第6話 お茶会
「いい? クーくん、相手はご令嬢なのだから、決して失礼のないようにね?」
「分かったよ! 僕、もう子供じゃないんだから、それくらい分かるよ!」
「いや、君はまだ子供だから」
精神年齢は30に近いから! 口には出せないけど!
僕はロスちゃんを頭に乗せて、バルバロッサ家の執事さんと一緒にバルバロッサ領都エグザを目指して出発した。
◇
「アルフレッドさん」
「はい、どうしましたか? クラウド様」
アルフレッドさんはバルバロッサ家の執事さんの名前だ。
「この爪って幾らで売れるか分かりませんか?」
「では少し見させて――――これは!? クラウド様、これを何処で?」
「あ、あはは、ちょっと訳アリでして、四つくらい手に入れたので、売れないかな~って」
「四つも!? この爪は、間違いなく『爆炎狼ファイアウルフ』の爪でしょう。しかも、傷一つなく、更に立派な爪だ……これなら金貨一枚はくだらないでしょう」
金貨一枚というのは――。
この世界には銅貨、銀貨、金貨の三種類の貨幣が存在する。
それも作る事は出来ず、魔物からドロップするらしくて、貨幣の価値が暴落しないんだそうだ。(エマお母様談)
パンが一個買える銅貨一枚が日本円ですると百円くらいしそうだけど、物価が違い過ぎてその通りでもない。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚だ。
大体の相場として、大人一日平均収入は銀貨一枚だそうだ。
銅貨十枚もあると腹いっぱい食べれるらしいから、食べ物の物価は安いのだろう。
逆に物資の物価が高いみたいで、この世界で大事にされるのが、魔物の素材だったりする。
魔物の素材で武器や防具を作ったり、中にはアクセサリーを作ると補助効果が掛かったりするらしい。
この『ファイアウルフの爪』も、魔物の素材として売れると考えたのだ。
まあ、ロスちゃんが売れるかもって言っていたしね。
「爪
「ほぉ……クラウド様はとても聡明なお方のようですね。それほど素早い計算が出来る人は中々いませんよ?」
あはは…………小学生レベルの計算だけどね……。
「それと、
「えええええ!? これ一つで金貨一枚!?」
「はい、この爪は、これほどに綺麗な状態で市場に回る事がありません、基本的に戦いでボロボロに欠けた爪が多いのです。それですら銀貨二十枚はします。こんなに綺麗な『ファイアウルフの爪』ならば、金貨一枚でも買い手数多でございます」
隣のロスちゃんがドヤ顔してくる。
今すぐ撫でなさい――――と言わんばかりに。
仕方ない、こんな高価なモノをくれた(?)ロスちゃんには、なでなで半日間を贈ってあげなくちゃね。
それからうちにいる狼達から毎日一個ずつ取れれば幾らになるか計算しつつ、ロスちゃんを半日撫でていると、いつの間にか目的地、バルバロッサ領都エグザに着いた。
◇
お茶会は明日との事で、僕は領都エグザでも有名な宿屋に泊まった。
ベッドもふかふかで、うちの屋敷の物とは比べ物にならないくらい上品な品だった。
食事も中々豪華で、野菜多めにお願いして、ロスちゃんと全部平らげた。
豪華だったけど、正直、うちのお母さんのご飯の方が美味しいと思うのは気のせいだろうか?
一泊して、ドアにノックの音が聞こえて開けると、アルフレッドさんが迎えに来てくれた。
それと、カッコいいスーツを一着持ってきてくれた。
因みに、本来ならお父さんかお母さんと同伴で来るのが普通らしいんだけど、今回泊まったこの宿屋の名前を聞いて、二人の顔が真っ青になって断わっていた。
幾ら寄り親(貴族の派閥)とはいえ、自分の子供を一人だけ送るような酷い親ではないからね。
それと、僕が一人で大丈夫だと説得したのも大きい。
普段から大人びた僕だからこそ、送り出してくれたのだ。
そんな僕は渡されたスーツを着るのに悪戦苦闘していると、アルフレッドさんが優しく着るのを手伝ってくれた。
あ~あ、うちにも執事の一人や二人欲しいな~。
◇
アルフレッドさんに連れられ、豪華なお城みたいな屋敷に入って行った。
広さはうちの屋敷なんて、物置小屋みたいに見えるくらいだ。
長い屋敷の廊下を歩き、二階に上がり、とある部屋にノックをするアルフレッドさん。
中から「どうぞ」との声が聞こえる。
扉を開けたアルフレッドさんは、僕に中に入るように合図を送ってくれた。
僕は緊張した面持ちで中に入って行った。
「こほん、初めまして、ベルン家嫡男クラウドと申します。此度のお茶会の誘いありがとうござい……ま……え?」
事前に練習していた挨拶を披露して、顔を上げた僕の想像とは違う状況が目の前に広がっていた。
お茶会は貴族達が集まってお茶と菓子を食べながら、和気あいあいと談笑する会と聞いていた。
まさか……こんな三者面談みたいな状態だとは想像してなかった。
「いらっしゃい。こちらに座るといい」
「は、はひ! ありがとうございましゅ!」
がはっ、緊張し過ぎてカミカミだ……。
僕は促された場所に座り、目の前に視線を移した。
――――ティナ令嬢、そして、その父親であるカルサ・フォン・バルバロッサ様だった。
「今日は急な申し出を受けてくれてありがとう。まずはティナの用件から聞いて欲しい」
「は、はい、ど、どうぞ?」
僕は視線をティナ令嬢に移した。
「ふ、ふん! あ、貴方の、その…………触らせて欲しいわ」
ちょっと待ってお嬢さん。
一体何を触ろうとしているんだ。
「え、えっと……何を……触るんですか?」
「ッ! 言わないと分からないの!」
はい! 分かりませんよ! 分かりたくありませんよ!
それは何か、貴族としての当たり前の事なのですか!?
それなら僕は貴族を幻滅します!
「も、もぉ……このわからずや…………貴方の…………」
「犬を触らせて欲しいのよ……」
「はい、どうぞ」
素早くロスちゃんを目の前に出してあげた。
なるほど……だからロスちゃんを必ず連れてくるように言っていたのね……。
はぁ。
何だか……一瞬で疲れた……。
ロスちゃんにティナ令嬢と遊んでくれと伝えると、【ご主人の命令なら!】と喜んで遊んであげていた。
ディナ令嬢はテーブルから離れ、何故か二階なのに存在する芝生でロスちゃんと戯れていた。
「ふふっ、我が娘があんなに嬉しそうに遊んでる所など、初めてみるな。クラウドくん。感謝する」
これくらいならお安い御用です!
と思った直後。
「それで、ここからが本題なのだが――」
あ……やっぱりまだ何かあったんだね……。
僕は押し寄せる不安と戦っていた。
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