第3話
下駄箱の前の柱には密集が出来ていて、とても騒がしかった。
「随分やかましいなぁ〜。」
ユッキーは密集を前にポツリと言ったけど、僕にはそのやかましい雑音が気にならなかった。
柱にはA4のプリント3枚に学年とクラス、出席番号、そして名前が書いてある。
クラスはアルファベット順だけど、A組は商業科なので僕はBからEまでの普通学科クラスのプリントに目を通した。
先に目に入ってきたのは莉奈さんの名前だ。
2-C 3番 伊藤莉奈。
莉奈さんはC組だ、、、。
僕はおもむろに心臓の下の辺りがギューっとなった。そしてすぐに追いつくように心臓がドキドキを増した。
僕の名字は「藤野」なので、もしC組なら後半にあるはず。とりあえず、そのまま名前順に目を通して行こうか、、、
頭が回ってない気がしたけど、それでも僕は表に集中した。
「お!コタロー、俺と同じクラスじゃん!!」
先に僕の名前を見つけたのはユッキーだった。
(え!?どこ??)
僕は心の中でユッキーの言葉に反応したが、言葉には上手くだせなかった。
その代わりに
「あ、ちょっと待って!自分で探すから」
と、その後の言葉を遮った。
ユッキーはヘラヘラと笑いながら、「あんまり遅かったら答えいっちゃうよ〜」とからかった。
変な緊張のせいなのか、心が慌てているせいなのか、C組どころか他のクラスにも僕の名前が見つからないでいた。
そんな僕の慌てた様を察したのかユッキーが焦れったそうに言った。
「よく見てみなよー。んもぉ!!
お ち つ い て!」
いや、その通りなんだけど、、、とりあえず僕はまた表をBから目を通した。
やっぱりB組には名前が無い、、、。
続いてC組に目を通す。
「あ、、」
2-C 21番 藤野虎太郎
見つけた!!
やった!!!C組で莉奈さんと同じクラスだ!!
僕の心臓、いや全身の血管が踊っているようだ!
それくらい嬉しかった!!
まだ告白も付き合ってもいないのに、僕の心は歓声をあげ、1つのことを成し遂げたような充実感につつまれた!!
「ユッキー!C組だ!!ユッキーもC組??」
「ん、見つけた?さっきからコタローと俺は同じクラスって言ってんじゃんー。、、彼女もな。」
ユッキーはいつものヘラヘラとは違う、たまに見せるはにかんだ笑顔で答えてくれた。
「コタロー、今年もよろしくなぁ~。」
僕は返事を返す代わりに、ユッキーが差し出した握り拳に軽く拳をぶつけて返した。
「でもさ、、最悪だぜ?」
ユッキーは困った様な苦笑いで表を指さした。
「え?」
「お嬢も同じクラスだ、、。俺、苦手なんだよね~。あと、ヤクザ君も。」
「マジか。」
お嬢、、俵屋澪(たわやらみお)はともかく、ヤクザ君、、名栗玲央(なぐりれお)は赤嶺高校で1番関わりたくない同級生だ。
というのも、他の不良と違って一匹狼であまり人とつるむ事がない。でもその分、色んな悪い噂があるのだ。
実際に去年、、、1年生の時に気に入らないという理由で当時の3年生に喧嘩を売り、3人を病院送りにして停学処分を食らっていた。
莉奈さんと同じクラスで有頂天だったけど、名栗君と一緒という事実に気持ちが2段階落ちた。
僕とユッキーは新しい下駄箱に靴をいれて中履きに履き替える。
時折、同級生から「おはよー。」とか、「別のクラスになっちゃったねー。」とか声を掛けられたりした。
