第9話 行商人
僕はウル達に乗り、山に来てみた。
ロスちゃんだけでなく、ウル達やハム達からも狩場の情報を聞いてみたけど、そもそも何が売れるか分からない。
だから、順番に回りながら狩りをして、一匹ずつ売ってみて良さげなのがあれば、それを乱獲しようと思う。
一先ず、山の上に鹿の群れがいた。
数は十頭。
立派な角からビリビリと雷が鳴っているのは気のせいかな?
【ご主人! あれは、サンダーディアーだよ!】
サンダーだし、雷で間違いなさそうね……。
「みんな! サンダーディアーの狩りは出来そうかい?」
【任せて!】【【【【御意】】】】
僕とエルドくんが見守る中、護衛ウル十頭を除き、四十頭が一斉に山の周辺に散った。
ウル達のリーダーとなる子がいて、その子の命令が『念話』を通して、全てのウル達に伝わるらしく、一糸乱れぬ動きで散って行った。
最初に上に向かったウルの数頭がサンダーディアーを追いやる。
サンダーディアー達もウル達を怖がり反対側に逃げる。
逃げたサンダーディアーを待ち伏せしていた本隊のウル達が強襲した。
その際、一緒に乗っていたハム達も隙間を見てサンダーディアーに噛みついた。
肉や骨が折れる音がちょっと生々しかったけど、ビッグボアの解体でも何度か見ていたから、最近耐性が付き始めている。
ウル数頭にサンダーディアーを屋敷まで運んで貰っている間に、僕は更に周辺の探索に出掛けた。
ビッグボアも数頭見えるし、熊みたいな魔物もいて、水辺で魚を取っていた。
この世界でも熊は魚が好物っぽいね。
でも……取った魚の口にものすごい牙が生えているように見えるのは気のせいだろうか?
更に探索を続けて見た。
その時、森の奥に大きな土煙が上がった。
【ご主人! 向こうで誰か戦ってるよ!】
ロスちゃんがいち早く状況を把握したようだ。
ウル達と恐る恐る向こうを覗いてみると、先程の熊と兎一匹が戦っていた。
えっと……熊vs兎でどうしてあんな戦いになるわけ?
熊が爪で兎を攻撃するも軽々避けると、兎の飛び蹴りが熊に命中、熊が後方に倒れた。
しかも蹴った胸に足跡がくっきり残ってる。
あの兎――めちゃくちゃ強いよ!!
【ご主人! あの兎のお肉、美味しいからおすすめだよ!】
いやいや、あんな化け物狩れないから!
そんな事を思っていた隙に、ロスちゃんがゆっくり熊と兎に近づいていた。
戦っていた二匹は、ロスを見つけるや否や、その場から逃げ去ろうとする。
しかし、ロスちゃんが「がお~」と叫ぶと、二匹ともその場に倒れ込んだ。
【ご主人! 今日は兎肉と熊肉だよ!】
う、うん……ロスちゃんありがとう……。
帰って来たウル達と共に、熊と兎を屋敷まで運んだ。
◇
「「「いただきます~」」」
今日捕まえた熊と兎の肉料理がずらりと並んでいる。
エマお母さんが腕を振るって作ってくれたのだ。
目の前のシチューを一口飲み込む。
んん!!
めちゃくちゃ美味い!!
辺境伯様には悪いけど、あの街の最高級宿屋よりもずっと美味しい!
アレンとサリーも美味しそうにガツガツ食べていた。
「この兎肉美味しいわね! クーくん、今度狩りに行ったらまた捕まえて頂戴」
「う、うん……またロスちゃんにお願いするよ」
「あら、ロスちゃんが捕まえたの?」
「いつもの、がお~って叫んだら倒れちゃった」
「うふふ、可愛らしいわね~」
小型犬の緩い「がお~」の声であの熊が倒れ込むのは、中々シュールに見えるんだけどね。
次の日。
うちの町に通っている行商人がやって来た。
確か……ワルナイ商会という商会からの行商人だ。
バルバロッサ領でも有名な商会のようで、こんな辺境の町まで食料とかを売りに来てくれるのだ。
しかし、ここ数年でその状況が逆転し、ビッグボアの肉を買いに来るのだ。
「んなっ! ビッグボアの肉をもう売れない!? それはどういう事ですか!」
行商人が大きな声を出している。
「えっと……ビッグボアの肉を狩っていた狩人が離れてしまって……」
「むむ! それは困ります! 今までこの町の為に遥々ここまで来ていたのです! ビッグボアの肉を安値――こ、こほん、高値で買ってあげているのです! それなのに、もう売れないとは、裏切りにも等しいですよ!」
ああ……今、安値って言ってなかった?
「あの~おじさん!」
「むっ! 何だね! 子供に用はないよ!」
「ビッグボアの肉ありますよ?」
「なっ! それを早く言いなさい! ちゃんと高値で買ってあげるから」
僕は町民に話して屋敷にあるビッグボアの肉を持ってきて貰った。
「おじさん、ビッグボアの肉は幾らで買ってくれるんですか?」
「ん? そうだな、これくらいで何と銀貨1枚と銅貨27枚だよ」
おじさんは大きな皿を取り出してみせる。
確かにその皿の大きさに載るくらいの肉の量で銀貨1枚と銅貨27枚なら破格の高値だと思う。
実は先日のバルバロッサ領都エグザに行った時に、うちで取れる肉や野菜の大体の値段を調べていたのだ。
それにしても……銅貨27枚って中途半端な額だね。
町民達がビッグボアの肉を運んできた。
「おお! ちゃんとあるじゃないか! さあさあ、こちらに載せて載せて~」
おじさんの顔がものすごい緩んでいる。
その後、載せたビッグボアの肉を計算し始めるおじさん。
持ってきた皿で量を調べている。
ちょっと原始的すぎないか……?
ある程度計算が終わり、皿の35個分なのが分かった。
「こほん、ではこちらのビッグボアの肉は1皿1銀貨27銅貨で買い取って貰うよ! 35皿だから……銀貨4枚と銅貨45枚だね! さあさあ、受け取って!」
は!?
どういう計算をしたらそんな計算になるんだよ!?
町民達は「ありがとうございます!」と受け取ろうとする。
「待て!! その計算、おかしいだろう!」
「な、なっ、何なのね? この子供は? 私はこう見えても忙しいのだよ? 早くお金を――」
「そもそも銀貨が1皿1枚なら35皿で銀貨35枚以上にならなかったら可笑しいでしょう!」
「な、な、なにを! 私の計算が間違っているとでも言いたいのかね!? ええ! 町民さん! これでうちは君達とはもう取引なんてしないよ!? その責任、貴方が取れるの!?」
ああ……こりゃ、もう駄目だ。
「僕の権限で、この人とは取引しなくていいです」
「はぁ!? だから君は何なのかね!」
「僕は領主の嫡男です」
「ちゃ、嫡男!? ぐぬぬ……それならもうこんな辺境の町なんて取引しないからな!」
「ええ、結構です。お帰りください」
「ぐぬぬ! 後悔しても知らないぞ!!!」
「はいはい」
行商人のおじさんは悪態をつきながら帰って行った。
バルバロッサ領で有名な商会。
そんな商会がこんなあくどい事をしているなんて……思ってもみなかった。
そう言えば、ビッグボアの肉を数年売っても、あまりお金が貯まらなかったのは、これが原因だったのね……。
もう少し早く調べるべきだったと後悔した。
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