第8話

金曜日の夜、「莉奈さんとカフェに行く旨」をLINEで報告すると、龍子から電話がかかってきた。ユッキーの事がよぎり、少し不安な気持ちになって電話にでるのをためらった。


少し間をおいてから僕は通話ボタンを押した。


「もしもし。」


「もしもし。LINEみたよ。良かったじゃん!」

龍子の言葉に僕は安堵した。


「うん。ありがとう。」

感謝を述べてから経緯を話した。僕は安心したかったからユッキーとの会話で引っかかっていた事も話した。


以前から思っていたけど、龍子は相槌が上手だと思う。僕が表現にちょっと困りそうな時、表現をエスコートしてくれる。

とても話しやすかったし、アレもこれもと脱線しがちな僕の話は、1本の筋道をひいてそれに紐ずけされるような形で話す事ができた。


ひと通り話終えると僕は満足感で包まれた。


「ふーん、、。ユッキーは何が気になるんだろうね?」

龍子も僕と同じで、ユッキーの態度は気がかりの様だった。続けて


「でもあんまり深く考えない方がいいよ。本当にヤバい時はユッキーもハッキリ言うし。」


確かにそうだ。

ユッキーはそういうタイプだ。昔から本当に危ない時、周りは気づいていないけどユッキーだけ気づいている時、ユッキーは必ず言う。


だからこそ、ユッキーのハッキリしない態度が気になるのもあるけど、、、。


「龍子はフッチャってカフェ知ってる?」


「んー?名前だけなら聞いた事あるよ。バレー部の後輩とかも行ったって言ってたし。

結構人気なんでしょ?」


「莉奈さんが言うには女の子に人気らしいよ。オシャレで。龍子は行きたいとかないの?」


「私はそーゆーのに興味無いからなあ。行こうって言われたら行くくらいかな。」


あぁ、、そっか。龍子はそーゆータイプだった。

ファンシーな文房具が流行って周りの女の子がこぞって授業で使ってたけど、龍子は変わらずに普通の文房具使ってたっけ。


「莉奈は好きだよね。そういうの。

高校入ってから垢抜けてきたし、今どきって感じがするよ。うん、あれはモテるわ。」


「莉奈さん、彼氏いるとかないよね?」

モテるという言葉に僕は反応して咄嗟に聞いてしまった。

その様子に龍子は電話越しで笑っているのが分かった。


「いたらコタローと2人きりでカフェに行かないと思うよ。ましてずっと行きたかった所でしょ?

もし彼氏がいるとか、好きな人がいるならコタローみたいにみすぼらしヤツじゃなくてソイツと行くよね。」


みすぼらしと言う言葉にムッと来たが、今は気にしない。もう1つの疑問が先だ。


「莉奈さんと会う時に気をつけた方がいい事ってあるかな?身だしなみ以外で。」


実は龍子と電話する前に、ユッキーがわざわざLINEで事細かに身だしなみには気をつけろという長文の内容を送ってきてくれていた。

なので身だしなみについてはもうおなかいっぱい。


「コタローはコタローのまま、ありのままで良いと思うよ。変にアドバイスして混乱する事の方が怖いわ。」


「まぁ、、それもそうか。」


「なんにせよ良かったじゃん。でもさ、、別にまだ付き合った訳では無いんだから気を抜いちゃダメだよ!」


「ありがとう。うん、気をつけるよ。

この先もまた色々と迷ったら聞くと思う。また相談乗ってよ!龍子のアドバイスも凄く助かってるからさ。」


気のせいかもしれないけど、龍子は一瞬止まった。言いかけた言葉をしまうように、少し早口で喋りだした。


「別に。私のおかげじゃなくてコタローが行動起こしたからだよ。そこは自信持ちなよ。

あ、あとユッキーのおかげもあるか、、。

なんにしてもさ、早く告白して付き合わないと他の人に取られちゃうかもしれないから、グイグイ行った方がいいよ。

あー、、私もそろそろ彼氏作ろうかなー。」


「龍子は良い人いるの?」


「内緒!」

龍子は間髪入れずに素早く答えた。


「じゃあ、日曜日、、明後日か。明後日は頑張ってね。、、、応援してるよ。」


「ありがとう。また報告するよ。」


お互いに「おやすみ」と言って電話を切った。

ユッキーの事は気になるけど、龍子の言う通りで心配しないようにしよう。


僕は布団に入り、暗くした部屋の中で天井を見つめて考えていた。

(もしも付き合えたら、今龍子と電話したように、莉奈さんとも夜電話したりするのかな、、、。)


それはとても望んでいる事だけど、上手く想像がつかなかった。



莉奈さんと約束してからあっという間に日曜日の朝が来た。

最初は長かった様に思えたけど気づいたらもう今日か、、。

いまいち現実味もなく、心は落ち着き、不思議な気持ちになった。と、同時に楽しみなのにどこか不安な気持ちもあった。


この不安が何によるものなのかは分からないけど、それでも僕は自分を鼓舞して身支度を進めた。

念入りに鏡を見て、念入りに歯を磨いて、念入りに学生服のチェックをし、、、ナーバスな様相の僕を母さんは不思議そうに何も言わずにチラチラ見ていた。



お昼過ぎに家を出て最寄り駅の「山畑駅」から電車に乗る。

1回乗り換えをして「三倉駅」についた。なんかあっという間に感じた。


(早く着きすぎたかも、、、。)


待ち合わせは三倉駅の西口の時計台。待ち合わせ時刻までまだ30分程あった。



僕はソワソワしていた。自分の心臓がドクンドクンと鼓動を早くしているのも分かった。


(ヤバい、、、。急に緊張してきた。)


朝の不思議な感覚が嘘かと思うくらい、緊張して心が落ち着かなかった。


(もしも来なかったら、、ドタキャンされたらどうしよう。)

「莉奈さんが来ない可能性」が脳裏にチラつく。おもむろにスマホを見た。まだまだ待ち合わせの時間まで時間はある、、、。


「コタロー!」


僕はビックリして振りかえると、莉奈さんが小走りで手を小さく振りながら近づいてきていた。


「はやくない?【今着いたよ。】ってメッセージ送ろーと思ったら、コタローがもう来てるから驚いたよ。笑」


「ん?うん、いや、、今着いたばかりだから、、莉奈さんも早いね。僕もビックリした。」

僕は驚きと嬉しさと動揺を隠すように笑って答えた。

(あぁ、、、本当に来てくれたんだ。)


「電車1本逃すと間に合わないと思って乗ったら早く着いちゃったよ。」

莉奈さんはスマホをチラリと見ながら少しだけ笑みを浮かべて答えた。


莉奈さんは見慣れた制服姿だし、変わらず薄化粧だけど、高校での莉奈さんとは別人の様に雰囲気が違い、凄く可愛く見えた。


もしかしたら、普段の化粧の仕方とか違うのかな?

聞こうかと思った。けど、僕自身にまだその余裕がなかったので言わなかった。


「じゃあ行こっか!」莉奈さんの言葉をきっかけに僕と莉奈さんは歩き始めた。


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