」


 最初に挨拶してくれた人は、人族ではなくドワーフ族だった。


 前世の記憶同様、低身長のムキムキな感じだ。


 髭も立派で、この世界もかは知らないけど、ドワーフ族にとって髭は命くらい大事だと思う。


「僕はエンハスと申します」


 もう一人は二人とは対照的で、とてもじゃないけど鍛冶用ハンマーを持って叩けるとは思えないくらい細い人だった。


「この度、クラウド様の下で魔道具を作れる事を誇りに思います。これからよろしくお願いします」


 魔道具??


「えっと……魔道具ってなんですか??」


「おっと、これは失礼。あまり聞き馴染みがないかも知れませんが、多くの装備は作っただけでは本来・・の力を全く発揮しません、もちろん、そのままでもある程度は発揮します。ですが、こちらの『魔解放』のスキルを持った者が『解放』出来れば、本来の強さを発揮出来るようになるのです」


「へぇ! 全く知りませんでした。ではエンハスさんは『魔解放』が使えるのですね?」


「はい、僕の才能は『魔技師』と申します。希少な才能のため、あまり聞き馴染みがないかも知れませんが、これから僕の才能を存分に発揮させて頂きますので、楽しみにしていてください」


 エンハスさんは優雅に頭を下げた。


 立ち振る舞いから貴族に見えるけど、僕みたいな年下且つ田舎貴族にここまで頭を下げれる人なら少しは信頼出来そうだ。


 まあ、三人とも、僕からのレア素材目当てで来たんだろうけど、しっかりスロリ町の為に頑張って貰わないとね!


 カジさんから預けていた『ロスちゃんの爪』受け取って、彼らの前に更に爪二つを見せた。


 三人とも目が光り輝いている。


「地下排水管の鉄管をしっかり作ってくだされば、いずれこの爪は皆さんに一つずつ自由・・に預けるつもりです」


「な、何でも言ってください!!」


「儂も頑張りますのじゃ!!」


「僕も精一杯頑張らせて頂きます。その爪も必ずや、満足いくモノを作ってみせましょう!」


 三人とも気合は十分って感じだね!



 僕は三人を連れ、新しく建てた――――ではなく、余っていた家を改造して作った工場こうばに案内した。


 工場には既に数人いて掃除をしながら待っていた。そのまま彼らの手伝いをする予定だ。


 カジさん達の指示で荷物を運んで設置したりと、その日は慌ただしかったものの、次の日からは僕の指示通り、鉄管をしっかり作ってくれた。


 更に僕の予想以上の成果もあった。


 一緒に来てくれたエンハスさんの『魔技師』って色んな事が出来るようで、出来上がった鉄管に『腐食防止効果』を付与してくれた。


 これでほぼ半永久的に使えるらしい。


 この世界の魔法やスキルはその効果が絶大過ぎるけど、殆どが『選ばれた人』にしか使えないので、彼らは自然とプライドが高くなったりするみたいね。


 ここに来てくれた三人の職人さんも非常にプライドが高くて、下手な仕事には怒声が飛んでいた。


 それでも目新しモノに、町の若者たちは直ぐに飛びついて怒られながら、楽しんでいた。




 ◇




「え!? い、今から!? ――――絶対行くわ!」


 ティナ令嬢が前屈みになるくらい勢いよく僕に近づいて来た。


 ――――ワルナイ商会のデミオさんとの男の約束を守る為にやってきたのだ。


 一応名目は『デート』ではないんだけど……『お出掛け』って事にしている。


 預けている『ホーリーウルフ』のホリちゃんの散歩がてら、ホリちゃんに必要なモノがあれば買う感じになった。


 執事のアルフレッドさんに許可を取り、ティナ令嬢とホリちゃんとロスちゃんを連れ、散歩という名のデートに出発した。




 あまり目立つとトラブルに巻き込まれるかも知れないので、ティナ令嬢にはいつもの綺麗なドレスから、歩き易そうな可愛らしいワンピースに着替えて貰った。


 美しい金髪と金色に輝く瞳を優しく目立たせる白いワンピースは、今までのドレス姿と違って、とても綺麗に思えた。


 いつもはドレスに目がいくからね……。


「え、えっと……クラウド様? どうしたの?」


「え! ご、ごめんなさい……いつもと違って可愛らしいなと思いまして」


「っ!! は、はぁはぁ……げふん…………じゃあいつもは可愛くないの……?」


 困った顔で首を傾げるティナ令嬢。


 その仕草もまた可愛らしい!


 というか、女子とこんなに話した事ない僕には耐性が無くてしんどいよ!


 サリーなら普通に話せるのに……どうしてだろうか?



 街の人達に誤解しないようにロスちゃんとホリちゃんには首輪をして貰い、紐で繋いで街を歩いた。


 そう言えば、この街をゆっくり歩いた事なんてないのよね。


 スロリ町とは比べものにならないくらい広くて、人の行き来も多い。


 街の中央区は貴族街らしくて、兵士さんも多く行き来している。


 中央部から外回りに平民達の一般区があって、中央区よりは治安が良くないらしいけど、そこら辺の街に比べりゃものすごく安定しているとペイン商会頭のブリオンさんが言っていたっけ。



「って!! ティナ様!! そっちは一般区ですよ!?」


 迷うことなく、中央区の商店街の真逆に向かって走り出すティナ令嬢。


「せっかくだから一般区が見てみたいわ!」


「えええええ!? ――――まあ、いいか……ロスちゃんもロクも護衛宜しく!」


【あいあいさ~!】【任せといて!】


 ロクは空の上から僕達を見守ってくれている。


 風の魔法を使って姿を見えなくさせているらしい。


 元々とても目が良いから、遥か上空でも問題ないと思うけどね。



 走り去るティナ令嬢を追いかける。


 珍しくロスちゃんも気合を入れて走ってるけど、本気で走ると『ゴゴゴゴォー』って音が聞こえるので、そうならないようにセーブして貰っている。


 こんな小さな犬なのに、本気走りは危険過ぎるのだ。



 ティナ令嬢と一般区の商店街に来た。


 中央区とは比較にならないくらい人でいっぱいだ。


 しかも、ものすごい活気がある。


 あちらこちらで色んな商品を売っている店員の声がしていた。


 既に目がキラキラしているティナ令嬢は、今すぐにでも飛びつく気満々だ。


 取り敢えず、このままだと危険だと感じたので――――ティナ令嬢の手を掴まえた。



「っ!? クラウド様!?」


「ティナ様、危ないですよ。人が多いですから……その……嫌だったら今すぐに」


「ううん! このままでいいわ!」


 意外にも嫌がってないみたいで良かった。


 僕はティナ令嬢と初めてのデート(?)を楽しんだ。


 いや……緊張し過ぎて全く覚えてない。


 だって…………。





 女の子と手を繋ぐなんて初めてだったから…………。

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