第8話 交渉

「ちょ、ちょっと!」


「はい?」


「ふ、ふん! また屋敷に遊びに来てくれてもいいのよ!」


「えっと……」


「ま、また遊んであげると、そ、そう! そう言っているのよ!」


 うわぁ……。


 まぁいっか、うちのロスちゃんに会いたいんだろうし、これからはちょくちょく商売でこちらに来ると思うから、その時にでも挨拶するか。


 こうして、僕は初めてのバルバロッサ辺境伯様とティナ令嬢とのお茶会を終えた。


 どっと疲れたけど…………少なくともこの世界に『ちょうきょうし』を知っている人がいる事を知った。


 それだけでも大きな収穫かも知れない。


 僕は既に始祖様の日記・・で『ちょうきょうし』について、ある程度予測が付いているけど、魔物使いがこんなに高待遇を受ける世界だから、僕の力がバレたら厄介事に巻き込まれるに決まっている…………。


 まあ、今そんな事を考えても仕方ないから、明日の事は明日! 今日出来る事を頑張ろう!


 僕は馬車に半日揺られ、スロリ町に帰っていった。




 ◇




「五歳児とは思えないほど成熟していたな」


「そうですね、まさか……無傷の『ファイアウルフの爪』をこれほど持っているのも……」


「それだけではない、あの犬…………伝説のケルベロスではないかと思っておる」


「あの白い犬がですか? 悪名高いケルベロスがあんなに懐いているなんて……」


「うむ。伝説・・は本当の事だという事だろう。それに幸いな事にティナも気になる様子で良かったわい」


「ふふっ、誰かを好きになる事だけは、難しい事でございますからね」


「ああ、ティナを嫁がせるにふさわしい男にこんなにも簡単に巡り会えるとは、長年ベルン家をっていた甲斐があったものだ」


「おめでとうございます」


「いや、まだだ。あの子は聡い。わしに後ろめたい事は何もないが、用心しておく事に越したことはない。アルフレッド! 我が領の悪事を働くやつらをより一層見つけ出せ」


「ははっ、かしこまりました」




 ◇





「おかえり~! おにいちゃん!」


「ただいま!」


「おかえり、クラウド、それで……お茶会はどうだったのだ?」


 お父さんが心配そうにしている。


「お父さん、大丈夫ですよ! 失礼のないように頑張りましたから!」


「おお! そうか! それは良かった! さあさあ、旅は疲れただろう。ゆっくり休むといい」


 喜ぶお父さんを横にお母さんから頭を撫でられ「頑張ったわね」と言われ、幸せなひと時を過ごした。




 そして、次の日。


 僕はお父さんに直談判に向かった。


「お父さん!」


「ん? クラウドや、どうしたのだ?」


「以前約束してくださった、僕の狩りを許可して貰いたいんです」


「そ、それは……しかしだな……今まで通りに、狩人達とでは駄目か?」


「駄目です!」


「うっ……しかしだな……」


「僕には僕の目的がありますから、時間がないんです! お父さん、許可を――――」


「クーくん」


 後ろからいつの間にかお母さんが現れた。


「お母さん……」


「全く…………貴方が狩りをしたい気持ちは分かるけど、一人で――」


 僕はロスちゃんを抱えて前に出した。


「大丈夫! ロスちゃんもいるし、ウル達もいるし、ハム達もいるよ! 危ない事は絶対しないと約束するよ!」


 溜息を一つ大きく吐いたお母さんは、諦めたようにお父さんを見つめて頷いてくれた。


「わ、分かった……クラウドには、これから自由・・にして貰っても良い事とする」


「やった! 本当に自由・・にしていいんですね!?」


「全く……こういう時ばかり……ああ、いいとも、但し、大きな怪我をしたら、問答無用で禁止にするからな!」


「はい! ありがとうございます! お父さん! お母さん!」



 僕は一目散に部屋を出て、ウル達の元に全速力で走り去った。





「はぁ、全く…………あんなに甘やかしていいのかしら」


「仕方ないさ、君の子供だもの」


「あ、な、た? それは私が――」


「いやいや! 君に似て元気・・という事なのだよ!」


「ふ~ん」




 ◇




 ウル達の元に来てみると、当たり前のようにアレンとサリーがウル達の上に乗って待っていた。


「おにいちゃん! はやくいこう!」


「えっ、いや……あのね、遊びに行く訳じゃないからね、アレン、サリー」


「えー! やだ! いっしょにいくの!」


「うんうん! ぼくも行きたい!」


「ん…………それは出来ない、――――でも」


「でも?」


「五歳の時に、『才能』を授かったら連れてってあげる」


「「さいのう?」」


「そうだぞ~! 『才能』を貰うには勉強も沢山頑張らないと行けないんだよ? だから、アレンもサリーもこれからお母さんのところに勉強に行かないとね」


「え~べんきょうやだ~」


「『才能』が貰えたら、それからはお兄ちゃんと一緒に狩りに行けるんだよ? 二人とも、頑張らないの?」


「「がんばる!」」


「よし、では遊ぶのはほどほどにして、行っておいで」


「「は~い」」


 アレンとサリーが屋敷に向かって走り去った。


 アレンもちゃんとサリーの走る速度に合わせて走るようになって偉い。


 少しずつ大きくなっていく弟と妹を見ながら、僕はもう一度拳を握り締めた。


 『才能開示儀式』。


 絶対に二人にも受けさせてやるからな!



 と、狩場に向かおうとした瞬間、目の前に現れる人影がいた。


 ――――エルドだった。


「旦那様! 僕も連れてってください!」


「無理はしないと約束するならね」


「勿論です! 最初は見るだけにしますから」


 うん、それなら安心だね。


 エルドも無理し過ぎない事の大事さを知ってるみたいだ。


 流石は才能『剣聖』。


 こうして、僕はウル達に乗り、ロスちゃん、エルドくん、ハム達と一緒に初めての単独・・狩りに向かった。




 ◇




「あら、二人がここに来るなんて珍しいわね?」


「「おかあさん! おべんきょうおしえてください!」」


「うふふ、お兄ちゃんに言われたの?」


「「はい!」」


「そうね、二人も頑張って勉強してお兄ちゃんみたいになるのよ?」


「「は~い!!」」



 この日を境に、アレンとサリーは必ず毎日勉強する時間を設けるのであった。


 母のエマの悩みの種をクラウドは簡単に解決するのであった。

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