この校舎は4階建てで、2年生のクラスは2階だった。1年生の時は3階だったので、少し楽になったなあー。なんて他愛ない会話をしながら新しいクラスに向かった。
新しいクラス、、、2-Cの教室には既に半分以上のクラスメートが集まっていて、それぞれ仲の良いもの同士で和気あいあいしていた。
黒板に目をやるとプリントが貼ってあった。座席表だ。
僕は座席表を見て少しだけショックを受けた。
1番前、しかも教壇の真ん前だったからだ。
、、、まあ出席番号を見て少しは覚悟してたけど。
突然ユッキーが爆笑したので僕はびっくりした。いや、他のクラスメートも何事かとこちらを見ている。
「へ!?ユッキー、どうしたの??」
ユッキーは腹を抱えながら僕の問いに指をさして答えた。
ユッキーが指をさしたのは、黒板の座席表だった。僕の席の左どなりがユッキーで、、、右どなりの席はまさかのヤクザ、、じゃなくて名栗君だった。
「いっや〜〜、、コタローも今年度は楽しそうだねぇー笑」
ユッキーはたまに人の不幸を茶化す事がある。これは小学校の頃から変わらない。
だけども、、、これは、、、。
ユッキーはふと真面目な顔をして小声で僕に囁いた。
「隣が「ちゃんりな」だったら良かったのにな!な!!」
僕は怒る気力も無く、ただ、ため息で答え、静かに席に着いた。
あぁ、、確かにユッキーの言う通りだ。
隣が莉奈さんだったら完璧だった。
よりによって極道みたいなヤンキーの名栗君が隣とは、、、。
「おはよー!」
ふと聞き覚えのある、優しくてふんわりとした声が聞こえた。僕はドキッとしてすぐさに振り向いた。
莉奈さんだ!!
莉奈さんが教室に入ってきて、なにやらクラスメートの女子に声をかけている。
ふと、莉奈さんが僕の視線に気づいたのか僕の方に顔を向けた。
ニコッと笑いかけ、手であいずしてくれた。
僕はドキドキしながらあいずに対して手を振って反応した。
改めて僕は莉奈さんと同じクラスなんだと実感した。
そして、色々な不安はあるけど、莉奈さんと同じクラスならどんな事も乗り越えられるという、根拠の分からない自信が僕の心を覆った。
余程態度に出ていたのだろうか?そんな浮ついた僕の姿をユッキーはニヤニヤして見ていた。
チャイムが鳴り、少し遅れて先生が入ってきた。
「げぇー、、担任シゲピーかよ〜」
ユッキーが小声で本音を漏らした。
重里先生。50歳くらいの男で野球部顧問の国語担当の先生だ。国語の先生とは思えないようなガタイのいい人だ。
どう表現していいのか分からないけど、ユッキーの気持ちは分かる。
とにかく説教臭いのだ。
「松田、聞こえてるぞ。」
圧のある声で重里先生はユッキーに言った。
ユッキーは愛想笑いでヘコっとした。
そんなやり取りを女子がクスクス笑う。
「えー、、2年生進学おめでとう。と言いたいが、1つ悲しいお知らせがある。新しいクラスで2年生を迎えて早速だが、、、名栗が一昨日他校の生徒と喧嘩して3日の自宅謹慎処分になりました。。」
重里先生は本来なら名栗君が座っている席に目をやり、直ぐに前を向いて話した。
確かに名栗君の姿は無い。
僕とユッキーは顔を見合わせた。
他のクラスメートもワイワイした。
騒がしくなる前に重里先生は更に圧のある声で話を続けた。
「はいはい!静かにぃ!!これは名栗だけの問題じゃないぞ!お前らだって、もしかしたらがあるかもしれん!!
