第5話 ちょうきょうし

「おにいちゃん! 元気出して!」


 うう……可愛い妹のサリーが僕の頭をなでなでして労ってくれる。


 嫌な予感がしていたんだよ……僕の前の二人が凄すぎる『才能』を授かったから、もしかして僕も……と思っていたけど、全然そんな事なかった。




 ◇




 僕は神官に言われるがまま、水晶に手をかざす。


 ハイテンションから戻った神官はぶっきらぼうに「汝、クラウド・ベルンに『神の啓示』を~」と間抜けた感じの塩対応だった。


 それからたった一瞬だけ水晶が光って、直後水晶にひびが入った。


 神官は「そろそろ水晶の変え時かね~」とか呑気な事を言っている。


 僕が才能を早く教えてくださいと言うと「え~っと、どれどれ――――君の才能は……『ちょうきょうし』?? 初めてみる才能だね、でも光ったのは一瞬だったしな~、おめでとう、君も弱い・・なりに才能があるのだから」と言われた。


 …………。


 はぁ、『ちょうきょうし』って初めて聞く才能らしいけど、その言葉にものすご~い思い当たる節があるんだよね。


 しかも……僕が肩を落として帰っている時、何故かものすごい剣幕で辺境伯様が睨んできたんだよね。


 きっと自分の娘の花道を最後のわけのわからない才能で汚したとでも思っているかも知れない……。


 一応帰り道、馬車の中でお父さんにその事を話すと「わ、我が家の終わり……」などと言いながら魂が飛んでいた。




 ◇




 馬車に揺れる事、半日。


 ようやく、ベルン領のたった一つの町、スロリ町に帰って来た。


 初めての都会の空気はあまり綺麗じゃなくて、やっぱり田舎の空気はうまいね~。


 前世でも都会出身の僕は、田舎での建設現場を楽しみにしていたっけ、それも懐かしい過去の話だ。




 僕が才能『ちょうきょうし』を得てから、次の日。


 とんでもない事件が三つ起きた。


 というか、早速起きたというべきか……。




 まず一つ目。


 スロリ町から緊急の鐘が鳴る。


 それもそうよね、町の前に狼の群れがわんさか現れたんだから。


 彼らは『爆炎狼ファイアウルフ』達だった。


 因みに、一頭でうちの町は崩壊するらしい。


 そんな狼達が五十匹、入り口の前に座って待機していた――――『待て』と言われた犬のように。




「はぁ、ロスちゃん、これは君がやったの?」


【ご主人! そうだよ~ご主人に喜ばれると思ったの~】


 ロスちゃんが尻尾を振りながら嬉しそうに話した。


 ――――そう。


 才能『ちょうきょうし』を手に入れた僕は――――なんと、動物(?)達の言葉が分かるし、話せるようになっていた。


 そんな僕の力に真っ先に気づいたのは、やはりロスちゃん。


 僕の話していた言葉が全て理解出来たから分かったそうだ。


 帰って早々ハムスターこと、ハム達とも会話を試みると、見事に会話に成功した。


 ハム達は武士っぽい口調だった。


 ――【主、命令を】と言われた時は、人に迷惑かけずに自由にしててと言うと【承知】と頭を下げた。



 そして、今日。


 町の前に犬っころ……げふん、狼が五十匹。


 どうやらロスちゃんの眷属らしい。


 まぁ、これからアレン達の寄付金も集めたいから、働き手が増えるのは嬉しい事だ。


 そう思っていた。


 うん。


 そう思っていただけ・・なのに……。


【おい、おまえ】


 ロスちゃんが一頭の狼を呼び寄せる。


【爪を出せ】


【御意】


 直後、狼の手から爪が四本地面に落ちた。


 落ちた爪を持ってきたロスちゃん。


【ご主人! この爪なら人間共が喜ぶ品だから、高く売れるかも知れない~】


 と嬉しそうに尻尾をパタパタさせた。


「あはは……う、うん、偉い~偉い~でも無茶は駄目だからね?」


【勿論~あやつらの爪は直ぐに生えるの~もっと欲しかったら言ってね】


 爪を抜いた狼は落ちこんでいるかと思いきや、割と喜んでいるし、後ろの狼達も何処か羨ましそうに見つめている。


 …………。


 これは……定期的に貰わないと困るかも知れない……。



 狼達ことウル達の整理が終わり、屋敷の広い敷地に放し飼いにする事となった。


 この子達も賢くて、命令には全て従うらしく、アレンとサリーが背中に乗っても落とさないように遊んでくれる。




 そして、二つ目はその直後にやってきた。


 予想はしていたんだけど……。


 才能『剣聖』を開花させたエルドが両親を連れ、うちの町に引っ越してきた。


「僕は師匠の元で剣を磨きたいと思っております。この町の役に立てるように頑張りますので、住まわせてください」


 と、両親共々見事な土下座だった。


 後から知ったんだけど、エルドくん(5歳児)でも剣聖を開花させた以上、両親の方が権力的に下になるらしくて、エルドくんが引っ越すと言えば、引っ越さないといけない決まりみたい。


 この世界では当たり前の事らしいから、両親も何とも思わないし、寧ろ光栄とまで思ってるらしくて、お父さんにお願いしてエルドくん一家を住まわせる事にした。


 ただし!


 エルドくんは狩りの手伝いな!



 こうして、僕はパシ――、ううん、友人を手に入れた。



 ――――前世ではあんなに優しい人と言われてたのに、最近あくどい事ばかり思い付くのは、今のお父さんの息子だからだろうか?




 そして、最後の事件がやってきた。


 それは…………昨日、教会で会った辺境伯様と一緒にいた執事だった。




 ◇




「ベルン様、私はただの執事でございます、お気になさらず」


「い、いいえ! さぁさぁ、こちらにお座りください」


 執事さんがものすごい困ったように苦笑いする。


 昨日の睨まれた件かも知れないから、お父さんもお母さんも僕も緊張している。


 それにしても来るのがあまりにも早すぎる……。


 僕、そんなに嫌われたのかな?



「ベルン様、本日は我が主、カルサ・フォン・バルバロッサ様からの伝言を預かっております。宜しければお三方で聞いて頂きたいのです」



「は、はい! も、勿論です、何でも仰ってください!」


 お父さん……貴族としての威厳が毛ほどもない……。


「はい、では失礼します。カルサ様より、ベルン家の長男クラウド様を――――」


 執事さんの言葉に僕達三人は息を呑んだ。






「ティナ様のお茶会にご招待したいとの事です」






 お茶会かい!!!

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