第21話 八歳の始まり

 冬も終わり……遂に! 僕も八歳になった!


 八歳になったからと言って、今の生活が何かが変わる訳ではないが、僕に取って大きな節目である事は間違いない。


 何故なら――――お父さんお母さんとの約束があるのだ!




 僕は大急ぎでお父さんの執務室に向かった。


 ――――トントン。


「入っていいぞ」


 中からお父さんの声が聞こえた。


 一つ大きく深呼吸をして、中に入る。


「く、クラウドくんか……い、いらっしゃい」


「おはようございます、お父さん」


「ああ、座るかい?」


「はい!」


「そ、そっか」


 僕は急いでソファーに座り込んだ。


 そして、向かえにお父さん、お母さんが座った。



「こほん、お父さん、お母さん、去年の約束・・は覚えていますよね?」


「や、やはり…………あ、ああ、覚えているとも」


「では!」


「その前に、クーくん? 一つ良いかな?」


「はい!」


「クーくんはどうしてスロリ町の改造・・? をしようと思うのか、もう一度聞かせて欲しいの」


 お母さんが真っすぐ僕の目を見つめた。




 ――――実は去年。


 目覚ましい成長を見せる弟と妹……特に妹ね。


 彼らの成長に少しずつ焦りを感じていた。


 最近ではお母さんが褒めるのは二人ばかりで、僕は褒められる数が随分と減った。


 2年前は年間500回も褒められたのに、去年は…………450回しか褒められなかった。


 一割も減ってしまった…………。


 なので!


 僕は!


 もっと褒められたい!


 だから考えた末に思い付いたのだ!



 僕に前世の記憶がある……という事は、それに大きな意味があるはずだ。


 前世の記憶とは違うけど、前世の恩恵・・を受けたのは、従魔を従える事だけだ。


 まあ……前世では嫌で嫌で仕方なかった能力だったけど、この世界ではとても助かっている能力だ。


 でも、それは僕が持って生まれた能力なだけで、よくよく考えるとなんの努力していない事に気が付いた。


 毎日稽古や勉強を頑張った弟と妹は、既に羽ばたいている。


 でも僕は羽ばたけていない!



 悩みの末、考え付いたのは、自分が前世で最もやりたかったこと――――『建築士』になりたかった事を思い出した。


 『建築士』になりたくて毎日勉強漬けだった。


 その時の努力を思い出して、この世界で『建築士』を目指したらいいのでは? と思いついたのだ!


 だから去年、お父さんお母さんに「スロリ町を改築させてください」とお願いした。


 お父さんお母さんは、嫡男なんだからいずれは自由に出来ると言ってくれたけど、「やるなら! 今でしょう!」って、それはそれは説得して、何とか「来年からなら……」と約束を勝ち取った。



 僕は両親の前に、ある紙を出した。


 両親はキョトンとした顔で、紙を取り、眺めた。


「現在のスロリ町の良くない・・・・所のまとめです! 先ずは、それを改善したいと思ってます!」


「ちょ、ちょっと待って! えーっと……項目が多すぎて……」


「柵を防壁に? トイレ……? 畑改良?? 全く分からないけど……柵を防壁にするだけなら分かった。でもクラウドには悪いけどうちにそんなお金は……」


「大丈夫! お金も資材も全て僕が調達します! それで今のお店を大きくして、ペイン商会と提携すれば、資金も確保出来ると思います!」


「…………もしかして、最近変な木とか石とか集めてた理由って……」


「はい! 既に働き手も準備を進めています!」


「いつの間に…………はぁ、分かった。クラウドは一度言い出すと聞かないからな。ただ、あまり住民達に迷惑は掛からないようにな?」


「やった!!! お父さん、お母さんありがとうございます!!!」


「はぁ……こういう時ばかり、子供らしいんだから……」


 僕は部屋を飛び出した。


 ぐふふ! これで僕もお母さんにもっと褒めて貰え――――じゃなくて、スロリ町を良くするぞ~!




