第11話 ペイン商会①

「こんにちは~」


 僕は町長に言われたペイン商会に入った。


 一言で言えば、ボロい! こほん、いや~風情があっていいですね。


「いらっしゃい……」


 カウンターには幼さがまだ残る少女が出迎えてくれた。


 声に全くやる気がないんだけど、大丈夫だろうか?


「あの……素材を買い取って欲しいんですけど……」


「ん……ここは子供が来る所じゃないからね……帰っ――」


 僕は少女の前に『サンダーディアーの角』を出した。


「…………えええええ!?」


 おおっ、意外と大きな声出せるのね。


「こ、これはサンダーディアーの角!? どうして君がこんな凄いモノを!?」


「これで少しは話を聞いてくれる気になりました?」


「あ、ああ、ちょっとだけ待ってて、マスター呼んでくるから」


 少女はバタバタと店裏に入って行った。



「クソ親父!! お客様だよ!! しかもかなりの上客!!」



 ボロい建物だから彼女の大きな声が全部聞こえるよ……。


 その後、裏から少女と一緒に髪がボサボサのおっさんが一人出て来た。


「ああん? ガキじゃねぇか」


「そうだけど、あれを見てよ」


「……ん!? これは……サンダーディアーの角じゃねぇか、おいガキ、これを何処で――」


 僕は更にサンダーディアーの角を数点、カウンターの上に上げた。


「角だけじゃなくて、肉もいっぱいあります。熊肉もあるし、豚肉もあるんですけど、買い取って貰えます?」


「ま、ま、待って! これを何処で――」


「ふ~ん、いらないんならに持っていきますね」


「わ、分かった! 買う! 全部買い取るから!」


「じゃあ、肉も全部持ってきますね」


 僕はハム達に肉を運ばせた。


「は、ハムスター!? う、嘘だろう……ハムスターが人の言う事を聞くなんて聞いた事ないぞ!」


「僕の従魔達なんで心配ないですよ」


「従魔!? い、一体何が起きているんだ……夢でもみているのか? ルリ、俺の頬を叩いてくれ」


「あいよ~」


 ペシッ!


 普段からの怒りが込められたようなビンタが炸裂した。


「痛ってぇ!!!」


「ふん! 早く正気に戻ってよ! 親父」


「お、おう……す、すまん」


 ハム達に次々売り物を運んで貰った。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


「え? 買い取ってくれないんですか?」


「も、勿論買い取る! だがな……すまないが、これほどの資材を買える現金・・の持ち合わせがないんだよ」


 まぁ、建物を見るだけで分かるけど……貧乏商会っぽいものね。


「いいですよ。後払いで」


「は!? い、いいのか?」


「ええ、いいですよ。僕としてはワルナイ商会とは取引したくないですから、選択肢があまりないのと、直接売れるほどの技量もないですから」


「…………いや、十分ありそうなんだが……」


「いやだな~僕はまだ五歳ですよ?」


「五歳……ご…………嘘だろう……」


「僕は向こうの辺境の町、スロリ町のクラウドって言います。これから狩りの獲物を持ってきますから、全部買取お願いしますね?」


「あ、ああ……全力で買い取らせて貰うよ。勿論、この資材もしっかり売ってみせるさ」


 ペイン商会。


 見た目はボロくて貧乏商会なのは一目で分かった。


 でも、店内に入ったとき、僕の目に映った一枚の絵が輝いていた。


 ――――それは、多くの魔物に囲まれているある男性の絵だった。




 ◇




 資材を全て後払いとして渡し、僕はスロリ町に帰ってきた。


 お父さんには十日後に物資を買って来ると伝えている。


 ソワソワしているお父さんにお母さんから「シャキッとしなさい!」と活を入れて貰った。



 僕はというと、十日後に売る資材集めも兼ねて、また狩りに出掛けた。


 まだエルド用の剣を買ってないからエルドの狩りの練習はまだ見送りだ。



 ビッグボア、サンダーディアー、兎、熊。


 数頭ずつ狩っておいた。


 熊を狩った後、うちの従魔である熊達に、同族を狩るのはどう? と聞いたところ、そもそも魔物に同族という感覚はなく、縄張りを共有している仲間ならまだしも、違う熊達は気にもならないとの事だ。


 それはウル達やハム達も同じだった。


 魔物って仲間意識はあっても、同族意識とかは全くないんだね。


 ウル達が隣の群れのファイアウルフを狩る場合もあると教えてくれた。


 魔物の世界って、僕が思っていた以上に弱肉強食な世界なのね。



 それから数日。


 僕の狩りは順調そのものだった。


 その時。


 山の上で爆発が起きる。


 ウル達は直ぐに臨戦態勢に入り、ロスちゃんも前に出て来た。


【ご主人、私の前には出ないようにね】


 ロスちゃんが緊張しているなんて珍しい。


 僕達は山の上の爆発を覗いていた。


 爆炎が少しずつ消えると、中にはサンダーディアーが数頭倒れていた。


 恐らく、あの爆発で倒されたんだろう。


 ――そして、爆炎の中にサンダーディアーをっているモノの姿が見え始めた。



「ん……あれは……鳥?」


【ご主人、あれはロック鳥という魔物なの、強いから気を付けて】


 ロスちゃんが強いと言うのだから、ものすごく強いかも知れないね。


「一旦、引き返そうか、強いならわざわざ戦わなくてもいいし」



 僕はそのまま引き返した。


 ロック鳥という魔物がどれくらい強いのかは知らないけど、何となく不安な気持ちがあったからだ。



 引き返した僕は、気づいてなかった――――爆炎の中からサンダーディアーを食らっていたロック鳥の目がずっと僕を睨んでいた事を。




 ◇




「お母さん! ロック鳥について教えてください!」


「ん? ロック鳥とはまた珍しい魔物だね。そうね……ロック鳥というのは町一つくらいの大きさの鳥型魔物と言われているわ。勿論、大きさだけじゃないわ。肉体も強靭であり、竜族同様、炎の吐息ブレスを使えると言われているわ。その威力は一回の吐息で町が一つ滅ぶと言われているの。こういうロック鳥みたいな魔物を、『災害級魔物』と呼んでいるの」


 『災害級魔物』…………。


 もしあのロック鳥がお母さんが言っていたロック鳥なら、スロリ町の近くで現れたんだから不安だ……。


「ロック鳥は向こうの『ギガンテス山脈』に住んでいると言われていて、『地獄の番犬ケルベロス』とは犬猿の仲と聞いているわ。そう言えば、うちのロスちゃんも『災害級魔物』だったわね」


 えええええ!?


 ロスちゃんと!?


 そもそも『災害級魔物』だったの!?


 ロスちゃんはドヤ顔で僕を見つめた。


 今すぐ撫でなさい――――と言いたい目だね……。


 僕はロスちゃんを撫でながら、ロック鳥について考えていた。


 もしも、あのロック鳥がこの町を襲ってきたらどうしようと――――



 ――しかし。


 この時、僕は一つ大きな勘違いをしていた。


 ロック鳥がまさか……あんな事をするなんて……。

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