俺が言いたいのは、そういう事件や事故に巻き込まれないように、正しく生きなさいって事!!」
クラス内は静まり返り、先生の話の続きを待った。
「んー、、これは本当は言わない方がいいかもしれんが、、これからはこのメンバーで1年を過ごす。だから名栗の為にもお前らには言っておく。
今回は名栗が喧嘩を売られて買ってしまった。
先に手を出したのは向こう。
しかも相手は相当のワルだって事だから、まあ俺から言わせれば名栗は巻きこまれた側なんだよ。」
「ま、名栗もつっぱってるから目を付けられたんだろうよ。」
重里先生は軽いため息を着いて、名栗君の話は切り上げ本題に入った。
その後出席番号順に簡単な自己紹介をして、今年度の流れを先生がプリントに沿って説明、1限目が終わった。
休憩中は多分どのグループも名栗君の話をしてたと思う。僕とユッキー、そして1年生の時同じクラスだった熊木昇(くまきのぼる。アダ名はノボリン)と、同じく1年生の時同じクラスだった桂匠(かつらたくみ。アダ名はハカセ)と4人でも名栗君の話をしていた。
「ほんとかね〜〜。名栗から手ぇ出したんじゃあねえの?」
ユッキーは重里先生の話を信じていなかった。
「いや、十分にありえますよ。名栗さんは被害者で、巻きこまれただけだと僕は思いますけどね。」
ハカセはメガネをクイッと直し、ピシャリといった。ハカセは割と先生の話は何でも信用するタイプだった。
「どっちでもいいよぉー。それよりさ!ね!次のHRで委員会決めだけど、、どうするのさ!!」
ノボリンは余り関係ない事には興味がない。
関係ないけど、少し見ない間にまた太ったようだ。
僕もノボリンに賛成で、それよりも委員会決めの方が大事だ。
莉奈さんは何委員を選ぶんだろ?
チラリと莉奈さんの方を見ると、ユッキーの苦手なお嬢、それに僕らと同じ、小学校から一緒の龍子と話をしていた。なにやら楽しそうだ。
「はいソコ!!よそ見しない!!」
ユッキーが僕の頭をポンと叩いて言った。
「いて!、、みんなは委員会どーするの?」
「僕は学級委員に立候補する予定ですね。」
ハカセは1年生の時も学級委員だった。生徒会には絶対になる気は無いらしいが、何故か学級委員には絶対なりたいらしい。
クセなんだろう、、ハカセはちょくちょくメガネをクイッと直す。
「どうぞどうぞ。ハカセはお好きにしてください〜。俺はー、、そーだなー。ん~、、放送か体育委員かなあー。」
ユッキーが迷った挙句、結論を出した。
すかさずノボリンが聞いた。
「えぇ!!めちゃくちゃ大変そうじゃん!なんで放送か体育なの??」
「なぜって?知れたことよ。放送と体育は男女1人ずつだろ?委員会やるなら女の子と一緒の方がいいだろー?」
ユッキーはノリノリで答えた。
ハカセはなるほどとあいづちを打ったが、僕とノボリンは苦笑いで済ませた。
ん?
「でも、だったら風紀委員とか、、図書委員、環境美化も男女ペアだよね?」
「お!コタローいい質問ですねぇ~。」
「俺の勘だが、、田野ちゃん、もしくはユッコは放送か体育委員に立候補する気がするのさ。」
僕らは思わず「あー、、」と声を揃えて言った。
田野環奈(たのかんな)は1年生の時同じクラスで、性格が明るく、胸とお尻の発育がずば抜けて良く、ノリがとてもいい子だ。たしかに前回放送委員だった。
ユッコ、、由良美月(ゆらみつき)は莉奈さんと同じくバスケ部で、ショートカットが良く似合う凄く活発な女の子だ。ユッコさんも同じく胸がでかい。
言われてみれば確かに体育委員を選びそうな感じ。
要するにユッキーは委員会を選ぶのに、なるべく自分のタイプの女子が一緒になることを目的に選んでいるのだ。
「、、、変態。」
ノボリンがボソボソと言った。
「は!お前らムッツリよりはマシだがね!」
偉そうにユッキーは言った。
学級委員は男子がハカセ。女子は小沢さんになり、2人が進行役になり委員会決めは進んだ。
莉奈さんは1年生の時は実習委員だったが今年はどうだろう?
