第12話 ペイン商会②

 遂にペイン商会に訪れる日がやってきた。


 今回もアレンとサリーが同行したいと駄々をこねたので、仕方なく同席させた。


 先日帰ってきてから輿に乗りたいサリーは、毎日乗せて欲しいと我が儘を言い出した。


 遊び道具じゃないと乗せないでいたら「おにいちゃんなんてだいきらい!!」って泣かせてしまった。


 あの時の衝撃は今でも僕の胸に刺さっているのだ……。


 久々の輿に喜ぶアレンとサリーを横目に、パシ――じゃなくて仲間のエルドの最近の話を聞いた。


 どうやら木剣を手に入れたらしくて、庭で一人訓練しているらしい。


 偶にロスちゃんが見てくれるらしいんだけど……犬に剣術を学ぶってどうなの?




 ギロッ




 僕を見つめる視線を感じた。


 急いで周囲を見回しても、何も無い。


「おにいちゃん、また?」


「う、うん……どうも最近誰かに見られている気がするんだよね」


「クラウド様は先日も同じことを仰っていましたね」


「そうなんだよ、僕はエルドくんみたいに強くないから怖いのさ」


「大丈夫です! ロス師匠がいますから!」


「う、うん」


 ロス師匠がエルドくんの頭の上で右手を上げた。


 その仕草もまた可愛らしい。


 とても『地獄の番犬』と呼ばれている犬には見えないよね。




 ◇




 数時間後、僕達は二度目のアングルス町を訪問した。


 目的地は勿論ペイン商会。


 真っ先にペイン商会に向かう。


「こんにちは~」


 挨拶をしながら中に入る。



 あら不思議~何という事でしょう~以前訪問していた時はあのボロボロだった建物も~。



 って!


 めちゃくちゃピカピカしてるし!


 中で働いている人も沢山増えてるんだけど!?


「クラウド様! いらっしゃいませ!」


 受付嬢が出迎えてくれた。


 十日前はあんなにやる気がなかったのに、性格変わり過ぎなのでは?


 受付嬢に案内された僕達は、奥にある貴賓室で待たされる事となった。


 珍しい高級茶も出されて、美味しそうなお菓子も出された。


 僕は甘いモノは好きじゃないので、全部アレンとサリーに渡すと美味しそうに食べてくれた。



「これはクラウド様! お待たせして申し訳ございません」


「…………誰ですか?」


「いやだな~俺ですよ俺」


 オレオレって誰だよ……。


「先日クラウド様の資材を預かったペイン商会の会頭、ブリオンですよ~」


 ん……。


 じーっと顔を見つめる。


「あ! 先日のボサボサおっちゃん!」


「ボサボサおっちゃんじゃないわ! って、ツッコミを入れてしまった……」


 照れてるおっちゃん。


「そう言えば、前回名前も聞かずに帰ってしまいましたね、ブリオンさんって言うんですね?」


「ええ、ペイン商会の会頭でございます。先程案内した受付嬢は、俺の一人娘のルリです」


「あのお姉ちゃん、ルリお姉ちゃんだったんですね~名前ちゃんと覚えなくちゃ」


「ガハハ、覚えて頂けると嬉しいです。さて、早速ですが、先日の売上をお渡しします」


 ブリオンさんは大きな布袋を持ち上げ、テーブルの上に置いた。


 金属がぶつかる音が聞こえる。


 恐らく、相当の量の貨幣が入ってそうだ。


「恥ずかしながら、買取全額返済はまだ出来そうにありません。何しろ、ここら一帯で貨幣を集めるのは大変ですので」


「貨幣を集めるのが大変?」


「ええ、クラウド様はこういう事に疎いと前回話しておられましたね? 実は、田舎では貨幣はあまり運用されないんです」


「へぇ! 知りませんでした。ではどうやって買い物を?」


「はい、基本的には物々交換になります」


「あ~必要な物をお互いに交換するのですね?」


「そうです。ここら辺では基本的に食材が取引されるので、お互いに育てた作物や肉などを交換します。なので、貨幣となると領都や首都に行かないとあまり見かけないのです」


 全く知らなかった……。


 そういやバルバロッサ領都に行った時には、普通に銅貨とか銀貨とか使っている人が沢山いたっけ。


 うちのスロリ町が田舎過ぎて使ってないだけかと思っていた。


「あ、それなら食材支払いでもいいですよ? 元々スロリ町に食材を調達するのが目的だったので」


「そうですか! いや~クラウド様には申し訳ないのですが、そうだと睨んでいて、既に用意させて頂きました」


「それは好都合です! ブリオンさんを信じた甲斐がありました」


「ガーハハハッ! 何も無かったうちをここまで信頼してくださったのですから、これからは馬車馬のように働いてみせますよ!」


「それはありがたいんですけど、無理して身体を壊さないようにしてくださいね? それと、また狩りの獲物が沢山取れたんですけど、要りますか?」


 ブリオンさんががばっと立ち上がった。


「是非買い取らせてください!」


 おお……おっちゃんの顔が近い……。


「あはは……じゃあハム達に運ぶように伝えておきますね、それと『ファイアウルフの爪』も卸しますか?」


「『ファイアウルフの爪』!? そんな高価なモノまで! ええ、是非とも卸してください」


 こうして、僕とペイン商会の商売は順調に進むのであった。




「それはそうと、クラウド様はどうしてうちをここまで信頼してくださったのですか?」


「あ~、それはですね、店内に絵が掛けられていますよね?」


「おお、ペイン商会の『始まりの絵』ですね」


「『始まりの絵』?」


「ええ、始祖様の友人を描き残したとされる絵なんです。その友人様は多くの魔物を従え、ペイン商会の大きな力になってくれたそうです、そう言えば、クラウド様も多くの魔物を従えてますね! あの絵の友人様もきっとクラウド様のような方かも知れませんね~」


「ふふっ、それならとても素敵ですね!」


「ええ! 間違いないですとも! そうでしたか~あの絵で信用して頂いたのですね?」


「そうですよ」


「あの絵だけは絶対に売ってはならないと先祖代々伝わる絵なんですよ、そうか……先祖様に感謝しなければいけませんね!」


「偶然ですけどね! でも偶には先祖様に祈りでも捧げたら良い事が起きるかも知れませんよ?」


「それもそうですね! よし、先祖様の神棚を急いで作ります!」


 ブリオンさんは嬉しそうに神棚を作ると話した。




 先祖様。


 貴方の親友であるペインさんの商会の『想い』は今でも続いていますよ。


 その『想い』は巡り巡って、僕の力になってくれようとしています。


 だから――。


 ありがとうございます! 先祖様!

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