第5話

「え、前から知ってたよ?」

龍子はあっけらかんに答えた。


僕は耳を疑った。

(知ってた?え?なんで??)


今日は図書委員として初のお仕事。放課後、図書室の本の整理整頓作業中。


幸いにもこの日は学生は誰もおらず、龍子と僕は図書室に2人だけだった。

なので僕は思い切って、小学生の頃から莉奈さんの事が好きだった事を龍子に打ち明けたのだった。


長々と話した僕への反応はとてもシンプルだった。

ユッキーにしか打ち明けていない秘密を龍子は知っていたと言う。


僕が動揺を隠せずにいるのを尻目に龍子は続けた。


「分かりやすいんだよなぁー、コタローは。

多分私だけじゃないと思うよ。知ってるのは。」


「え?分かりやすい?」


「うん。分かりやすい。莉奈と話す時のコタロー、凄く嬉しそうだもんね。」


「え、、顔に出てるって事?」


「そうそう。てか、まあ声とか全身にもでてるね。1番分かりやすいのは表情だけど。」


(マジか、、、。そんなに分かりやすいかな。)

僕は僕自身の事を良く分かっているつもりでいた。しかし、実際には周囲の人の方が自分の事を良く理解をしている事もあるのだと感じた。


「そ、そんなに違うかなあ。結構出さないようにしてたつもりだけど。」


「んー、、。私と話す時と莉奈と話す時、全然違うよ?

私と話す時には見せないけど、莉奈には見せる表情があると言うか、、。

莉奈と話す時しか見せない顔?っていうのかな。」

龍子はチェックボードを片手に本を棚に戻し始め、僕に背を向けながら続けた。


「案外、女の子ってそーゆー態度の違いに敏感だったりするからね、、。

だから今更莉奈の事が好きって言われても、だから?としか思わないよ。」


(まさか、、いや、、、ありえるかも。)

「まさか、、莉奈さんにバレてたりするのかな?」

僕は恐る恐る聞いた。


龍子は僕の方をちょっとだけ見て、すぐに視線をチェックボードに戻し、先程返した本を記入した。

龍子はちょっとだけ考えているような、、、視線はボードを見ているのに、遠くを見ている様な目をしていた。


「、、、、。ぶっちゃけていいの?」


「うん。」

龍子の質問に、僕は悪い意味で覚悟した。そして、答えをまだ聞いていないのに、心臓の下の部分がグッと下がるような感覚におちいっていた。

(ぶっちゃけていいのって事は、、、多分、、。)


「、、、。本人に聞いてないから、私の推測だけど。」


龍子が変に焦らすから余計にドキドキが加速している。

図書室はとても静かだから尚更厳粛な雰囲気をだしていた。


「莉奈は気づいて無いと思うよ。」


「へ?」

予想とは違った龍子の答えに僕は肩透かしを食らった。


「というか、そこまで気にしてないって感じかな。んー、表現が難しいなあ。」


龍子は天井を見上げ、考える仕草で言った。

「まあなんにせよ、今のままなら振られると思うよ。多分、莉奈の中ではコタローは友達って感覚で、男として見てもらえてないと思うな。」


莉奈さんが鈍感って事なのか?いや、でもニュアンス的にちょっと違うような、、、。

ん?付き合える確率低いの??なんで?


龍子の話に頭が追いついていなかった。僕は色々と聞きたかったけど何から聞けば良いか分からない。


「とりあえず、もっと積極的に話しかけなよ。話しかけられて嫌がるタイプじゃないし。」


「で、でもさ、、何を話せばいいか分からないんだよ。」


「はぁ、、、、、。アンタ、仮に付き合えたとしたらどうすんの??

何話せばいいか分からないようなら長続きしないよ?」

ため息をついた龍子は急に口調が強くなった。イラついているようだ。


「あ、時間。」

ハッとして龍子が時計を見て呟いた。


「コタロー、悪いけどこの話はまた今度ね!」

そう言うと龍子はせかせかと作業に取り掛かった。

龍子はバレー部のため、図書の仕事が終わり次第部活に参加したいのだろう。


「部活?もしだったら残りの作業、僕がやるから部活に行っていいよ。」


「え?本当に!?」


「うん。その代わり、、また相談に乗ってくれないかな?情けないけど、莉奈さんとどうやって仲良くなって告白すればいいか、、自分じゃもう分からないんだよ。」


「うん!いいよ!ありがと!」

龍子は身支度をして図書室を後にしようと扉に向かった。


「コタロー!とりあえず何か困ったり、聞きたい事があったら連絡ちょーだい!」

図書室を出る間際、龍子は振り向いて言った。

心無しか嬉しそうだ。


「分かった!ありがとう。部活頑張ってね!」


龍子は手を振って、そのまま図書室を出ていった。




数日後の昼休み、いつもの中庭のベンチで僕はこの間の龍子との会話を細かく報告した。

「なんつーか、、、つまらないラブコメに出てくる、まるで応援する気になれない主人公みたい。」

一通り話終えるとユッキーはダルそーに言った。


「ん??ちょっと意味が分からないけど、、、。」


「でしょーね。」

ユッキーはフンと鼻で笑った。



「あ、そういえば、、、ねぇ、ユッキーに聞きたい事があるんだけど。」


「んー?なにー?」


「今まで聞いたこと無かったけど、ユッキーは好きな人とかいるの?」


ユッキーは急にシャキッとして答えた。


「特定の人はいない!

