第15話 弟の才能

 辺境伯様との二度目の再会から数か月が経ち、冬が終わり、春が来た。


 1月1日。


 そう、今日は『才能啓示儀式』の日である。


 僕はこの日の為に、毎日狩りに勤しんでいた。


 ロクが意外にも力持ちで、輿をそのまま鷲掴みしてアングルス町に運べたのも大きかった。


 アレンもサリーも空を飛べると新しい輿の運び方に大いに喜んでいた。



 『才能啓示儀式』の寄付金。


 その寄付金がないとアレンの才能を開花させてあげれない。


 だから、毎日狩りに勤しんでいたのだ。


 お父さん曰く、ものすごく高額と言っていたから心配性な僕はとにかく金貨を集めた。


 金貨を五十枚も集めたけど、これで足りないと言われたらどうしよう……。



 そんな事を思いながら、僕はみんなで『才能啓示儀式』の会場に到着した。




 ◇




 相変わらず多くの子供達が並んでいる。


 みんな自分の番までソワソワしているけど、どちらかと言えば親の方がソワソワしているね。


 うちも弟は勿論、お父さんお母さんもソワソワしていた。


「お父さん、お母さん、落ち着いて!」


 六歳児に落ち着いてと言われるお父さん達はどんな気分なんだろうか?



 順番は、何故か今回もうちが最後だった。


 そして、弟の前の子供の番になった。



「ヘイリ、平民です」



 彼は神官から言われたように、水晶に手を翳す。


 すると、水晶から大きな光が溢れ出た。


 今日一番の光かな?


 ……。


 ……。


 あれ? こんな展開、何処かで見た事あるんだけど……?




「汝の才能は…………ま、ま、ま」




 神官が震え出す。


「――――魔物使い!」


 神官の声が聞こえると、場内に大きな歓声があがった。


 今日一番の歓声だ。


 この世界の『魔物使い』は特別視されているからね。


 ヘイリくんは嬉しそうに戻って来た。


 その時。


 ヘイリくんが僕を見ると目が大きくなり、僕の前に走って来た。


 そして、僕の前で土下座して涙を流しながら「おお! 神様!」と崇め始める。


 ……。


 ……。


 えっと……ヘイリくん? 僕は神でも何でもないよ?



 その直後、僕の頭に乗っていたロスちゃんが飛び降り、土下座していたヘイリくんの頭に右手をあげた。


「うおおおお! 神様! いつまでもご一緒させてください!!!」


 ……。


 ……。


 またロスちゃんかい!


 こんなやり取り、去年もあったよ!




 落ち着きを取り戻した場内は、神官の合図で最後のアレンが呼ばれた。


 ――そして、アレンが金貨1枚を神官に渡した。


 えええええ!?


 寄付金ってたったの金貨1枚なの!?


 僕はてっきり50枚とか100枚とかだと思っていたのに!


 お母さんが「そんな高額な訳ないじゃない、そもそも金貨1枚でもとても高いのよ」との事……。


 はぁ……、一年間狩りを頑張って来たのに、お兄ちゃんは全く助けにならなかった……。


 去年デミオさんが返してくれたお金で事足りるのね……。


 来年のサリーも十分に受けられるとの事だった。




 アレンは神官の合図で水晶に手を翳す。


 ――そして、今まで見た事もない光が溢れ出した。


 ちょ、ちょっと!?


 光溢れ過ぎじゃありません!?


 去年の聖女と言われたティナ令嬢も凄かったけど、その比じゃないよ!?



「ひいいい!!!!」



 神官がその場で土下座。


 ちょっと! うちの弟の才能を早く教えてくれよ!



「遂に!! 遂に誕生された!!!」



 場内のどよめきが広がった。


 全ての人が神官の次の言葉を待ちわびる。


 そして、神官は告げた。











「勇者様じゃ!!!!」




 ◇




 現在、僕達一家は教会の一番偉い人を待っている。


 枢機卿という方らしいんだけど、忙しくてまだ来れないらしい。


 なので、僕達は数時間部屋で待たされる事となった。



 って!


 数時間も待ってられるか!


 僕が怒りだすと、アレンも「お兄ちゃんが怒るなら僕も怒る! 教会嫌い!」と言い出し、お父さんとお母さんは苦笑いして、そのまま教会を後にした。


 ……それがまた大きな問題となるのであった。




 ◇




 次の日。


 一台に馬車が走って来た。


 その馬車は、一目散に屋敷に入って来た。


 そして、中から出て来たのは――――。



「へ、辺境伯様。い、いらっしゃいませ」


「ベルン殿、度々すまない……」


 辺境伯様ともう一人、綺麗な白い礼服を着込んでいたお爺ちゃんが降りて来た。




 ◇




「昨日は大変失礼しました。勇者様の誕生に神官たちも驚いてしまい、帰すに帰せずにいたようです……」


 白い礼服のお爺ちゃん。


 この人は、バルバロッサ領を総括しているハーレクイン枢機卿である。


 枢機卿は申し訳なさそうに頭を下げた。


「こちらこそ、何も言わず去ってしまい申し訳ありませんでした」


「せめて宿屋に――痛っ」


 僕が隣で小言を挟もうとしたら、お母さんの鉄拳が落ちた。


「子供達が不安・・がっておりましたので……」


「ほっほっ、それは仕方ありますまい。それで……勇者様はこちらの?」


「いえ、僕は兄です!」


「ほっほっ、中々聡明なお子様ですな! ベルン家に多大なる祝福があるでしょう」


「ありがとうございます」


 ん……この枢機卿……目が笑ってない気がする……。


 一瞬、ギロッで見つめられた。


「それで、ご相談でございますが、勇者様を我々――」


「お断りします! ――痛っ!」


「ほ、ほほっ、中々面白いお子様ですな」


「申し訳ございません、それと下の子も、何処にも出す・・つもりはございませんので」


「そ、そうでしたか……しかし、勇者様には――」


「お断りしまっ、痛っ!」


 お母さん……頭痛いよ……。


「子供は成人になるまで我々が保護致します。その後、自らの意思で向かうなら止めはしません」


「ふむ……それでは、この町に聖騎士・・・を一人、派遣させて頂いても宜しいですか?」


「おことっ痛っ!」


「……分かりました。教会としての面子・・もありましょう。その提案は受け入れましょう」


「ほ、ほほほっ……感謝致します。では近日中に聖騎士を派遣致しますので、彼をここに住まわせてくださると助かります。勿論、生活に必要な経費は全てこちらで送りますので」


「分かりました。よろしくお願いします」


 こうして、僕の弟がまさかの勇者様らしく、教会との繋がりが出来てしまった。


 隣で我々を見つめていた辺境伯様は苦笑いをしていたが、会談後、静かに僕に「クラウドくんは彼をどう見る?」と聞かれたから、迷わず「すごく怪しいです!」と返しておいた。


 だって……あの人、ずっと目が笑ってない・・・・・・・んだもの。

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