第9話
三倉駅から歩いて7、8分の所に「フッ茶」はあった。
日曜日のお昼過ぎという事もあって、ガラス越しに見える店内は混んでいる様子だった。
「うわー、、結構混んでるねー。」
僕は思わず口に出したけど、莉奈さんは混んでいる事は当然とでもいうように、まるで気にならない様で、
「人気のお店だからねー。」
と言いながら外のメニュー板を見て何が良いかを選んでいる。
「澪ちゃんがね、、って澪ちゃん分かる?」
「おじょ、、、同じクラスの俵屋さん?」
俵屋澪をお嬢とあだ名で言っているのは僕とユッキーくらいなので、僕は慌てて言いかけた言葉をしまった。
「そうそう。澪ちゃん、ここに良く来るんだって。でね、抹茶ラテがオススメって言ってたんだけど、、。キャラメルラテも美味しそう、、というか可愛いよね。」
莉奈さんが指をさしながら、どれを頼もうか悩んでいたので、僕もメニュー板をみる。
、、、分からない。
カフェ、、というか種類が多く、聞き慣れないメニュー。写真付きの飲み物も、どれも同じ様にみえるし、莉奈さんの言ったキャラメルラテが可愛い意味が分からない、、、。
「あー、、と、キャラメルラテ?美味しそうだよね。」
分からない焦りを隠して僕は莉奈さんにあわせる事にした。これが吉とでるか凶とでるかは分からない。
結局、莉奈さんは抹茶ラテに決めた。僕は見た目でカプチーノというのに決めた。
莉奈さんはホットケーキの様な物も注文したので、僕もティラミスみたいな物を注文した。
「おーいいねー!」って莉奈さんが言ってくれたので、僕はちょっと得意げに笑った。
(正直、何がいいのかよく分かってなかったけど。)
運が良く、店内の奥のテーブル席が空いていたのでそこに座る事にした。
少し見渡してみても他に席は空いていないようだ。
「ちょっとごめんね!」
そう言うと莉奈さんはスマホを出して目の前のメニューを写メっていた。
(あー、、莉奈さんも今どきの女の子なんだよな。)
当たり前の事だけど、莉奈さんの行動を見てて思った。
高校に入ってからは話す事も少なくなっていたので、僕の中で莉奈さんを中学の頃のままのイメージになっていたんだと思う。
だからここ最近の莉奈さんといると、イメージとリアルでのズレがちょくちょくあった。
今はそのズレを少しづつなおす作業みたいに、2人の距離が縮まって行くような気がした。
莉奈さんとラテが美味しーとか、ホットケーキがー、、とか一通りのカフェの話をして、自然と少しづつ学校の話になっていった。
「来週からバスケの地区予選なんだー。だから予選始まったら当分来れないと思ってたから、今日来れて良かった!」
「いつまであるの?地区予選。」
「んー、、順調に勝ち進めればゴールデンウィーク位までかなー。今回はね、私もスタメンで出れるんだ!」
「え!凄いね!おめでとー。莉奈さんはポジション?どこだっけ??言われても分からないかもだけど。」
莉奈さんはちょっとだけ笑って答えた。
「フフ、、ありがとう。私はガードだよ。簡単に言うと、ボール回しながら外からバンバンシュート打ってくところ。」
「へぇー、、、、莉奈さん、頑張ってるもんね。本当に凄いと思うよ。」
「ありがとう。でもさ、そんな事なくて。コタローだから言うけど、、ここ最近ずーっとナーバスになってたんだー。」
<コタローだから言うけど>、、、特別扱いされた様で嬉しかったけど、莉奈さんの目が暗くなった気がして心配になった。莉奈さんはポツリポツリと続けた。
「私達の上の代、、今の3年生ね。すっごく上手なんだー。顧問がね、この代なら絶対県大会いい所まで行ける!って言うくらい。」
「でも、その中でスタメンに選ばれたんでしょ?莉奈さんも上手って事だし、認められたって事なんじゃないの?」
莉奈さんはラテを見ながら残念そう、、、というよりは、自分自身を否定する様に首を横に振った。
「先輩が怪我しちゃって、、地区予選には間に合いそうにないの。
私はその先輩の代わりになんだよ。
先輩は何事もなければ県大会には復帰出来そうなんだけど、、
もし地区予選で敗退しちゃったら、、。
私のせいで負けたら、、、。
そーゆー事ばかり考えちゃうんだよねー。」
莉奈さんはため息をついて黙った。
僕はなんて言っていいのか分からず、でも何か言わないと、と思って言おうとするけど、
(これで莉奈さんが更にプレッシャーを感じてしまったら。)
と思うと、やっぱり何も言う事が出来なかった。
「だからね、今日はここに来れて良かった!
気分転換になったし。」
再び莉奈さんの目に明るさが戻った。
「コタロー、、ありがとね。」
僕は何もしていないし、莉奈さんを助けてあげられていない。莉奈さんは僕に気を使って「ありがとう」と言ってくれている。
そんな気がして「どういたしまして」とは言えなかった。
だから代わりに
「僕の方こそありがとう。
莉奈さん、、、めっちゃ大変だと思うけど、、、試合の勝ち負け関係なく、僕はみかただからね。
僕は莉奈さんなら絶対に大丈夫だと思うから。
応援してるよ。」
伝えたい気持ちが、感情が多くて、まとまりの無い言葉になったけど、莉奈さんは少しだけ驚いた顔をして、優しく微笑んだ。
「コタローは優しいね。ありがとう。伝わったよ。」
莉奈さんは少し背を伸ばして「なんか元気出たよ。」と言って、話題を変えた。
僕もこれ以上はその事には触れなかった。
莉奈さんにとって、もうこの話はこれで十分なのだと理解したから。
三倉駅までの帰り道、、、。
そろそろ夕焼けかな。気づけばもう日が暮れる。僕と莉奈さんは長い事カフェで話をしてたみたいだ。
「あっという間だねー!今日は楽しかったね!」
莉奈さんは歩きながら、笑顔で言った。
「うん。莉奈さんも楽しんでくれて良かったよ。」
「ありがと!ねぇ、、コタロー。」
「うん?なに?」
「地区予選終わって、、県大会とか色々あるけどさ、、、。」
「うん。」
「色々と落ち着いたらまた一緒に来よう?」
莉奈さんの言葉に僕は幸福感に包まれた。地面に足がついていないような感覚、、まるで夢みたい。
「ぜ、ぜひぜひ!また、来よう!楽しみにしてるよ!」
「私も楽しみにしてるね!!」
「私、寄る所があるからここで。
また明日ねー。」
駅に着くと莉奈さんはそう言いい、街の中に姿を消した。
三倉駅で僕と莉奈さんは別れた。
帰りの電車の中で、「今日はありがとう」と、「部活応援している旨」のLINEを莉奈さんに送った。
電車の揺れを感じながらどこかセンチメンタルな気持ちになった。
行く時と帰る時とでこんなにも気持ちが違うもんなんだと思った。
莉奈さんとの時間は最高に楽しかった。幸せだった。
だから、帰り道はきっと寂しい。「もっと一緒にいたい」そう思うだろうと、分かっていた。
でも、、、この気持ちはそれだけではない気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます