第13話 ロック鳥

 輿に大量の食材と衣類を詰め込み、重い貨幣袋を乗せ、僕はスロリ町に帰る事にした。


 これならお父さんも納得してくれると思う。


 少し浮いた気持ちで帰路についた。




 ギロッ




 暫く進んでからまたもや誰かからか見られる気がした。


 周辺を見回しても誰もいない。


 う~ん。


 最近誰から恨みを買うなんてあったっけ…………ってあった。


 十日前追い出したワルナイ商会の行商人。


 そう言えば、あの行商人はどうなったんだろうか?



 ――――その時。


 向こうの山から馬に乗ってこちらに向かって来る一団が見えた。


 全員顔を隠しているし、剣を持ったままこちらに……。



「クラウド様! 山賊かも知れません!」


 エルドがウキウキした表情で話した。


 山賊って……こんな田舎にそんな輩がいたのが驚きだ。


 少しずつ近づいてきた彼らだった――――が。


 急に馬達が暴れ出す。


 ああ~山賊達みんな振り落とされてるよ。


 ああ~馬達みんな逃げてった。


【主、追いかけますか?】


「追わなくていいよ、それより落ちた人達を捕まえてきて!」


【御意】


 ウル達が数頭山賊達に向かって走り出した。


 山賊達の悲鳴が聞こえ、全員ボロボロにされた。




「さて、こんな田舎に山賊なんて聞いた事ないんだけど、貴方達は?」


「も、申し訳ありません……どうか命だけは……」


「ん? 何処かで聞いた声だな……」


「ひぃ!?」


 ハム一匹が素早く男性の顔を隠していた布を取り払った。


「あ……貴方でしたか……お久しぶりです」


「ひ、ひぃ……」


 丁度思っていた人が、まさか山賊になって現れるとは……。


「ワルナイ商会は山賊業も始めたんですか?」


「ひぃぃ……商会を首になって……」


 ふ~ん、という事は完全な逆恨みってやつだね。


 そもそも正規の値段で買い取ってくれていれば、こんな事にはならなかったはずなのにね。


「どうか、命だけは……」


「分かりました。でも、それ相応の罰は受けて貰いますよ」


 僕は持っていた紙に急いで手紙を書いた。


 そして、山賊達をウル達に乗せて、手紙と一緒にとある・・・場所に向かわせた。




 ギロッ




 って!


 また誰かに見られる気がする!


 山賊達じゃなかったの!?


 しかも、先より強い気配感。



 ――その時。


【ご主人!】


 ロスちゃんが飛び上がった。


 その先に見えたのは――――。




「ロック鳥………………」




 ギロッと僕を見つめ続けるロック鳥が空を飛んでいた。


 お母さんから聞いた話とは違い、身体は思ったよりは小さい。


 大人一人二人なら乗れるくらいの大きさかな?


 ただ、胴体から下に伸びている足の爪が鋭く、くちばしも中々鋭い。


 そして、一番の着目点は口から少し漏れている炎。


 今にも吐き出しそう……。


 ロスちゃんの緊張感すら伝わって来る。


 そんなロック鳥が、ゆっくりと降りて来た。


 ゆっくり降りたロック鳥は、一番近くの木の上に乗っかった。




 ギロッ




 僕をずっと見つめていたのは……ロック鳥に違いないね。


 ロック鳥と睨み合い十秒。


 二十秒。


 三十秒。


 ロック鳥の口から炎の漏れが大きくなっていく。


 四十秒。


 ロック鳥の目にもっと力が入る。


 五十秒。


 胴体や羽根がブルブル震え始める。


 六十秒。


 遂にロック鳥は長く鋭いくちばしを開いた。


 ――――そして。






【うわああああ! なんて綺麗な瞳! あたしにはもう耐えられないわ! んああああ、もっと、もっとあたしを見て!!】






 ……。


 ……。


「よし、帰ろうか」


【待って待って!】


「あんな変態鳥は無視して帰ろう」


【変態じゃないわよ! あたしをこうした貴方の責任よ! そう! あ、な、た、の――――って無視しないでってば!!】


 遠い目で去る僕を追いかけてくるロック鳥。


【そこの変態! ご主人に近づいたら噛むわよ!】


【全く……ちび助が【ちび助じゃないもん!】最近見ないと思ったら、こんな可愛らしい殿方に仕えていたのね】


 ロスちゃんとはどうやら知り合いみたい。


 ロスちゃんって……ちび助って呼ばれているのか。


【んも~! ご主人に近づかないで!】


【ちょっとくらいいいじゃない! ねぇねぇあたしも仲間に入れて頂戴? こう見えてもあたし、とっ~ても強いのよ? それに貴方なら背中に乗せてあげても――――ううん、寧ろ乗ってください! んああああ!】


「早く帰ろう!」


「おにいちゃん、あのとりさんもじゅうまなの?」


「!? サリーちゃん! いい? あんな変態鳥とは関わっちゃ駄目だからね!」


「へんたい? へんたいってなに??」


 くああ、うちのサリーちゃん可愛すぎる……。


 隣でポカーンとしてるアレンも可愛らしい……。


 こほん。


 取り敢えず、あんな変態鳥からはさっさと離れた方が吉ね。


【あたしから逃げるっていうの? ずっと見つめるわよ?】


「ちょっと待て、それは困る」


【んふ! あたしに見つめられて恥ずかしいのね】


「……ロック鳥と言ったね」


【ええ!】


「従魔にしてあげるから、あの山脈から出てこないで」


【ちょっと! それはあんまりだよ! 傍にいさせてよ!】


「やだ!」


【んふ、でもあの山脈からでも見えるわよ? あたし、とても目が良いんだから】


 くっ……だ、誰か……誰かぁああああ、この変態鳥を何とかしてぇええええ!




 ◇




「お帰り~、ってクーくん、凄く疲れた顔をしているわね? 後ろの鳥さんは新しい仲間なの?」


「お、お母さん~!」


 僕はどっと疲れた疲労をお母さんに抱き着いて回復させた。


 お母さんのよしよしは最強である……。



 それからお父さんに買って来た荷物を見せ、スロリ町でお店を開く事になった。


 お店と言っても、殆ど顔見知りで、物々交換も可能なお店だ。


 店員は町の計算が得意な青年を二人雇う事で話が進んだ。


 意外にもお父さんがこういう事は大の得意らしくて、普段のお父さんからは想像も出来ないくらいに準備が円満に進んだ。



 お母さんにはロック鳥こと、ロクを紹介して、町の偵察を任せる事にした。


 ちょっと性格はひん曲がっているけど、空は飛べるし、目も良いからとても頼りがいのある従魔となってくれた。


 意外にもロスちゃんとは仲良しで、口喧嘩は多いけど、なんやかんやロクの背中に乗り、空を飛んだりしていた。



 それと初めて知った事なんだけど、僕に懐いた魔物達は、ちゃんと僕の従魔になっているらしい。


 本来なら契約とか色々必要らしいのに、僕は全く要らなかった。でもちゃんと従魔化しているみたい。


 その従魔化になると、絆が深まった相手とは『従魔間念話』が使えるようになるという。


 僕は最初から使えている気がするんだけど…………。


 その『従魔間念話』は絆が深まれば深まる程、距離が離れても使えるらしく、熟練の魔物使いの魔物は偵察を行うそうだ。


 僕は何故か離れた従魔達と念話が使えたので、空を飛んでいるロクからの『念話』も届いていた。


 これを使って、狩りの効率も上がり、町の警備も段違いに効率が良くなった。

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