第20話 ウルフ

 七歳の終わりの頃を迎えた。


 この世界の冬は、前世と同じで雪が降る。


 それも割りと積もるけど、不思議と雪による災害とかはないみたい。


 それでも山とかは沢山積もるから冬場は入らないようにしている。


 まあ、うちのサリー様には関係ないんですけど!


 冬でも関係なく狩りを楽しんでいた。



 そんな冬、僕に取って初めての出来事が起きる。


 それは――――。




 ◇




「生まれた!!!!」


 サリーの可愛い声と共に、目の前のサリーが抱えられるくらい、小さいを見つめる。


 この犬……いや、狼は、ウル達の子供なのだ。


 実は今年の夏、ウル達の中に数頭妊娠していたのが分かっていたのだ。


 生まれるのは半年後、つまり冬。


 こうして、今年の冬、僕は初めて従魔の子供を見る事が出来た。


 ロスちゃんも嬉しそうに、子供を産んでくれた母親のウル達を労っていた。



 話が少し反れてしまうけれど、従魔達にも『格式』というモノがあるという。


 誰も彼も僕に『念話』を送る訳ではないそうだ。


 僕から声を掛けられれば答えるけど、指示以外で自らの意志は決して伝えないみたい。


 それも全て魔物のカースト制度が存在している為だという。


 頂点はもちろん、僕になっている。


 その下にロスちゃんとロクの二匹。


 この二匹だけは自由に『念話』を送って来る。


 その下にウル達やハム達、熊さん達がいる。


 更にその下に、今回生まれた子供達になる訳だそうだ。


 子供達は生まれながらにこのカースト制度を理解しているようで、僕に決して『念話』を送ってはこなかった。



 サリー達と生まれたばかりのウル達の世話を始めて十日が過ぎた。


 本来『ファイアウルフ』という種族のウル達だが、意外にも生まれた子供達は『ファイアウルフ』だけではなかった。


 その上位種――――、と言いたかったんだけど、実はその逆だった。


 今回生まれた子供は全部で13頭。


 そのうち『ファイアウルフ』はたったの3頭だった。


 残り10頭はただの『ウルフ』だった。


 サリー先生曰く、元々『ファイアウルフ』は『ウルフ』の上位種であり、生まれながら進化した個体という事だ。


 進化した個体でもあくまで『ウルフ族』である事から、生まれる子供も『ウルフ』になるとの事だ。


 ただ、『ファイアウルフ』の子供は『ファイアウルフ』になりやすいという利点はあるみたい。


 今回13頭のうち3頭が『ファイアウルフ』だったけど、これでも結構多いみたい。


 残念な事に、自然で生まれた通常『ウルフ』の子供達は、長生きは難しいみたい。



 その時、生まれたばかりの『ウルフ』達、10頭に異変が起きたのだ。


 なんと!


 一所懸命に世話をしていたヘイリに懐き始めたのだ!


 しかも、ヘイリとは弱いけど、しっかり『念話』で意思疎通が出来ていた。


 まだ生まれたばかりだから、意思が弱いのもあって、全ての意思を伝えてられないみたいだけどね


 それでもヘイリと初めて『念話』を交わした魔物であった。


 ヘイリは僕のパシ――――友人だから、とても嬉しかった。



 暫く世話を続け『ウルフ』達の10頭がヘイリの従魔となるのはそう遠くない未来の話だ。




 ◇




「私も見てみたいわ!」


「ん~、でも子供達はまだ身体が弱いから、連れて来れませんよ?」


「むっ! じゃあ、私が行くわ!」


「ええええ!? 遠いですよ!?」


「大丈夫だわ! クラウド様の家……こほん、可愛らしい子狼と会えるならそれくらい我慢するわ」


 ティナ令嬢に月一のお茶会で、生まれたばかりのウル達の事を話したら興味が出たみたい。


「じゃあ、まずは辺境伯様の許可を取ってください」


「もう取ってあるわ」


「え?」


「だから、もう取ってあるわよ」


「へ?」


「いつも鳥に乗ってくるでしょう? 送り迎えさえちゃんとしてくれるなら、いつでも遊びに行って来ていいって、既に許可は取ってあるのよ」


 くっ……辺境伯様の許可を言い訳に出せば、諦めてくれると思っていたのに……既に先手を打たれていた……。


「わ、分かりました……では次は――」


「ほら、空は寒いと聞いていたから既に防寒着も準備してあるわ」


「…………」


 更に先手取られたぁあああ!