けど、女の子はみんな好きだぜ!!」


「そ、そっか。」


聞いた僕が悪かったと思った。そういえばユッキーは昔から女の子大好きだったもんね。



ぶっ!ククっ!!


急に吹き出した様な笑い声が聞こえた。僕とユッキーは笑い声の方向を振り向いた。

そこには見た事のある男が近くのベンチに座わり、僕らに体を向けていた。

同じクラスの僕のうしろの席の福田君だ。


「ご、ごめんごめん!(笑)

盗み聞きする気は無かったんだけどさ、、つい面白くて。」


「福田、、!お前どこから話聞いてたの?」

ユッキーも僕も、福田君とは挨拶程度しか交わしたことが無く、それこそ会話をした事は無い。つまり親しく無い。それでもユッキーは気にせずに「お前」呼ばわりできるので凄いと思う。


「んー、、ごめん。最初から。」


最初から、、つまり僕が莉奈さんの事が好きって言う話を龍子にした所からって事?

その疑問に答えるように、福田君は続けた。


「藤野くんと、えっと、、松田くん?だよね。

藤野くんは伊藤さん(莉奈さん)の事好きなの?

あ!大丈夫だよ、、内緒にしとくからさ!」


あぁ、、やっぱり聞かれてたか、、。

僕は誤魔化そうか迷っていたが、ユッキーが先に答えてしまった。


「まあな。だったらなによ?」

(いや、ユッキー先走らないで!!)

僕は心の中では叫んだ。


「いやー、実はいい方法があると思って。」

福田くんは爽やかな笑顔で言った。


「いい方法?」僕とユッキーは声を揃えて聞いた。


「うん。さっきの話を要約するとさ、、藤野くんは中々伊藤さんにアタック出来なくて困ってるんでしょ?」


ユッキーが僕の方を見る。ユッキーがこういう感じで見る時は、「お前が答えろ」という合図だ。


「、、、そうだよ。ぶっちゃけ悩んでる。」


「うんうん。それってさ、まだ藤野くんに心のどこかで余裕があるからだと思うんだよ。

例えば、明日伊藤さんが転校するってなったら、こんなに悠長に構えてられる?」


「た、たしかに、、、。」


「でしょ?で、つまりね、、、。俺が思うに、もっともっと必死になれば伊藤さんに積極的にいけるんじゃないかと思うんだよ。」


(うんうん。

たしかにその通りだけど、、、どうやって?)


「結論から言うと、恋のライバルがいれば藤野くんも頑張れるよね?だからさ、、、

勝負しようよ。」


うん?どういう意味??


「俺も伊藤さんに告白するよ。

7/15に夏祭りあるよね?伊藤さんを誘う。そんでその時に告白する。どうかな?」


「はぁ〜〜〜〜!!!!??」

ユッキーが大声で唸った。

「お前頭おかしいの??」


「ユッキー落ち着いて!!」

僕は前のめりになるユッキーをなだめた。

とは言えど、僕も福田君が何を言っているのか分からない。正直動揺している。


「福田くんも莉奈さ、、、伊藤さんのこと好きなの?」


「んー普通。、、、でもまあ、他の子よりはちょっと好きかな。

俺も松田くんと同じで、女の子はみんな好きだよ。」

松田くんは悪気の無い笑顔で簡単に答えた。


「ただ、どっちが先に付き合うか?みたいな勝負って燃えるじゃん?

俺は楽しいし、藤野くんも積極的になれてwin-winだと思うけどなあ。

あ、でも藤野くんが嫌だとか、自信がないとかなら別に勝負しなくていいよ?この話は無しでOK。

さあどうする??受けるの?受けないの?」


「いいよ。やろうよ。」僕は即答した。


ユッキーもビックリしていた。

いつもなら、迷ったりしてすぐに言葉が出ないけど、僕の意思は固まっていた。なぜならカチンときていたからだ。


莉奈さんの事が好きで「恋のライバル」と言うならまだわかる。。。

そこまで「好き」でもなく「面白いから」とか、「燃えるから」とか、、、莉奈さんをなんだと思っているんだ!


僕の事を、、そして莉奈さんの事をバカにされているような気がして、腹の底がグツグツと煮え滾るような怒りが湧いてきたのだ。

コテンパンにしてやる!


だから思わず即答してしまった。


福田くんは僕の怒りなどお構いない様子で、一切の動揺もなく穏やかに答えた。

「おー。じゃあ決まり!藤野くん流石だね。

7/15までは告白しないであげるからそれまでに付き合えるといいね!」


そう言うと福田君はベンチを後にした。

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