第2話 カナとくねくね
カナは孤児だ。
辺鄙な村の公民館の管理人室で暮らしている。
最近、ペットを飼い始めた。
小さなセンザンコウだ。
鼻がないが、元気だ。
実は小さく
この姿に変身して騒ぎが鎮まり、村民はすでに帰ってきている。
1日2回散歩に連れて行く。センザンコウはそのとき、ばくばくと草を食べる。
きれいな水が流れる小川のほとりで、カナは立ち止まり、センザンコウに草を食べさせた。
「怪獣ちゃん、しっかり食べな」とカナは言った。
彼女はペットを怪獣ちゃんと呼んでいた。
カナは小川の向こうの田んぼを眺めた。
田んぼの真ん中に真っ白な服を着た人がいて、カナは不思議に思った。田植えでも稲刈りでもないのに、なぜあんなところに人が立っているのだろう。
その人は最初は棒立ちしていたのだが、やがて人間とは思えないような動きでくねくねと踊り始めた。顔や腕や胴体や足が、関節などないかのようにくねくねと動いている。
くねくね、くねくね、くねくね……。
カナは頭がおかしくなったのかと思った。
ふらりとくねくね動く人の方へと近づいて行った。
「カナ、あれを見てはだめ」と怪獣ちゃんが言った。
カナは驚いて、小さなセンザンコウを見た。怪獣ちゃんがしゃべったのは、初めてだった。
「怪獣ちゃん、しゃべれたの?」
「ぼくは怪獣だからね。それぐらいできる」
「やっぱり怪獣だったんだ!」
センザンコウは鼻のない頭部でうなずいた。
「そんなことより、くねくねだよ」
「くねくね?」
「あの白い怪異のことだよ。あれの正体を知ると、精神が異常を来たすと言われている。見てはだめ。考えてもだめ」
「わかった」
カナは急いでそこから離れた。
センザンコウは彼女の後ろを守るように、あとにつづいた。
後日談。
公民館の中年男性職員が心の病気で休職した。
カナも知っている人で、真面目な職員だった。
「変なことを言っていたよ」と公民館長がカナに教えてくれた。
「何を言っていたんですか?」
「確かこんな感じのことを言っていた。くねくねがいてさあ、くねくねしてるからさあ、くねくねはあれさ、かいいさ、まっしろいこころのかいいさ、くねくねはさあ、しろくてさ、こころをしろくしろく、くねくねしてるからさあ、くねくねはね、くねくねはさあ、かいいさ、くねくねがいてさあ、」
「それ、いつまでつづくんですか?」
「ずっとつづくんだよ。延々としゃべりつづけてたよ」
「もうその話はいいです」
カナは管理人室へ戻り、怪獣ちゃんに言った。
「わたしを守ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
カナは怪獣ちゃんと散歩に行った。
あの怪異が現れたところには当分の間近づかないようにしよう、と彼女は思っていた。
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