第18話 妹の才能

 聖騎士アイラお姉ちゃんが来てから数か月が経ち、気が付けば冬が終わり、春になった。


 1月1日。


 そう、『才能啓示儀式』の日である。


 我ら天才サリー様の番である。



 場内には相変わらずの子供達が並んでいる。


 今年も多くの子供達が泣いては笑うような日が来たんだね……。


 三度目の参加ともなると、我が子のように子供達の無事を祈る余裕も生まれていた。



 って!


 サリーちゃん?


 一番速い順番なの?


 神官の合図で、一番手にサリーが登壇する。


 僕とアレンは最後だったのに……サリーは最初なんだね……。


 サリーが水晶に手を掛ける。


 ――そして。



 ああ……ですよね~溢れんばかりの光――いや、寧ろ、あの天才が『無才』とか言われたら神様に本気でツッコミを入れたかも知れない。


 アレンほどの輝きではなかったが――エルドやティナ嬢くらいの光がサリーを包み込んでいた。



「な、な、汝の才能は――――け、け、け」



 神官さん今年も震えている。


 あ!


 よくよく見たら、その頭……カツラだね?


 震え過ぎてカツラが少しずつズレてるよ?




「賢者!!!!」




 会場から歓声があがった。


 嬉しそうにドヤ顔で帰って来る可愛らしいサリーを横目に、二番目の子供の顔が真っ青なのは気のせいよね?


 それから僕達は会場を出て、お祝いに食事会をしようとしていた。


 ――なんだけど。


 会場を出ようとした時、僕の前を塞ぐ一人の女性。



「ちょ、ちょっと!」


「ん? あっ! ティナ様、お久しぶりです」


 いきなりだけど、普段から練習していた貴族の挨拶を繰り出す。


「お久しぶりです――――じゃないわよ!」


「えっ!?」


「全く……クラウド様ったら……全く遊びに来てくれないじゃない!」


 ……。


 ……。


 えっと~前回遊びに行ったのは~。


 …………前回も何もお茶会ん時だけか。


「あはは……最近は狩りが忙しくて……」


 ――と、その時。


 僕とティナ令嬢の前を塞ぐ一人の女性。


 ――サリーちゃん!?


「ちょっと、貴方何処の女よ! 私のお兄ちゃんは渡さないんだからね!」


 えええええ!?


「!? わ、私は…………くっ! バルバロッサ領主の娘、ティナと申しますわ」


「ふん! 権力を振りかざす不届き者ね!」


 サリーちゃん!?


 最近覚えた単語を無暗に使うんじゃないよ!


「ふ、不届き者!? いえ! 私はれっきとしたクラウド様の友人ですわ! ねぇ? クラウド様!」


 ティナ令嬢が僕を見つめる。


 ゆ、友人ね……どちらかと言えば、ロスちゃんじゃないかな?


「あ、あはは……一応? 友人かな?」


「お兄ちゃん! 私に相談もなしでを作るなんて! 許さないからね!」


 サリーちゃん!?


 言葉間違えてるよ!?


 女を作るってそういう意味じゃないんだよ!?



「くっ! クラウド様!」「お兄ちゃん!」



 二人が僕に迫って来る。


 ――その時。



「ガハハハッ! ティナがここまで積極的になるとは、珍しいな」



 そこにはいつものお父様である辺境伯様がいた。


「辺境伯様、お久しぶりでございます」


「ベルン殿、久しぶりじゃ、どうじゃ、この後のサリー嬢の祝いも兼ねて一緒にどうかね?」


「ひぇっ!? あ、ありがたき幸せ! ぜひ、お供させていただきます!」


 あっ、お父さんが勝手に決めちゃった。


 まあ仕方ないか……相手は辺境伯様だし、断る事は難しいよね。


 サリーとティナ令嬢が未だバチバチしてるけど……ロスちゃんを抱っこさせてあげたら落ち着くかな?




 ◇




 どうやら辺境伯様の三男の才能啓示だったようで、残念な事に『無才』との事だ。


 まぁ『無才』だからといって、悪い事ばかりではない。


 『無才』でも、努力して才能ある者よりも活躍出来る人も多数いるのだから。


 今回の才能啓示は、うちのサリーたった一人だった。


 中々珍しい事らしく、この町の教会では初めての出来事らしい。


 ――なんだかうちのサリーがみんなの分の才能を吸い込んだとかじゃなければいいけど……。



 そんなこんなで、僕達は辺境伯様、奥様、ティナ令嬢、三男のポリー令息と共に、お父さん、お母さん、僕、アレン、サリーの九人で近くの高級レストランで食事会となった。


 辺境伯様の奢りらしくて、次々美味しそうな料理が運ばれて来た。


 美味しそうに食べていたお母さんは「私も作ってみようかしら」と呟いていた。


 正直な感想として、出される料理はどれも美味しいけど、うちのお母さんが作ったら、恐らく数倍は美味しくなると思う。


 それと、ティナ令嬢とサリーがやっと和解出来た。


 サリーにロスちゃんを抱っこさせて、ティナ令嬢になでなでさせたら和解してくれた。


 ……まだ視線が少しバチバチしてる気もするが、大丈夫だろう。


 女性の事は良く分からないのだ。



「おお、そうだ。クラウドくん」


「はい、辺境伯様」


「クラウドくんは何処・・の学園に入るのだ?」


「……学園?」


 学園??


 この世界にも学校ってあったの?


 僕はきょとんとした表情のまま、お母さんを見つめた。


「あら? そう言えば、クーくんにはまだ説明してなかったわね。15歳になったら3年間学園に通えるのよ。ただ……学費が高い所と安い所があるから、選択肢はあまり多くないんだけどね」


 へぇー!


 全く知らなかった!


「こほん、因みにだが学園には施設の充実さや講師のレベルで差が広がっておる、我が王国内で最もハイレベルな学園は『王都バビロン学園』だったりするのだ」


 王都バビロン学園……覚えておこう。


「どうだね? もしよければ、うちのティナと一緒に入らないかね?」


「えええええ!? でも試験とかあるんじゃ……?」


「ガハハッ! クラウドくんなら余裕で入れると思うがね?」


「う~ん、まだ時間は沢山ありますから、少し考えさせてください」


「うむ。色んな大都市に学園があるし、受付で見学を申し込めば見学させてくれるはずじゃ、バビロン学園だけは見学が不可能だがね」


 そもそも最高クラスの学園だから誰でも見学させる意味はないって事ね。


「あ! それなら、うちのアレンくんはどうなるの?」


「アレンくんは、好きな学園に入れるわよ? バビロン学園にも試験なしで入れるんじゃないかしら」


「才能『勇者』と『聖女』だけは特別でね、王国内の学園なら何処でも選ぶ権利があるのじゃ」


 ほぉ……さすがは勇者様だね。


 最高の待遇を受けられるのね。


 聖騎士も付くし、勇者って才能は王国に取っても大きな力となるのだろうね。




 こうして、僕は初めて学園というモノがある事を知った。

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