第6話

福田君からの唐突な勝負の申し入れから数日経った。


( まだ藤野くんに心のどこかで余裕があるからだと思うんだよ。)

確かに福田君の言っている事は正しいと思う。


あの一件以来、僕は莉奈さんに少しずつだけど積極的に声をかけられるよう、、いや、声をかけるようになった。

あんな奴に負けてたまるかという、僕には欠けていた「意地」のようなものが僕自身をつき動かしていた。


僕は福田君の事をよく知らない。

見た目と雰囲気だけで言えば、「爽やか」「良い人」「モテそう」というワードが出てくる。

実際クラスでも分け隔てなく、誰とでも仲良く話をしているので、彼の事を「好き」という人はいても、「嫌い」という人はいないと思う。


それでも僕は福田君が「なんか嫌い」になった。

僕が莉奈さんの事を大好きでいるのに対し、福田君は莉奈さんの事をそこまで好きという訳ではない。

それでも「面白いから」という理由で、勝負のため莉奈さんに告白するという。

仮にそれが「僕の事を思って」だとしても、莉奈さんに対して失礼な事だと思う。

そして、あの一連の出来事は何故か僕自身の心も踏みにじられた気がした。


(彼からしたら僕の初恋はそんなに軽く見えるのだろうか?)

ふとした時にスっとよぎる疑問に僕は気持ちが重くなる時があった。


賭けの対象になっている事が、莉奈さんには本当に申し訳ないと思うけど、福田君みたいな人から莉奈さんを守りたいと本気で思っていた。


「んー、、それは、大きなお節介じゃない?別にどっち選ぶかも、他の人を選ぶかも、、莉奈の勝手な訳だし。」

一連の出来事と僕の思いを聞いた龍子の率直な感想は、刺さった。

この言葉に僕の決意は揺らいだ訳だが、「じゃあどうしたらいいの?」という、新たな疑問が僕の足を止めそうなので、

僕はこの決意が間違いではないと思い聞かせて、とにかく行動に移した。



「福田優也、、、身長は180cm、体重は76kg、バスケ部で中学の時は主将をつとめ、ポイントゲッターとして活躍してましたね。中学の時はフォワードでしたけど今は身長も伸びてきてセンターをやっています。」


「流石ハカセ!何でもしってんなー。」

ユッキーがオーバーに驚いたリアクションをとる。


「まあ、僕は福田さんと同じ中学でしたからね。」

得意気にハカセはメガネをクイッとなおしながら答えた。


(ちゃんりなにアタックするのもいいけどよー、、まずは敵の事も良く知っとこうぜ!)

ユッキーの提案で、僕らは彼と同じ中学だったハカセに福田君の事を聞きに来た。


僕は福田君がどんな人柄で、中学の時の人物像を知りたかったけど、ハカセの情報は如何にもハカセの認識内の人柄だと思った。


「同中でも身長とか体重なんて知らないよね。普通は。。。」

ノボリンはちょっとひき気味だ。


「これは同じ中学だから知っている訳ではありませんよ。学級委員としてはクラスの基本情報は知っていて当然ですね。」


「ん?ちょっとまて、、女子のスペックも知ってんの??」


「知っていても松田さんには教えませんけどね。」


「知ってるんだ、、、。」


「福田君の性格とかはどんなだったの?」

僕はユッキーとハカセ、ノボリンが盛り上がっている所を、割って入った。


ハカセは少しも考える事無くスパッと答えた。

「どうもこうも、爽やかで優しかったですよ。場を盛り上げるのが得意でしたしね。頭も良くて運動もできて、、まあ学年一モテてましたよ。」


「確かにモテそうだよねー。」

ハカセの答えに僕ではなくノボリンが答えた。



「これはピンチだなー。」

ハカセとノボリンと別れ帰宅する道中、神妙な、、いや、

ちょっとだけ、わざとっぽさのある、神妙な面持ちでユッキーが言った。


僕は「どういう意味だよ」という意味合いで睨んだ。

ユッキーには伝わったみたいで、


「だってさ、敵は高スペックのイケメン。片やコタローは?

運動神経ゼロ。頭もそこまで良くない。顔も、、、まあ、顔は人それぞれ好みあるからな。

とりあえず、今の所勝ち目無さそうだからさー。」


ユッキーはズケズケと物を言う。僕はユッキーのそういう気を使わずに物を言う所が好きだけど、今回はカチンときた。図星だったし、自分でも心の片隅で思っていた事だったから。

僕は劣等感で変なテンションになりそうなのを堪え、ユッキーに聞いた。


「僕の良いところ、、ユッキーからみて長所ってどういう所だと思う?」


長年連れ添ったユッキーをしてもこの問は難問のようで真面目に考え、歯切れ悪く答えた。


「、、、優しいところとか?あと、そーだな、、空気をよむのは得意で、あ、周りの事よくみてるよな!配慮が出来てとても良いと思うぜ!!」


「、、ありがとう。」


自分でも分かっていたけど、そこまで突出して自分の長所がある訳では無い。

それでも自分では気づいていない長所もあるはずだと期待して聞いたけど、、、余計に自信を無くす結果になった。



ユッキーのスマホが鳴り、素早くスマホを取り出して、「お!」と声を出した。そしてユッキーは来た道を引き返した。


「コタロー、すまん!先に帰っててくれ!」


「ん?え、分かった。何かあったの?」


「へへ、、ちょっとな。

まあ、モテる男は辛いって事よ。」


(え?女の子と待ち合わせ?)


「まあ、あんま考えすぎんなよ。お前の長所は、、、置いといて。

コタローと、ちゃんりなは小学校からの仲っていうアドバンテージがあるんだからさ!」

僕が何か言おうとする間もなく「じゃあな!」とユッキーは足早に引き返していった。



1人になると体が少しだけ、、いや結構重く感じた。

ユッキーがワイワイしてくれていたおかげで気分が紛れていたんだと思う。福田君は強敵だ。

僕は焦っていた。


帰りの電車内で僕はいてもたってもいられなくなってしまい、夢中でLINEに文章を作成していた。


(きっと部活中だと思うけど、、、。)


僕は莉奈さんに思い切ったメッセージを送信した。


今度の土曜か日曜、昼ごはんのお誘いをしたのだ。


(あー、、、送っちゃった。)

僕は送信した後、無性にソワソワした。と同時にスッキリした。


その日、まだ部活中だろうと分かっていても、こまめにスマホを覗いてしまい、まだ既読になっていないのを確認しては小さなため息をついた。

その日はいつもよりも早く夜になったように感じた。



返事が来たのは、その日の夜22時頃だった。


僕は心臓がバクバクして冷静を装ってメッセージの内容を見た。


【お疲れ様です。

土曜日が練習試合だから、日曜日ならいいよー(*ˊᵕˋ*)】


そしていつものハートの可愛らしいスタンプ。


(おおおおお!!!!)


僕は心の中で雄叫びをあげ、小さく強めにガッツポーズをした。


僕は自身の行動と勇気を布団の中で1人褒め称えていた。

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