第16話 勉強

「や、やだ!!!」


 アレンが我が儘を言いだした。


 才能『勇者』を授かったアレンには日頃から訓練を受けて貰うつもりでいた。


 いたんだけど……。


「僕は兄ちゃんと一緒がいい! じゃなかったら『勇者』なんていらない!!」


 と言い出した。



 去年、才能を授かったらちゃんと狩りに連れてってあげるという約束をずっと覚えてくれていたのだ。


 しかも、その為に日頃から嫌いな勉強も頑張り、訓練もしていたそうだ。


 そして、


 隣に涙を堪えているサリーは――――


「おにいちゃん……やくそくしてくれたよね? さりーたち、がんばっても……だめ……なの?」


 思わずサリーを抱き締めてあげた。


 ごめんなサリー、アレン。


 兄としてバカな事を考えていた!


 これからはお兄ちゃんと毎日遊ぼう!


 でもサリーはちゃんと勉強して欲しいから、毎日勉強は頑張って貰うけど。



 話の流れで一人になるサリーが可哀想だと思ってしまい、僕とアレンが勉強を見てあげる事となった。


 折角だからとエルドも混ざる事になった。



 そう決めた日。


 町にとある一家がやってきた。


 僕を探しているみたいで、出迎えてみると……。



「クラウド様! どうか僕を弟子にしてくださいませ! 必ずや、クラウド様の為になると誓います!!」



 ……。


 ……。


 エルドに続き、今年もパシ――じゃなくて仲間が一人増えた。




 ◇




 ヘイリも平民だからまともな教育を受けておらず、僕の質問に全く答えられなかったので、ついでにヘイリの勉強も見る事となった。


 そして、僕は驚愕の事に気がづく。


「えっと……いちたすいちは……に……かな?」


 と、てへって笑顔になるサリー。


 待て待て!


 足し算くらいはちゃんと出来ないと、これから生きるのに不便だよ!?


 僕は急いでハム達に頼み、木の棒を数百個作って貰った。


 大きさは指くらい。


 その木の棒を並べて、数を数えさせてみた。


 意外にも、数はちゃんと数えられた。



「では、次は『足す』について!」


「「「「たす??」」」」


「……サリー!」


「あいっ!」


「その木の棒を一つ持ちなさい」


 サリーが木の棒を一つ持ち上げた。


「それを数えると?」


「いち!」


「では次は一個足してみよう、左手でもう一個持って」


 サリーが両手に木の棒を一つずつ持った。


「ではそれを数えると?」


「に!」


「はい! ではそれを片手に持って、今度は更に二本持って」


 サリーが左手に木の棒を二つ持ち、右手で木の棒を二つ持った。


「それを数えると?」


「よん!」


「ほら! これでサリーも足し算が使えるようになったよ!」


「「「「たしざん???」」」」


「うん。今みたいに、個数を数える時はこの木の棒を想像するんだ。例えば、左手に元々六つ持ってるとしよう、そして右手で五つ持つと、幾つだ?」


「「「「じゅういち!」」」」


「そう! 足し算とは、こうして持った木の棒を足した数字になるんだよ。では今度は三つやるぞ?」


 今度はサリーとアレンに木の棒を持たせて、三つの数字の足し算を教えた。


 そして、四つ、五つと四人が全員で持って八つまで数えるようにした。



 それから毎日足し算の勉強を繰り返すと、全員が二桁を手に持って計算できるようになっていた。


 意外とみんなの理解力が高くてびっくりしている。


 サリーたちも足し算が楽しいみたいでどんどん桁を増やして、今度は持ってなくても想像するだけで足し算が出来るようになってた。


 更には――――三桁の数字を八つ分足しても計算できるようになっていた。


 あれ? 実はこの中で一番頭悪いの僕では?


 三桁数字をバラバラに八つ足すって、そんな瞬時に計算なんて出来ないよ!!


 みんなどんだけ頭いいんだよ!?




 ◇




 足し算を教えて数日。


 このままだと四桁数字を八つ足しでも瞬時に計算できるようになりそうだったので、兄として、先生として、威厳を守るためにサリー達には次なる試練を与える事にした。


「次は掛け算を教えるよ!」


「「「「かけざん???」」」」


「ああ、掛け算とは、まず、ある数字があるとする。その数字を回数分・・・増やす事を言うよ」


「「「「????」」」」


「まず、やってみるね。ここに2個の木の棒があります。これに2を掛けてください。と言われたら、答えは4になるんだ。つまり掛けるとは元の数分増える事となる。ここに3個の木の棒がある。これに3を掛けると、3個を三増やすから、答えは9となるの」


「「「「ほえええ」」」」


 さすがの神童たちも掛け算には戸惑うようだ。


 よし。


 これなら教えられそうだ。




「あ~! わかった!」




 サリーからどうやら不穏な言葉が飛び出した。


「かいすうってみんながもってるかずになるんだ! わたしとあれんおにいちゃんがもつとよんかい! 2が4かいだから、8だね!」


 ……。


 ……。


 うちのサリー、天才の子。


 末恐ろしい……。



 それからサリーは訳の分からない持論を展開し、みんなに説明していた。


 正直、何を言っているのかさっぱり分からない。


 だが、一つだけ確実に分かった事がある。






 何故、教えてもない掛け算の九九を作ってるんだい?


 しかも、それって数字的に九九じゃなくて九九九だよね?


 あ…………もうこの神童達に勉強を教えるのは止めようと思う……。






「あれ~! ふしぎだ! これをはんたいにすると、きれいになるよ!?」


 それは割り算だよ!!


 掛け算だけやってるのに、なんで割り算まで導き出せるのよ!!!


 僕は暫く毎晩、サリーの恐怖の「あれ~ふしぎだ~」というセリフが離れなかった。

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