 ◇




 裏庭には木材が山になって並んでいる。


 冬期は狩りも出来な――――サリーに任せていたので、僕は熊さん達と連日、木を集めていたからだ。


 集められた木々は、全てハム達から皮をむいて貰った。


 こうして木々は木材となったが、ここで一つ大きな問題があった。


 それは、一度皮をむいて完成した木材は、実はそのままでは使えないのだ。


 何故かというと、木材は中に水分を沢山含んでいるからである。


 水分を含んでいる分、木材は大きくなるが、木材を使用してから中の水分が少しずつ無くなり、木材は必ず縮むのだ。


 そうなると、せっかく建てても、崩れる可能性が出てくる。


 だから、中の水分を全て無くす必要があるのだ。



 乾燥をどうしたらと悩んだ末、考え付いたのは、乾燥用倉庫を作る事にした。


 取り敢えず、丸太のまま持って来た木々を使い重ね始めた。


 裏庭の土地は広いので、丸太のまま作ってもかなり余裕があるからね。


 木々を三つ分ずつの長さにして、四角に囲って、丸太を重ねていった。


 丸太自身の重さがあるので、積み重なるとびくともしない。


 こうして壁が出来上がり、今度は屋根を作りたいが、この倉庫の天井部分を覆える程長い丸太があれば、そのまま乗せてしまうのだけれど、三つも並ばせて長くしているから長すぎてそんな都合のいい丸太なんてないのだ。


 そこで、前世の記憶を辿り、屋根は『切妻きりづま屋根』にする事にした。まぁ……一番見かける屋根だよね。


 サリーが颯爽と現れ、普通はこの世界では特殊な才能を持った職人さんがスキルを使い、何故か倒れない屋根が作れるらしくて、僕が作ろうとする方法に興味津々だった。


 先ず囲った壁の両面に屋根の三角になるように、丸太を立てる。真ん中が一番高くなる丸太だ。


 そして、そこから両面を繋ぐように丸太を横たわせる。


 但し、そのまま丸太一本では長さが足りないので、倉庫の内部になる部分に、丸太を繋いで立たせて『柱』を作り、天井面を横たわる丸太をしっかり支えるようにした。


 倉庫として使うので『柱』が多くても邪魔にはならないから問題ないはずだ。


 屋根の両面から横たわった丸太に、今度は縦軸に丸太を並ばせていく。


 並ばせた丸太に、既に発注していた『特大釘』を打ち込んでいく。


 ハム達が見た目以上に力が強く、難なく『特大釘』を屋根の丸太に打ち込んでくれた。



「完成!!!」


 僕の言葉に、いつの間にか集まって見てくれていた家族や住民達から歓声が上がった。


 屋根になっている縦軸の丸太の隙間から雨が漏れないように、上から変な魔物の粘液を貼っておいた。


 この世界で最も使っている粘液で、前世でいう『コーキング材』に似ていた。


 色も透明なので、遠くから塗ってあることすら分からないくらいだ……この粘液、覚えておこう!


「お兄ちゃん! 特殊才能がないのに、こんな大きなお家を建てれて、本当に凄い!!」


「うんうん! 最初は小屋を作るというから、小さい小屋だとばかり思っていたけどね。これは凄いわね。クーくん、偉いわ」


 そして、僕は念願のお母さんのよしよしを存分に堪能した。




 乾燥用倉庫の中に木材を大量に積み重ねる。


 前世とは違う方法で乾燥させるので、木材に隙間も作らず、そのまま積み重ねる。


 倉庫にいっぱいの木材が詰まったら、あとは倉庫真ん中にある、『土俵』に乾燥装置を置くのだ。


 ――――乾燥装置の名は『ファイアウルフ』!



 実は『ファイアウルフ』は元から温かく、冬はお家に入れておくと部屋中が暖かくなる暖房みたいな事が出来ていた。


 これからはこの乾燥用倉庫で乾燥も兼ねて、生活して貰う事になった。


 こうして、乾燥用倉庫を兼ねたウル達の新しいお家が完成したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る