第3話 死神ハムスター

 犬と戯れていたら四歳になった。


 アレンが三歳に、サリーが二歳になり、サリーも屋敷を縦横無尽に走りまくっている。


 うちの家系って家中を走りまくる家系だったりするのかな?


 そんな事を疑問に思っていると、アレンが「おにいちゃんがはしってるから!」と可愛らしく答えてくれた。



 あ、それと四歳になり、色々状況が変わった。


 まず、言葉。


 思っていた以上に俺だけがベラベラ喋れるらしくて、アレンもサリーも未だに上手く喋れてない。


 それもそうよな、俺には前世の記憶と経験があるんだから。


 だから、俺がアレンとサリーに言葉を教えるようになった。


 エマお母さんからの命令……げふん、頼みのためである。


 アレン達に言葉を教えるようになって真っ先に取り組んだ事。


 それが『尊敬語を使わない』である。


 俺の事を「おにいさま」と呼んでいた二人を叱り、「そんな弟と妹に育てた覚えはないっ! これからはおにいちゃん・・・と呼ぶように!」と強制した。


 だって……前世の感覚があるから「さま」と言われると、こそばゆいのだ。


 それを聞いていたエマお母様が目を光らせて「あら、クラウドくん? それはクラウドくんだけなのかしら? 私にもそうして欲しいのだけど?」とものすごい圧力をかけられ、今ではお母さん、お父さんと呼ぶようになっている。


 お父さんはお母さんに逆らえなくて苦笑いしていたけどね。



 二つ目は、番犬。


 うちの番犬になってくれた可愛らしいロスちゃん。


 意外にも小食で、肉でも野菜でも何でも食べるんだけど、食べている所を見ると、どうやら野菜が好きみたい。


 犬って野菜食うんだ……知らなかった……。



 そんなロスちゃんのおかげで大きな躍進があった。


 それが『狩り』である。


 この世界では『魔物の肉』は貴重なたんぱく源みたいで、特に猪の魔物の肉が喜ばれていた。


 でも、猪の魔物『ビッグボア』は4メートルくらいの大きさで、『戦闘系才能』を授かった人じゃないと倒すのもままならないそう。


 しか~し!


 そこでうちのロスちゃんの出番なのである!


 よくわからないんだけど、俺が近づくと『ビッグボア』が大人しくなるのだ。


 全然逃げないし、近づいてもこないし、吠えもしない。


 ただただ見つめてくる。


 僕を見つめるつぶらな(?)瞳を見ていると、ちょっとだけ心が痛むけど、『ビッグボア』は町のご馳走だから無抵抗のままロスちゃんにトドメを刺して貰う。


 ロスちゃんのトドメの刺し方。


 非常に簡単だ。


 ビッグボアの目の前で「がお~」と緩く叫ぶとそのまま昇天するのだ。


 あんな可愛らしい咆哮なのにな……全力で吠えさせてみたら、森の木々が倒れまくってたから異世界の犬の吠えは恐ろしいのかも知れない。




 そんな俺の事を、町のみんなは『魔物使い』と呼んでいた。


 世界に多くある『才能』の一種で、魔物を従える事が出来るのが『魔物使い』という才能なのだ。


 しかも、みんなが僕に期待している事があった。


 それは『ベルン家』に関わる事で、我がベルン家は元々子爵家だった。


 子爵家だった頃、世界でも最強と言われている『火竜』を従える事が出来たそうだ。


 お父さんの話だと、従えた訳ではなく、不可侵の契約を取り付けれただけらしいんだけど、それでも人類に取っては大きな功績だったみたい。


 今は、そのご先祖様も亡くなり、契約も無くなったから『火竜の住処』には絶対近づくなと言われている。


 そんな優秀な『魔物使い』を輩出してきたのが、我がベルン家なのだ。


 三代前まではね。


 三代前、つまり僕のひいおじいちゃん、おじいちゃん、そしてお父さんは『才能』の中では一番低く、且つ多い『無才』という才能だった。


 『無才』は恩恵もなければ、どれだけ頑張っても強くなれないという。中には人生の敗北者とも言われてるみたいだが……。


 そんなうちの家系は、目立った活躍もないまま、時が流れ今の男爵にまで落ちたそうだ。



 そんな事もあり、世界で最も危険な存在の魔物を使役出来る『魔物使い』は非常に重宝されているとの話だ。


 魔物を使い、運搬を行ったり、ロスちゃんみたいに狩りを行ったり、中には用心棒みたいに人々を守ったりと、あらゆる面から愛されている才能との事だ。


 だからこそ町民達、更にはお父さんも俺への期待が凄まじかった。


 ただ……俺としては『魔物使い』にはなりたくない。


 絶対になりたくない。


 ロスちゃんですら少し苦手なのに、動物を通り越して魔物に好かれるなんてもってのほかだ!




 ◇




 そんな事を思っていた時期が僕にもありました。


 四歳が終わりを迎えた頃。


 って、因みにアレン達に言葉を教えて一年近く経って気づいたんだけど、自分の事を『俺』と心の中で話していて、外には『僕』と喋っていたら、偶に「俺は~」って口に出してしまって、お母さんに「クーくん? いま、おれ・・って言った?」って鬼の形相で迫られてしまった。


 あの時は二度目の異世界転生を果たすんじゃなかろうかという恐怖を味わってしまった。


 綺麗なお母さんのめいれ……げふん、じゃなくて、お願いによりこれからはちゃんと心の声も『僕』にする事を決めた。


 はぁ……どんどん幼児退行している気がしてならない。



 閑話休題。



 冬に差し掛かり、雪が降って来そうな頃。


 そろそろ狩りが出来ない時期だからと、狩人達と山に入ってビッグボアを数体狩ろうとした。


 四匹狩って、狩人達に運んで貰っていた時の事だった。


 その時――――そいつらは現れたのだ。




 ――――栗鼠りす




 可愛らしいフォルムで、両手には栗を持ってむしゃむしゃ食べる姿が容易に浮かぶ。


 しかし、僕の考えが甘かった、


 この世界のリスは…………肉食だった。


 ううっ……手に持っているモノはモザイクを掛けないと直視出来ない。


 しかし、その直後、更に想像だにしなかった事件が起きた。



 リス達が俺の前に跪いて、そのぶつを置いてくれた。



 いやあああああ! いらない! いらない!


 そんなモザイク掛けないと見れないぶつはいらないから!!


 リスさん達?


 何だか誇らしげな表情なの、気のせいよね!?


 ロスちゃん?


 何で君がドヤ顔でリスさん達を見下ろしているんだい!?



 その後、戻って来てくれた狩人のベクトルさんが腰を抜かし震えて言った。


 ――「し、し、し、し、死神ハムスター……ぼ、ぼ、坊ちゃま……なんて恐ろしいお方なんだ…………」と。


 腰を抜かして呟いていたけど、こんな可愛いフォルムで『死神』って二つ名って……。


 でも名前はものすごい可愛らしいね。


 前世のハムスターが思い浮かぶ。


 まぁ、ハムスターと比べ物にならないくらい大きいけどね。


 一匹で小型犬くらいの大きさはある。


 それが十五匹も並んでると中々壮観だね。




 こうして、僕の家にまた新しい家族が増えた。


 ハムスターが十五匹。


 可愛らしいのに、肉食の栗鼠だ。

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