第4話

浮かれていられるのは新学期が始まってたったの3日間だけだった。


莉奈さんと同じクラスになったは良いのだけど、中々話す機会がない。かと言ってSNSでやり取りをしようにも、何を送ればいいのか迷走し結局メッセージを送らずにいた。


思い返すと小学校の頃はまだしも、中学の時は普通に話しかける事が出来ていた。

しかし、いざ改めて莉奈さんの事を意識してしまうと、今までの普通が分からなくなってしまう。


例えば「朝練だったの?お疲れ様!」とか「今日暑いね。」とか、、本当に当たり障り無い事を言おうとしても、「あざといのではないか。」とか、「いきなり何?」とか、悪い印象に思われないか考えてしまっていた。


「まあそう焦んなって。そのうち何とかなるだろーよ。」


事情を良く知っているユッキーはまるで他人事のような素振りだ。

ユッキーは自前のお菓子をダルそうに食べている。僕達はお昼休みに高校の中庭でダラダラと日向ぼっこをしていた。



「てかさ、いよいよ明日から登校じゃねー?名栗。」


「あぁ、、そうだね。」


明日は他校の人と揉めて謹慎中だった名栗君がいよいよ帰ってくる。


名栗君とはほぼ面識が無かったけど、凄く怖い噂はちょくちょく聞いていたので、

僕にとって名栗君は絶対に同じクラスになりたくない人だった。


「、、、まさか同じクラスになるなんてね。」


「同感~。」


「おーい!!もう休憩時間おわるよー!」

やや大きめの声が僕たちに対してだと直ぐに分かった。この声は聞き覚えがある。龍子だ。


僕とユッキーは同じタイミングで声の元を辿った。


龍子は2階の窓、、僕らの教室付近の廊下の窓から覗き込んで僕たちを見ていた。莉奈さんも一緒だ!


莉奈さんは数名の女子とこちらを見ながら、僕らの顔が滑稽だったのか、クスクス笑っていた。

僕は恥ずかしさと嬉しい気持ちが混ざって、体がふわりと浮く感覚と、急激に顔が熱くなるのを感じた。


僕とユッキーは顔を見合わせた。ユッキーは何か言いたそうだったけど、ニヤリと笑ってすませた。

僕達はとりあえず手を振り返し、のたのたと中庭を後にして教室に向かった。


教室に向かう途中、突然「閃いた!!!」とユッキーが、声をあげた。


「ん?なにが?」


「なぁ、コタロー。龍子にも手伝って貰えば?ちゃんりなに告白すんのをさ。」


僕はギョッとして言葉に詰まった。

それも有りだけど、、、龍子が手を貸してくれるかな?というか、、龍子が莉奈さんにバラしたら、、、


色んな考えが頭を駆け巡って返事はまとまらない。


「ま、別に直ぐに相談しろとは言わねーからさぁ。よーく考えときなよ。」


ユッキーの言う通り、僕は5時限目の英語の授業中、講義そっちのけで考えていた。


亘龍子(わたりりゅうこ)、、小学校からずっと一緒で、しかも、毎回同じクラスだった腐れ縁の同級生。そして同じ図書委員。


僕と龍子は色々話すけど、そこまで深い話をした記憶が無い。

まして、龍子と恋バナをするなんて考えた事すら無かった。


そもそも、莉奈さんと龍子はどれくらい仲が良いのかも未知数だ。

莉奈さんと龍子は中学の頃は別々の仲良しグループだったはずだし、喋っている所をあまり見た事が無かった。


ん? でもお昼休みの時は一緒にいたから仲が悪い訳では無いのかな?


僕が知らないだけで実は仲が良いとか?


ん~、、それはちょっと、想像できないなぁ。


ふと隣を見ると、ユッキーは授業中にも関わらず、ヨダレを垂らして思い切り爆睡している。


ユッキーの間抜けな寝顔を見て普段なら笑うのだろうけど、今だけは笑う事を忘れて真面目に考えていた。

ユッキーと龍子は仲がまあまあ良い、、はず。


小学校の時は龍子と僕とユッキーの3人で遊んでいた記憶も多々ある。


もし龍子に莉奈さんの事を言うとしたらユッキーも同席、、、いや、、、、

ユッキーがいると話が進まない気がする。


僕と龍子は同じ図書委員だから話す機会は多いんだよなぁ、、、。


来週、図書の業務の時に龍子に言ってみようかな。

少しばかりの期待に、心がちょっとだけ軽くなった気がした。



次の日、いよいよ名栗君が登校してきた。朝のHRに遅刻すること無く、僕が登校した時には既に自席に浅く座り、机に足を乗せてスマホを片手にくつろいでいるようだった。


「あいつ、、謹慎明けで気まずいとかねぇのかな?」

後ろからボソッとユッキーが言った。


いつの間にか後ろにユッキーがいたので、僕は軽く声をあげて驚いた。


後ろから見た感じだけど、以前に名栗君の姿を見た時に比べて、更にイカつくなっているように思えた。


髪型を例えるならライオンみたいで、ガタイも僕の2.3倍あるんじゃないの?というどっしりとした感じ。制服は袖を通さずに、羽織ってるっぽかった。


みんなが避けているせいか、名栗君の周りには一定の空間があるように思えた。

そんな中、果敢にも声をかけているクラスメートがいる。龍子だ。


どうやら名栗君のいなかった3日分の授業やプリントの説明をしてあげているようだ。

(龍子も相変わらずお節介焼きだなあ、、、。怖くないのかな。)


「あ!コタロー!!ユッキー!!おはよー!!」


最悪のタイミングで龍子に見つかった。

僕が固まってるのも遠慮なしに龍子は続けた。

「ちょうど良かった。キミの隣の席の藤野とその隣の松田。もし何か分からなかったらあの二人に聞くといいよ。」


「あのバカ、、余計な事を、、、。」

ユッキーが苦い顔をして言った。

同感だよ、、。まだ心の準備は整ってないのに。


龍子の言葉に名栗君は姿勢は変えず、顔だけ少し向けて直ぐに戻した。


僕は自分の席に向かい、カバンを置きながら名栗君に話しかけた。

「よ、よろしくね〜。」


名栗君は言葉を発さなかった。が、ジロりと睨み直ぐにスマホに目を落としていた。


心無しか凄く怒っているようにも見えた。

、、、元々そういうお顔なのかもしれないけど。



昼休み、いつもの中庭のベンチにはユッキーの他に、最近太り気味のノボリンと、メガネをクイッと直すのが癖のハカセもいた。


ハカセが悔しそうに落ち込んでいたので、何故なのか聞いてみると、

「朝、亘さん(龍子の事)が名栗君に丁寧に色々教えていたでしょう。

本来であれば、学級委員である僕のするべき事だったのです。

僕は先を越されたのが悔しくて悔しくて。」



「おまえ、スゲーな。」

ユッキーが苦笑いしながら言った。


「名栗君と何かしゃべったの?どんな感じ?」

間をおかずにノボリンが僕の方を向いて質問をしてきた。僕が答える前にユッキーが即答した。


「どんな感じもなにも、なんもしゃべってねーから分からねぇよ。なんかさ、、話し掛けんなオーラ出してるから。なあ、コタロー?」


「うん、、。僕も挨拶したけどシカトされたよ。」



はぁ、、、。

思わずため息がでた。

莉奈さんに告白をすると決意してまだ日は浅い。

それでもはるか遠い昔のように感じ、

どうやって告白するか?とか、莉奈さんとどうやって普通に喋るか?とか、、、。

そういう悩みが少し心の端っこに隠れているような感覚になっていた。

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