第10話

莉奈さんとカフェに行った日から2週間が経った。

僕は以前よりも莉奈さんと話すようになったし、メッセージのやり取りも増えた。


莉奈さんは試合に集中したいだろうと思うから、あんまりメッセージしない方がいいと思っていたけど、


【いつもありがと!コタローとはなしてると気分転換になるよ!】ってメッセージを貰ったので、僕は少しだけ気にしつつ、ちょくちょくメッセージを送った。



「もー告白しちゃえば~」

放課後、アイスを食べながらダルそうにユッキーが言った。

もう5月になるけど、それでもまだ4月、、。

今年は去年よりも暑い気候に感じる。


僕はアイスの棒を確認すると「ハズレ」だった。


「莉奈さんは地区予選中だから、、、。もう少し落ち着いたら告白するよ。」


ユッキーも「ハズレ」だったみたいで、棒を確認してわざとらしく舌打ちした。


「福田、、、。」

ユッキーはボソっと、それでもハッキリ聞こえるように僕に言った。


「福田くんは7月の夏祭りに告白するって言ってたよね、、。だからまだ時間あるし、焦る必要無いかなって。」


福田君が莉奈さんに告白すると聞いた時は、焦燥感でいっぱいだった。

福田君はかっこいいし、とても明るく爽やかだから、、、。僕は自分自身にそこまで自信が無いから尚更だった。


「ん~。、、、まあなぁ、、。」


さらにユッキーが言いかけたので、僕は遮るように早口で続けた。


「それに、僕も告白するタイミングは決めてるから。色々考えたんだけど、、、6月にデートに誘おうと思うんだ。その時に。」


「6月!?1ヶ月以上先じゃん!!」

ユッキーは怒ってるような驚いているような、そんなニュアンスのリアクションで言った。


「莉奈さんと話をしてて分かったんだけど、6月に公開の映画見たいって言うから、、それを一緒に見に行こうと思うんだ。」


「そんなん告白して付き合ってから見に行けばいいじゃんかー!」

ユッキーは早く告らせたいらしい。

以前からそうだけど、ユッキーはせっかちだ。焦れったいのは苦手。


ユッキーとは高校近くの「赤嶺駅」で別れ、僕は電車を待った。

ユッキーは最近忙しい様子で、本来は同じ電車で同じ駅で降りるのに、最近は駅を素通りしてどこかに姿を消す。

以前に何度かそれとなく聞いたら「モテる男は辛いのよ」としか答えないので、僕は放って置くことにした。


ユッキーの言う事も理解出来る。

早くしないと莉奈さんに良い人が出来てしまうかも、、、。

その通りだと思うし、僕も時折不安になる。


実際にこの前、図書室で委員会作業をしていると、1年生が莉奈さんの事を「可愛い」と噂しているのを聞いた。

僕が聞き耳をたててるのを、同じく図書委員の龍子がニヤニヤしてたっけ。


そういえば、、ユッキーと違って龍子は「慎重派」だった。

僕はユッキーと龍子だけに莉奈さんの恋愛相談をしてる。

ユッキーと龍子は元々小学校から一緒だし、凄く信頼してるし、同じく莉奈さんとも一緒だからなんとなく莉奈さんの事をよく知ってる2人なのでアドバイスは凄く参考になった。


ユッキーと龍子は意見が対照的だ。1つの事に意見が正反対なのでたまに戸惑うけど、色んな視点で考える事ができるのはいい事だと思う。


最近は莉奈さんとも更に仲良く、、それこそ小学校、中学校時代よりも今の方が仲が良いくらいなのと、この2人の存在もあって、福田君という脅威も他の人の心配も無く、むしろ僕は自信に満ち溢れていた。



……………………………

その日の夜。赤嶺駅のホームは、人もまばらで静寂に包まれていた。部活とその後の個人練習を終えた龍子は、静かに小説をみながら電車を待っていた。


昼間の暖かさが嘘のように夜は寒く、まだ4月である事を改めて実感する様に、龍子はマフラーに口元を隠した。


「げぇー。」

その声に龍子が振り向く。この声は昔から聞き覚えがある。ユッキーだ。


「ユッキー、、お疲れ様。」


「今22時だぜ?こんな遅くまで部活やってるの?」


「まあね。」

龍子が短く答えた。


のそのそとユッキーは龍子の隣に座った。


間もなく電車が来たので、2人は電車なの乗り込んだ。電車内もやはり人はまばらだ。


「なぁ、、、。」

龍子の隣に腰掛けながら、ユッキーがポツリと言った。


龍子はユッキーが何を言いたいのか分かっていたけど、言葉の続きを待った。


「コタローの話、、聞いてんだろー?」


「うん。聞いてるけど?」


「ぶっちゃけいいの?」

ユッキーは龍子の方を見ない。対面の真っ暗な暗闇が見える窓の方を見ながら話す。


「ユッキーはホントにお節介だね。」

少しだけ困った様に龍子は微笑んだ。


「ユッキーは、コタローと莉奈が付き合えると思うの?」


「もちろん。てか、付き合って貰わねーとこまるよ。ここまでのフォローが水の泡になるしな!」


龍子は静かに「そうだね。」と呟いた。


「ユッキー、、、さっき私に、こんな遅くまでって言ってたけど、ユッキーこそこんな遅くまで何してたの?

最近帰り遅いんでしょ?」


ユッキーは「ノーコメ」と短く言うと、龍子は笑った。


「ま、ユッキーが何をしてるのかは分かるけどね。

アンタはホントーーーッに、コタローの事が好きだね!」


「ばーか。男に興味ねーよ。コタローは友達!友達の為に動いてるだけなの。」


「あはは!そーゆー意味で言ってないよ。

、、、ユッキーがコタローを大切な友達だって事は知ってるよ。」


「それにさ、俺がホントに好きなのは、、、。」

ユッキーは恥ずかしさを隠すためなのか、別の意味があるのか、ぶっきらぼうに言いかけた。が、黙った。


「知ってる、、。」

龍子は静かに言った。


「ユッキー、、、ありがとう。」

龍子はユッキーの「言わない優しさ」に感謝した。

そして、龍子の想いと、そのありがとうという意味をユッキーは分かっていた。

「、、、別に。」


電車内はしばらく静かになって、2人は帰路についた。

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あなたへ。 昼下がりの囚人 @tonton5656

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