第17話 聖騎士

 サリー勉強会が終わると、僕は三人の弟達を連れ、狩りに出かける毎日だった。


 サリーは最近ではその才能を開花させており、既に僕では理解出来ない言語を話し始めた。


 まさか、この世界に『円周率』というものがあるとは知らなかった……って! 絶対そんなのないよ! サリーが天才過ぎて思いついちゃったんだよ!


 そんなサリーが一人黙々紙と睨めっこしている間に、僕達は狩りに勤しんでいた。



 最近の狩りのやり方としては、


 ペイン商会から購入した非常に高額な『ミスリルの剣』を二つ、アレンとエルドに渡しており、二人にはビックボアを二人で倒して貰う事にした。


 最初は手こずりそうだったので、ウル達に弱らせてから狩りを始めたが、それも十日ほど経つと、二人だけで倒せるようになっていた。


 もう一人のヘイリは一所懸命に魔物達に声を掛けている。


 声を掛けると言っても、実際口にする訳ではなく、心の声で声を掛けていた。


 まだヘイリに付きたい魔物はいない。


 それ所が、僕の力がますます強くなって、視界に入る魔物は僕に近づいて来る。


 ロクから誰でも従魔にするのは辞めた方いいと言われ、近づいて来た魔物には悪いけど、狩りの獲物にさせて貰った。


 増え過ぎて管理するのも難しければ、餌を与えるのも難しい。


 そのまま狩りに出しても良いけど、それはそれで従魔にする意味があまりないから、必要な時に必要な数だけ従魔にすればいいと言われた。


 最近知ったけど、ロクって意外と物知りで頭が良かった。


 性格がひん曲がってさえしなければ……。




 狩りを続ける事、一か月。


 アレンとエルドは日々強くなるのが見て分かる。


 今ではビックボアくらいなら一人で倒せるようになっていた。


 あれを一人で倒せるって……田舎だからかも知れないけど、そんな人見た事がないからね。


 二人は常に「「ロス師匠のおかげっす!」」が口癖になっていた。


 狩りから帰ると広場でロスちゃんが丸太の上から見下ろして、その前で二人で素振りをする毎日だからね。


 だから犬が師匠ってどうなのよ!




 そんなこんなで日々を過ごしていると、遂にあの人がやって来た。




 ◇




「初めまして! 聖騎士のアイラと申します!」


 アレンの見守り聖騎士がやって来たのだ。


 やって来たのはいいんだけど…………まさかの女性聖騎士だった。


 しかも、まだ若い。


「私の年齢や性別で心配かも知れませんが、最年少記録で聖騎士になりました」


 この世界で女性の立場は非常に弱い。


 前世のような『女性の権利』を訴える人がいないからだ。


 いや、訴えたとしても直ぐに消されるだろう。


 だから多くの女性は家事全般や教養を求められていた。


 まあ、中にはごく稀に出世する女性もいる。


 それが目の前の聖騎士という事なのだろう。


 まあ……恐らくだけど、こんな辺境の地に行かされるのだから若く、女性である彼女を宛てがいたかっただけだろうけどね……。


 あの枢機卿め……絶対わざとだよ……。



「えっと、勇者様は……貴方様でしょうか?」


「いえ?」


「えっ? でも……聞いた通り……青い髪と瞳……」


「ああ、僕は兄です、勇者は弟です」


「そうでしたか、これは大変失礼致しました。では勇者様にも挨拶をしておきたいので、案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 年下にも関わらず僕にも丁寧な対応。


 このお姉ちゃん……出来る!


 僕は聖騎士お姉ちゃんをアレンの元に案内した。


 その時。



「な、なっ! 危ない!!!」



 聖騎士お姉ちゃんがいきなり剣を抜いて、アレンの元に走った。


 聖騎士なだけあって、むちゃくちゃ速いな!


 僕は追い付く事も出来ず、彼女は真っすぐ――――アレンとロスちゃんの間を塞いだ。


「な、何故こんな所に、こんな強い魔物が! くっ……私一人で倒せるのか……」


 あまりの急な出現にアレンとエルドもポカーンとしていた。


 その時、今度は上空からロクが降りてきた。


「ひぃ!? こっちも『災害級魔物』クラスの魔物……」



 ロスちゃんとロクを交互に見ながら震える聖騎士。


 可愛らしい顔も冷や汗だらけになっていて、ちょっと可哀想に見えた。


「聖騎士お姉ちゃん! その子達は僕の従魔ですからね! 斬っちゃ駄目ですよ?」


 やっと追いつけた。


 先の動きから伊達に聖騎士になったのではない事は分かった。


「え? 従魔?? この『災害級魔物』の気配がある魔物が???」


「そうですよ。そうじゃなかったら、犬の前で素振りなんてしないでしょう!」


 聖騎士お姉ちゃんはアレンとエルドが持っている木剣を見つめた。


「う、嘘……」


 その場に座り込む聖騎士お姉ちゃん。


「まあ、これからアレンの為に剣術とか教えてくれると嬉しいです。僕はクラウド。勇者で弟のアレン、剣聖でパシ――――じゃなくて、友達のエルドです」


「あ、あはは……はは…………」


「お姉ちゃん~大丈夫??」


「え、ええ……ごめんなさい、取り乱したりして……未だに理解出来ないけど、貴方がそう言うならそうなのでしょう……」



 こうして、うちにもう一人のパシ――――じゃなくて、家族が増えた。


 弟のアレンのお目付け役の聖騎士アイラお姉ちゃん。



 気が付けば、お姉ちゃんもアレンとエルドに混じり、ロスちゃんの前で素振りするようになっていた。


 お姉ちゃん、アレンに剣術教えて欲しいのに、一緒に素振りするんかい!


 屋敷の一角の部屋を提供すると、生活費だと言い、金貨一枚を渡された。


 これから定期的に渡すらしいんだけど、教会のわりに意外と多めの生活費を渡すのね?


 何故かその生活費はお父さんではなく、僕に預けられた。


 お母さんからは「この家の食材は全てクーくんが取って来てるから、クーくんが管理しなさい」と説明された。


 最近では僕が開いたお店を使って、屋敷の全ての食材やら資材を卸している。


 お金を貰うつもりは欠片もないんだけど、お父さんに渡しても使い道はないから、お金でも貯めて町を大きくしてね~なんて冗談半分でお母さんは言う。


 そう。


 冗談半分で言ったのだ。


 お母さん……。


 僕に冗談半分で言うとは……。




 大事にするに決まっているよ!

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