第3話 カナと八尺様

 朝方、やや大きな地震があったけれど、たいした被害はなかった。

 カナは怪獣ちゃんと散歩に出かけた。

 のどかな畦道を歩いていると、前方に並はずれて背の高い女の人が立っていた。

 2メートルを軽く超える。

 白い帽子を被っていて、膝までの長さの白いワンピースを着ていた。

 顔立ちは整っているが、完全に無表情だ。髪の毛は黒く、腰まで伸ばしている。

 妖気が漂っていた。

「あれは、八尺様だよ」

 八尺様とは、身長2メートル40センチの女性型の怪異である。

 カナはくねくねに出会ってから、ネットロア(ネット上で流布している都市伝説)に詳しくなっていた。

 八尺様の近くにお地蔵様があって、転倒していた。立っていたところには深い穴が開いている。お地蔵様が八尺様を封じていたのに、地震で倒れて、封印が解かれてしまったのだろう。

「取り憑かれると、殺される。逃げるよ、怪獣ちゃん」

「ぼくがやっつけてやる!」

「怪異対怪獣の対決を見てみたいけど、ここで巨大化したらだめだから」

「仕方ないなあ」

 カナと怪獣ちゃんはくるりと反転し、公民館に逃げ帰った。

 それから数日後、駄菓子屋さんちの子どもが八尺様に取り憑かれたという噂を聞いた。

 八尺様は駄菓子屋に居着き、小学6年生の男の子のそばから離れず、彼は食欲をなくして衰弱しているという。

「怪獣ちゃん、やっぱり八尺様をやっつけてくれる?」

「こういう展開になると思っていたよ。いいよ、やっつけてやる!」

 カナは駄菓子屋さんのおじさんとおばさんに「わたしに任せてくれたら、八尺様を封じてあげます」と伝えた。 

 医者にも神主にも匙を投げられていたおじさんとおばさんは、カナに頭を下げて、「息子を助けてください」と言った。

 その日の深夜、カナは弱り切って意識を失っている男の子を背負って、外に出た。もちろん怪獣ちゃんも一緒だ。

 八尺様がついてくる。怖い。妖気をまとった白くて背の高い怪異がふらりふらりとあとをつけてくる。

 でも男の子の命がかかっているのだ。

 カナはがんばって、彼をお地蔵様が転倒しているところまで運んだ。

「怪獣ちゃん、お願い!」

 小さなセンザンコウはたちまち巨大化して、八尺様の前に立ちふさがった。

 八尺様の頭をがぶりと噛んで、怪異を深い穴の中に押し込んだ。

 カナは力を振り絞って、お地蔵様を穴の上に立たせた。

「怪獣ちゃん、ありがとう! 人が来ると困るから、早く小さくなって!」

「もうしばらくこのままでいたいなあ」

「また自衛隊が来ちゃうよ」

「ちぇっ」

 怪獣ちゃんはしゅるしゅると小型化した。

 カナは男の子を駄菓子屋に連れて帰った。

「安心してください。八尺様はお地蔵様の下の穴に封印しました」

「ありがとう、カナちゃん、ありがとう!」

 駄菓子屋さんはカナに山ほど駄菓子をくれた。

 カナは公民館の管理人室に戻って、駄菓子を食べた。

「怪獣ちゃんも食べる?」

「ぼくは草の方が好き」

 怪獣ちゃんは実はものすごく大きくて強いのだが、草食だ。

 カナは小さなセンザンコウの頭を撫でた。

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