第2話 カナとくねくね

 カナは孤児だ。

 辺鄙な村の公民館の管理人室で暮らしている。

 最近、ペットを飼い始めた。

 小さなセンザンコウだ。

 鼻がないが、元気だ。

 実は小さく変化へんげした怪獣で、真の姿は1か月前、村民を避難させた巨大生物だ。

 この姿に変身して騒ぎが鎮まり、村民はすでに帰ってきている。

 1日2回散歩に連れて行く。センザンコウはそのとき、ばくばくと草を食べる。 

 きれいな水が流れる小川のほとりで、カナは立ち止まり、センザンコウに草を食べさせた。

「怪獣ちゃん、しっかり食べな」とカナは言った。

 彼女はペットを怪獣ちゃんと呼んでいた。

 カナは小川の向こうの田んぼを眺めた。

 田んぼの真ん中に真っ白な服を着た人がいて、カナは不思議に思った。田植えでも稲刈りでもないのに、なぜあんなところに人が立っているのだろう。

 その人は最初は棒立ちしていたのだが、やがて人間とは思えないような動きでくねくねと踊り始めた。顔や腕や胴体や足が、関節などないかのようにくねくねと動いている。

 くねくね、くねくね、くねくね……。

 カナは頭がおかしくなったのかと思った。

 ふらりとくねくね動く人の方へと近づいて行った。

「カナ、あれを見てはだめ」と怪獣ちゃんが言った。

 カナは驚いて、小さなセンザンコウを見た。怪獣ちゃんがしゃべったのは、初めてだった。

「怪獣ちゃん、しゃべれたの?」

「ぼくは怪獣だからね。それぐらいできる」

「やっぱり怪獣だったんだ!」

 センザンコウは鼻のない頭部でうなずいた。

「そんなことより、くねくねだよ」

「くねくね?」

「あの白い怪異のことだよ。あれの正体を知ると、精神が異常を来たすと言われている。見てはだめ。考えてもだめ」

「わかった」

 カナは急いでそこから離れた。

 センザンコウは彼女の後ろを守るように、あとにつづいた。


 後日談。

 公民館の中年男性職員が心の病気で休職した。

 カナも知っている人で、真面目な職員だった。

「変なことを言っていたよ」と公民館長がカナに教えてくれた。

「何を言っていたんですか?」

「確かこんな感じのことを言っていた。くねくねがいてさあ、くねくねしてるからさあ、くねくねはあれさ、かいいさ、まっしろいこころのかいいさ、くねくねはさあ、しろくてさ、こころをしろくしろく、くねくねしてるからさあ、くねくねはね、くねくねはさあ、かいいさ、くねくねがいてさあ、」

「それ、いつまでつづくんですか?」

「ずっとつづくんだよ。延々としゃべりつづけてたよ」

「もうその話はいいです」

 カナは管理人室へ戻り、怪獣ちゃんに言った。

「わたしを守ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

 カナは怪獣ちゃんと散歩に行った。

 あの怪異が現れたところには当分の間近づかないようにしよう、と彼女は思っていた。

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