正直、実習委員はめちゃくちゃ大変そうだったから僕は選びたくないし、多分部活が忙しい莉奈さんは選ばないと思った。
そしてユッキーの企みは見事に消えた。
放送委員にユッキー、、そしてパートナーはまさかのお嬢に決まった。
ユッキーとお嬢が同じタイミングで「げっ!!」と言ったので思わず吹き出した。
体育委員には何故かノボリンと、ユッキーの勘が的中してユッコさんに決まった。
「熊木くん!よろしくねー!!」
大きな声でユッコさんが言った。
ノボリンは恥ずかしそうに会釈して答えた。
「ヤツめ、、結局体育委員に立候補したのかよ、、。」
そんなやり取りをユッキーは恨めしい顔でみていた。
「ユッキー、ドンマイ!第1候補に体育委員選んどけば良かったね。」
「コタロー、、お前、ずいぶんお気楽だな。そろそろお前の番だぜ?どうせ図書を第1候補にしたんだろ?」
ユッキーの言う通り、僕は図書委員を第1候補にしていた。僕は本が好きだ。だから今のバイト先も大型本屋だし、1年生の時も図書委員だった。
僕は希望通り、図書委員になった。パートナーは女子3人がクジ引きの末、龍子に決まった。
「ひぇー、、お前らホントに腐れ縁な。」
ユッキーは驚いて言ったが、ホントにそう思う。
亘龍子(わたりりゅうこ)はユッキー、莉奈さん同様に小学校からの仲だった。
それだけでなく、龍子は小学校から毎年同じクラスだった。
僕はおもむろに龍子の方を向いて、「よっ!」って感じで手を振った。
龍子は「はいはい」という、素っ気ない感じで手を振り返した。
莉奈さんは環境美化委員になった。パートナーは僕の後ろの席の福田君だ。
福田君が羨ましい。
学校が半日で終わり、僕はユッキーとダラダラと帰宅した。
帰り道は朝と違って、いつもと同じ感覚に戻っていた。多分、お嬢と同じ委員会になってしまったユッキーが愚痴をずーっと言っていたいたせいだろう。
帰宅して直ぐに僕はバイトに向かった。
自転車で20分くらいの所にある、大型本屋「ミチノヤ」が僕のバイト先だ。
バイト先の更衣室で僕は意を決してスマホを開いた。
(ホントは帰りの電車内で送ろうとしてたけど、、、。)
莉奈さんは多分部活中だろう。。。
【部活お疲れ様ー!
同じクラスになれて嬉しいです!
今年も1年よろしくね!】
簡単な文だけど、めちゃくちゃ悩んだ末の文書を「よし!」と思いながら送信。続けて流行り物のスタンプを送信した。
(返信が来てない事が怖い?)僕は胸がドキドキした。
僕は返信が気になって気になって、何回もスマホを確認し、返信が来ていないたびに落胆する事を恐れ、あえてロッカーにスマホを投げ入れて更衣室を出た。
僕は臆病なんだろう。
いつもと何一つ変わらない内容でも、やはり今日は違う。
僕は初々しい気持ちで作業に取り掛かった。
22時になりバイトが終わり、僕は更衣室に戻った。
果たして返信はあるのか、、、。
僕の心臓は「もう無理!!」と叫ぶ様にドキドキしていた。
パッとスマホを開くと、通知が3件来ていた。
1件はユッキー、もう1件は母さん、、
そして、もう1件は莉奈さんからだ!!!!
僕はいい意味でドキドキした!凄く嬉しくて、小さくガッツポーズをした。
早速内容を見ると、、
【ありがとー!】
【コタローもバイトかな?お疲れ様。
私も一緒で嬉しいよー!】
【こちらこそよろしくねー!】
ハートのスタンプ
最高だ、、、。
莉奈さんも一緒で嬉しいって、、。
僕は隣の席が名栗君だろうが、委員会が莉奈さんと別だろうがどうでも良くなった。
莉奈さんとこうやって連絡を取れていることが、僕にとっては特別な物だと感じた。
僕は帰宅してから、お風呂に入ってから、そして寝る前にと各一回づつそのLINEを見直した。
明日から学校が楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます