第24話 狢と職人

 サリーの案内で、いつもの山とは反対側の森にやってきた。


 森に来るのは久しぶりで、目ぼしい魔物がいない事もあって、殆ど訪れる事はなかった。


 こんなひっそりした場所だからこそいるのかな?




 ――――と思っていた時が、僕にもありました。


 森の中。


 めちゃくちゃになっているじゃん!


 穴だらけだよ!


 僕とサリーはロクに乗っているから落ちないけど、あの森を歩いたらすぐに落ちるだろうね。


 どうやら、あの穴から『崩壊の狢』と呼ばれているらしい。


 ロク曰く、当の狢本体はそれほど強くはないらしい。


 ただ、ひらすらに穴を掘るから、穴に落ちたら二度と出れないとの事だ。


 どうやって誘き出そうかと考えていると、飛んでいたロクが近くの木の上に止まると、穴から多くの狢――――アナグマ達が顔を出した。


【主様、あの子達が主様の言葉を待っているみたいだわよ?】


「え!? こんなに離れているのに?」


【ん~、先日のスライムちゃんを従魔にしてから、主様の力が強くなった気がするわよ?】


 あ…………とても思い当たる節があります……。


 あの時、『ちょうきょうし』のレベルが上がった。


 それで効果が強くなったのかも知れない……。


 ギガントクロコダイルだったり、ロック鳥だったりが既に従魔になってくれているから、効果というのは強さというよりは、範囲が広がったのかも知れないね。


「初めまして、僕はクラウド、僕の声が聞こえるかな?」


 狢達が一斉に首を上下させている。


 聞こえている事だろう。


「僕の従魔になって、僕が住んでいる町に穴を掘って欲しいんだけど、いいかな?」


 今度は狢達が一斉に敬礼の格好をした。


 これで従魔が増えた感じなのかな?


「ではこのままうちの町に引っ越して貰うけど、穴は指定した場所以外は掘らないようにね!」


 狢達が一斉に穴から飛び出て、一気にスロリ町に向かって走りだした。


 ロクに飛んでもらい、急いで帰還して、狢達を迎え入れた。


 ひとまず屋敷の地下に巣を作って貰い、地上との穴は二つだけにして地面が崩れないようにして貰った。


 …………これって、もしかして……この先、敵が出来た際に、相手の町の下に穴掘らせて崩壊させる方法もあるのでは……。


 そんな事を思っていると、狢達の中の子供が数匹いて、まだ幼いウル達と遊びはじめ、サリーも一緒に遊び始めた。


 小さい狼と狢達に囲まれているサリー可愛い。




 ◇




 穴掘りは狢達に任せるとして、今度は配管やタンクを作ってくれる職人を探す事にする。


 既に目当てはあるのでロクに乗り、ティナ令嬢に会いに来た。


 ティナ令嬢というよりは――――


「いらっしゃい、クラウドくん」


「ご無沙汰しております、辺境伯様」


「クラウドくんのおかげで、ティナの笑顔も増えているよ」


「あ、あはは……それは良かったです」


 恐らく、預けている『ホーリーウルフ』こと、ホリちゃんが随分とお気に入りのようで、きっちり十日ごとに遊びにいくと毎回ホリちゃんの事を色々話していた。


 ロスちゃんに似てて可愛いらしい、似ている……のか?


 それはともかく、僕が辺境伯様を訪ねた理由は、もちろん――――



「ふむ。鉄管を作る職人が欲しいとの事だったな? 既にワルナイ商会を通して準備を進めていたよ。この後、ワルナイ商会を訪ねてみるといい」


「ありがとうございます!」


「うむ、これからもティナのこと、宜しく頼む」


「あはは……僕なんかで宜しければ……」


 その後、ティナ令嬢の所に戻り、紅茶をご馳走になりながら、最近は聖女として『光魔法』を練習していると話してくれた。


 何故か拳に光魔法を纏うとか話していたけど……もしかして、そのまま殴ったりしないよね……?


 ティナ令嬢との時間も終わり、急ぎ足でワルナイ商会に向かった。




 ◇




「では、こちらで少々お待ちください。まもなく会頭が参りますので」


 綺麗なお姉ちゃんに案内され、ワルナイ商会の貴賓室で待つ事になった。


 予想していたよりは質素な調度品が並んでいるけど、部屋は品があり、貴賓室と呼ぶにふさわしく思える不思議な貴賓室の印象だ。


 出された紅茶も、最高級品ではあるが、最高級品の中でも一番流通されている紅茶に見える。


 去年の出来事もあり、僕の中のワルナイ商会の評判は最低辺だったけど、意外とこういうお金に物言わせるのではなく、さりげなくアピールしている所は好印象だ。


 そんな事を思っていると、ノックの音が聞こえ、以前辺境伯様と一緒に謝罪に来てくださったデミオさんが入って来た。


「クラウド様、お久しぶりでございます」


「デミオさん、お久しぶりです。それと、僕に様なんて付けてくださらなくてもいいですよ?」


「ふふっ、これから上客・・になられるやも知れぬお方ですから、お気になさらず。私の口癖のようなものだと思ってください」


「ま、まぁ……そういう事でしたら……」


「それでは早速ですが、どうやら鍛冶屋をお探しだと?」


「はい、スロリ町の地下に鉄管を伸ばしたいので、それを作ってくれる鍛冶屋が欲しいんです」


「なるほど……それで何をなさるのかを聞くのは野暮というものでしょう…………既に辺境伯様から鍛冶屋については聞いておりましたので、めぼしの鍛冶屋は見つけております。が、三人とも、一癖も二癖もありますというか、彼らは自分の目に適う相手にしかモノを作ってくれないで有名なのです」


 職人のプライドっていうやつかな?


 前世でも現場の勉強に行った時、職人さんのプライドの高さを目の当たりにしていたからね。


「それは厳しそうですね……彼らはどういうモノを基準にしているんですか?」


「ええ、彼らはとても腕が立ちますから……普通・・の素材には興味がないのでしょう。きっとレア素材を見せれば気に入れられると思います」


「レア素材……分かりました。ぜひ彼らを紹介してください」


「かしこまりました。と、言いたい所ですが……」


「……ワルナイ商会さんの取り分ですね」


 流石の商人。


 デミオさんは謝罪の時は見せなかった鋭い目になっている。


 息を一つ飲み込んだデミオさんが続けた。


「紹介料として――――――」


 僕の想像とはあまりにも違う要求が続いた。











「三年間、月一回、ティナ令嬢様とデートをして頂きます」


 えええええ!?


 どうしてワルナイ商会でティナ令嬢の名前が出て、しかもデートって!?


 それって普通なら僕が得じゃないの!?




 こうして、僕は職人三人を紹介して貰う事の代わりに、ティナ令嬢と毎月、一度のデートをしなくてはならなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る