第19話 七歳

 遂にサリーも狩りに加わる事になった。


 お母さんからは散々心配されたけど、最近はロクの活躍もあって、もし何かあったらロクで避難するからとサリーの代わりに許可を得た。


 こうして僕の七歳の年が始まった。




 先ずアレンとエルドは着実に強くなっており、相変わらずビッグボアを一対一で狩っていた。


 ヘイリは残念ながら、未だ声を拾ってくれる魔物はいないが、本人は諦めず頑張っているから、その姿勢が偉いと思う。


 出来る事ならヘイリも頑張りに対する成果が得られるといいね。


 最後にサリー。


 うん。


 僕の想像を遥か斜め上をいった。


 先ず、彼女の才能が『賢者』である事を甘く考えていた僕は、後悔する事となった。


 初めて狩りに行った日。


 サリーはウルの上に乗り、走り出す。


 そして、向こうにビッグボアを見つけた。


 ――――直後。


「荒れ狂う炎よ! 我が声を聞き応えよ! ファイアランス!」


 その詠唱から、大きな炎の槍がビッグボアを貫いた。


 ――――たった一撃。


 しかも、初めての狩り。


 本人に聞いたら魔法を使うのも初めてだったらしい。


 更にそのままウルを走らせ、次は熊さん。


 熊さんにもちゃんと名前があって、『絶望の大熊ブラックベア』というらしい。


 それもサリーから教わった。


 …………サリーはいつの間に魔物の名前も覚えたのだろう?


 ブラックベアを見つけたサリーは、


「大気を震わしモノよ! 我の声に応え、敵を滅ぼせ! ウィンドブラスト!!」


 可愛らしいサリーの声から、今まで聞いた事もない暴風の音が鳴り始め、熊さんが暴風に飲み込まれた。


 暴風にあとにはボロボロになった熊さんが残っていた。


 ……サリー、神の子、怖い子。


 これからはサリーに逆らわないようにしないと…………。




 ◇




 狩りを行ってから一か月が経った。


 この一か月でヘイリにも……と言いたかったけど、やっぱり躍進したのはサリーだった。


 と言うか!


 サリーの躍進ぷりが異常過ぎるんですけど!?


 サリーは「お兄ちゃん! 魔法を九九九で覚えたら無詠唱で使えるようになったよ!」という訳の分からない事を話すと、今までの可愛らしい詠唱は無くなり、しかも一度に二つの魔法を同時に使えるとの事で、右手に炎の槍、左手に氷の槍を作り、魔物を蹂躙するようになっていた。


 更には、ロクを呼び寄せ、ロクの背中に乗り、上空から爆撃を始めた。


 このままでは森や山の魔物が、サリーによって全て駆逐されそうな勢いだ。



 そんなサリーの急成長に敏感に反応したのが、意外にもエルドだった。


 エルドはロスちゃんに何かを訴え始めると、熊さんと稽古をするようになっていた。


 ……えっと、君、剣聖だよね?


 なんで熊さんと相撲をしているのかな?


 それを見ていたアレンも気になったらしく、熊さんと相撲を始める。



 何が何だか良く分からないまま、更に一か月が過ぎた。


 ――すると。


 遂にアレンとエルドが覚醒した。




 今までは危ないのでビッグボアまでしか戦わないようにしていたけど、ロスちゃんから許可が出て、今度はブラックベア、サンダーディアーと戦うようになった。


 結果は、言うまでもなく――――圧勝だった。


 二人とも、強くなるの早くない!?


 熊さんとの相撲が効いたのかな?



 まあ、残念だけど、空を見上げると相変わらずの爆撃機が飛んでるから、二人とも満足はしてなかったけどね。




 ◇




 僕が荷造りをしていると、サリーが近づいてきた。


「お兄ちゃん、ティちゃんに会いにいくの?」


「ん? ああ、そうだよ」


「ふぅん~何か嬉しそう」


「嬉しそうじゃないでしょう! この顔の何処が嬉しそうなんだよ!」


「ふん!」


 ティちゃんというのは、ティナ令嬢の事である。


 実は、先日の食事会の終わり際、ティナ令嬢から「これからは毎月・・に一回以上は来て頂戴!」と言われてしまった。


 お父さんから辺境伯様の機嫌を損なわないようにと、口酸っぱく言われていたから断る事も出来ず、あれから毎月に一回だけ・・会いに行く事にした。


 先月も向こうに行く時に、サリーに嫌味を言われていたっけ……。


 既にティちゃん、サちゃんって呼び合ってる仲なのに、不思議なものだ。


 これだから女性の事は良く分からない。



 僕はロクの背中に乗り、バルバロッサ領都を目指した。


 バルバロッサ領都に向かっている間、ロクからサリーの愚痴を聞かされてしまった。


 急降下が楽しいらしく、時々急降下を要求するみたいで、ロクとしては何度も急降下させられて疲れるとの事だ。


 ロクが疲れを感じるって、うちのサリーは最強かも知れない……。




 バルバロッサ領都に着いて、ティナ令嬢に会いに行き、一時間ほどお茶を楽しんだ。


 相変わらず、ロスちゃんを抱いて幸せそうにもふもふしている彼女。


 それにしても……ティナ令嬢って本当に綺麗な人だね。


 うちのサリーも可愛いと思うんだけど、ティナ令嬢は人形のような美しさがある。


 ――――「ちょっと!」ってムッとした顔以外はね。



 お茶会が終わり、今度はペイン商会を訪れた。


 実はペイン商会はワルナイ商会から要請を受けてバルバロッサ領都にも支店を出しているのだ。


 こうした大商会から要請で出店するのは、凄く珍しい事で、ペイン商会としても出店を考えていただけに喜んで応えたそうだ。


 現在のペイン商会はバルバロッサ領の東部、スロリ町付近を中心に活躍の場を広げている。


 勿論、僕達の狩った獲物は全てペイン商会に卸している。


 肉だけでなく、素材も貴重なようで、飛ぶように売れているみたい。


 ビッグボア、ブラックベア、サンダーディアー、どれも高額で取引されていた。


 ……うちの領って意外と素材の宝庫なのかな?



 ペイン商会のエグザ支店もものすごい賑わいを見せていた。


 一番人気があるのは、やはりビッグボアのお肉。


 ジューシーで美味しく、僕もサリーから教わって初めて知ったんだけど、ビッグボアのお肉は非常に栄養価が高いようで、毎日ビッグボアのお肉だけ食べても良いくらいらしい。


 美味しいのに栄養価抜群、そりゃ……売れるよね。


 次の人気は意外にもサンダーディアーの角だった。


 角は使い道が多くて、魔法使いの杖に加工すれば雷魔法の威力増強。


 アクセサリーにすると、雷属性耐性を得られる。

 

 すりおろして粉にすると、病気に良く効く薬になるのだ。


 基本的にはすりおろして粉にし薬として運用するケースが多い。


 しかし、中には冒険者もいて、アクセサリー用に買って行ったりするとの事だ。



 ブラックベアは意外と人気がない。


 肉が固くて食用としては微妙だし、爪も固くて加工が難しいのだ。


 それでも売れる理由としては、肉としては固くて食べにくいが、実は意外と良い出汁・・が取れるのだ。


 普段から魚を主食にしているからだろうか? ブラックベアの肉から取った出汁は非常に美味しくて、住民達が買うというよりは、多くのレストランや食事付き宿屋さんが購入していた。


 爪も加工が難しいだけで、加工すれば天下一品の武具となる。


 腕に覚えがある鍛冶屋が購入していた。

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