「さあ、早く行こう!!」


 仕方なく、ティナ令嬢を連れて帰宅した。


 ……もう一回送らないと行けないのよね……。




 ◇




「ティちゃん、いらっしゃい」


「サちゃん、お邪魔しますわ」


 仲が良いのに目と目の間に火花が散ってるように見えるのは、気のせいだろうか?


 ティちゃん、サちゃん呼びしてるし、きっと気のせいだろう。



 それから生まれた子ウル達の元に駆けつけたティナ令嬢は、もふもふパラダイスに堕ちていった。


 少しだけキツい性格だけど、外見は本当に『聖女様』らしい美しい方で、子狼達と戯れてる姿はまるで聖女様のようだ……。



 それから暫くティナ令嬢と戯れた子狼達。


 その中の『ファイアウルフ』の一匹に異変が起きた。


 突然ブルブルっと震え、その場に倒れたのだ。


 あまりにも突然な事に、右往左往する僕達だった。


 倒れた子狼をティナ令嬢が抱え、回復魔法が使えるお母さんの元に向かおうとしたその瞬間。


 子狼の身体が光り輝き始めた。


 抱え込んだティナ令嬢も驚いたけど、子狼を離さず抱え込み続けた。


 僕達も子狼を落として怪我させないように、ティナ令嬢が抱え込んだ子狼を抱え込んだ。


 それから数十秒。


 やがて光が弱まり、その中から姿を現した子狼は、毛が真っ白になり、頭に小さな角のような宝石が付いていた。


「お兄ちゃん! この子、『ウルフ』の最上位種の『ホーリーウルフ』だよ!」


 サリーの言葉に我に返って僕は、ティナ令嬢を守るように抱き込んでいた事に気が付いた。


 急いで離れるけど、既に両手にはティナ令嬢の肌のぬくもりが残っている。


 前世では、ただただ優しい人と言われ、女性からは「優し過ぎる男は面白くない」と言われ、大学でも彼女なんて出来た事はなかった。


 まぁ、僕もあまり女性に興味はなく、自分の夢に向かって頑張っていたから気にしてなかったけど、よくよく考えたら、女性をこうして抱き締めた・・・・・のは人生初かも知れない。


「てぃ、ティナ様、申し訳ありません」


「う、ううん! 仕方ないもの! こ、子狼の為なんだから! き、気にしないで!」


 うう……顔が熱い……。


「んも! お兄ちゃん! 私の前で何をしているのよ!」


「ち、違う! 子狼が落ちないようにしていただろう!」


「ふん!」


 ううっ……そんなつもりは全くなかったのに……。



 それから白い狼に変わった子狼は、正気に戻ると何故かティナ令嬢から全く離れようとしなかった。


 その後に現れたロスちゃんに現状を説明すると、【その子狼は間違いなく、ご主人の従魔だよ! でも彼女を守りたいという想いが強いみたいだから、そのまま預けていいと思う!】と言われた。


 ティナ令嬢にもその事を伝えると、嬉しそうにそのまま預かりたいと申し出てくれた。



 ただ、子狼とはいえ、自分の従魔が他人様の所で厄介になる以上、そのまま何もしない訳にもいかず、ティナ令嬢を送り、そのまま辺境伯様に現状の報告と相談をした。


 辺境伯様は全く動じる事なく、子狼は責任を持って面倒を見てくれると言ってくださった。


 食費とか出そうとしたけど、辺境伯様からは『ホーリーウルフ』という最上位種の魔物がティナ令嬢を守ってくれるのだと、寧ろ、護衛費を払わなければならないくらいだと笑顔で言ってくださった。


 さすがにそれは嫌なので、お互いに支払いなど無しに、そのまま預ける事となった。





「クラウド様! これからは十日に一度は来てね! 子狼が寂しがるから!」


 あ……どちらかと言えば、こっちが嫌かも……。

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