第10話 アングルス町

「それはどういう事だ! クラウド!! このままではうちの町に物資が届かなくなるぞ!!」


 珍しくお父さんが本気で怒っていた。


「お父さん、あの商会は駄目です」


「駄目だと!? でもな、あの商会のおかげで我々みたいな辺境の町にも物資を売りに来てくれているのだ! 少しくらいのは彼らの取り分だと考えているのだよ!」


 少しくらいじゃないけどね。


「お父さん、聞く話によれば、その取り分も、あの行商人が来る度に直接渡していると聞いてますが?」


「あ、ああ、それも渡しているが……」


「……お父さん、それならば、そのお金を僕にください」


「え!? クラウドに?」


「ええ、これからは僕行商をします」


「えええええ!?」


 こうして、スロリ町に行商人がやってこなくなり、代わりに僕が行商をする事となった。




 ◇




 まず、先日狩りに行った時に見かけた熊さんの魔物を見つけ出した。


 案の定、僕が声を掛けると熊さんも仲間になってくれるとの事。


 熊さんを更に四頭ほど仲間にして、彼らには木を集めるように頼んだ。


 集められた木々を、今度はハム達に頼んで皮を綺麗に削って貰った。


 ハム達の歯は元々頑丈で、この木くらいなら穴を掘るくらい造作もないみたい。


 皮を剥いて綺麗になった木材を、また熊さん達に頼んで組み立てて貰った。


 こうして、前世の記憶のまま作った、輿こしが完成した。



 その輿を熊さん四頭で担いで貰った。


 おお~!


 ちゃんと輿っぽくなった!


 ちょっと格好悪いけど、モノさえ乗せられれば問題ない。


 輿の護衛としてハム達十匹を輿周辺に乗せる。


 熊さんが担いでいる輿にハムスターが十匹…………。



 とにもかくにも、これで行商・・の準備が整った!


 貯め込んだ狩りの獲物を沢山乗せ、隣のアングルス町に向けて出発した。




 ◇




「おにいちゃん~! このコシたのしい~!」


 サリーが輿の上で興奮気味にはしゃいでいた。


 更に隣のアレンも楽しそうにしている。


 実は輿を見つけたアレンとサリーが興奮して、降りてくれなくなったのだ。


 僕の仲間になった従魔達が護衛に就く事だし、安全だろうと、一緒に行く事になった。


 更にエルドも同行させた。


 パシ……仲間は多いに越した事はないからね。



 それから数時間後、僕達は思っていたより早く隣のアングルス町に辿り着いた。




 ◇




「て、て、て、て、敵襲!!!」


「な、何だあれは!! 絶望の大熊が出たぞ!! 町長に急いで知らせろ!!!」


「あ、あれは!! 爆炎狼だあああ! じ、地獄だ……」




 ◇




 遠くに見えるアングルス町が賑わっていた。


 兵士達がバタバタと走っているけど、なんかあったのかな?


 外を歩いていた人達も大急ぎで町の中に走り去っていた。


「おにいちゃん、まつりでもしてるのかな?」


「ん~、そうかも知れないね! それなら丁度いいとこに来たのかも知れないな」


「わ~い! まつりたのしみだな~!」


 サリーが喜んでいると、向こうから五人の大人達がこちらに向かって走って来た。


 えっと……何となく臨戦態勢で向かって来てない?


 大人達が僕達の前に辿り着いた。


「本物の絶望の大熊だ! ひゃっはー! これでお金持ちになれる!」


 先頭の男が剣を抜いて飛び込んできた。


 絶望の大熊??


 僕は周囲を見回ってみたけど、そんな熊いないんだけど??


 飛び上がった男は僕達の熊さんに向かって剣を振り下ろした。


「ええええ!? 僕達は敵じゃないですよ!?」


「ひゃっはー! お金!!」


 男の剣が熊さんに当る直前。


 護衛の熊さんが男を軽く・・投げ飛ばした。


 うん……やっぱそうなるよね……。



「エリックがやられた!? みんな! 僕達もいくよ!」


 向こうの大人達も走ってくる。


 熊さんに一人一人投げ飛ばされる。


 もしかして、うちの熊さんとお相撲でもしたかったのかな?



 変な大人達は放置して、僕達は町に向かった。




 ◇




「と、と、と、止まっ、てください!!」


 アングルス町の入り口の前に、足をガクガク震わせている男がいた。


「こんにちは!」


「こ、子供!? こ、これは一体……??」


「僕は隣のスロリ町から来た行商人です!」


「はあ!? 行商人!? 爆炎狼に絶望の大熊に……死神までいるのに!?」


「やだな~こんな可愛い子達がそんな物騒な名前な訳ないじゃないですか~気のせいですよ! この子達は僕の従魔達です」


「ほ、ほ、ほ、本当なんだな!?」


「ええ、ほら、そのウルを触って見てください」


 僕はウルの一頭に命令して、男性の前に屈んで貰った。


「ば、爆炎狼が……そんな馬鹿な……」


 男性は恐る恐るウルを撫でてみた。


 震え過ぎて汗だらだらだけど、風邪でも引いてるのかな?


 僕は輿から降りて、ウル達も引き連れ町の中に入ってみた。


 兵士達は震えながら、こちらを向かって剣を掲げている。



「みなさん! 僕は隣のスロリ町からの行商人です! こちらは僕の従魔達なので、そんな怖い魔物達ではありませんよ!」



 よし、これで多分大丈夫だよね?


 その時、兵士達が道を開けると、中からお爺ちゃんが一人、前に出て来た。


「初めまして、儂はこの町の町長のブライアンと申します」


「初めまして! 隣のスロリ町のクラウドです」


「クラウド様ですね……それで、こちらの魔物達が全員・・従魔なのは間違いないのですね?」


「はい! ほら、こんな感じで撫でてあげても全く問題ないです! 熊さん達も攻撃されなければ、あんな風に投げ飛ばしたりはしませんから」


「そうですか……分かりました。ですが、町の中に魔物がいると住民達が落ち着きません。出来れば最低限の数の魔物だけ連れて入って貰えますか?」


「分かりました!」


 優しい町長さんで良かった!


「それと行商人と言いましたね、それでしたら、向こうのワルナイ商会をおすすめします」


「ワルナイ商会とは取引するつもりはないんです」


「そうでしたか……では、あちらのペイン商会が良いでしょう」


「分かりました! 親切にしてくださってありがとうございます!」


「いえいえ、くれぐれも町の中で魔物達を暴れさせないでください……よろしくお願いします」


 こうして、僕は隣のアングルス町に辿り着けた。

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