第2話

高校までは自転車で10分の所の最寄り駅「山畑駅」まで行き、そこから1時間に2.3ほんしか無い電車で30分、「赤嶺駅」で降りて5分歩く。電車の待ち時間も併せると片道約50分。


入学当初は気にならなかった。初めての電車通学、電車から見える景色、途中のコンビニで昼飯を買ったりと初めての事も多くて、ワクワクしていた。


けど、結局慣れてくれば代わり映えのない通学で億劫(おっくう)になっていた。


だけど今日はどうだろう?

見えるのもの全てが新しく感じ、電車もいつもと同じスピードで走っているはずなのにグングンとスピードを出しているような、そんな感覚があった。


途中の駅から他校や同高の高校生が乗り込んで来て徐々に電車内はゴミゴミしてきた。


(莉奈さんは乗ってなかったなあ、、。新学期初日でも朝練があるのかぁ、、。)


莉奈さんは中学から今の高校でもずっとバスケ部で頑張ってる。今年は特に上を狙えるとかで遅くまで部活動に励んでいた。


比べて僕は、、、。


僕は中学の時は柔道部に所属してた。体格が小柄だったのでその分努力した。柔道してる人特有の耳ダコが出来る事は無かったけど、血豆は何十回も潰れては出来、を繰り返していた。


それでも才能は開花することは無く、団体戦では補欠に選ばれる事すら叶わず、個人でも1回戦敗退で幕を閉じた。


中学3年の二学期の通信簿には顧問から「努力が出来て真面目に部活動に励んだ」という簡単な言葉のみ。


母さんは偉いと言ってくれたけど、努力して真面目に取り組むだけで活躍出来る訳では無い事を学んだ僕は、それ以来、努力とか真面目とか頑張るという事を避けるようになっていた。

だから高校では帰宅部になり、週5ペースでバイトに励んでいた。


そんな感じだからなのか、莉奈さんの部活の話を聞いた時や、時折見る練習風景に僕は心臓を軽く握られ揺さぶられているような感覚になる。


(莉奈さんに告白出来ないでいた理由、、、。自分に落ち目を感じていたのかもなあ)


僕は電車に揺られながら、そんなことを考えていた。


「次はー赤嶺ー、、赤嶺駅ーー。」


車掌さんのアナウンスで僕は我に返った。

やはりいつもより早く着く気がする。


僕は感傷的な気持ちを切り替えた。


負い目とか自分の出来ないことに囚われるのは今日までだ!

今年こそは莉奈さんに告白して付き合う!その決意を胸に、僕は電車を降りた。



駅を出ると同じ制服の学生がゾロゾロと歩いて高校を目指している。よく見る風景なのに少しだけ俯瞰して見れているのは、やっぱり僕の心持ちがいつもと違うからだろう。


「おーす!!」

といきなり後ろから肩を強めに叩かれた。


「いて!あっユッキー、おはよー。」


僕の肩を叩いたのは、小中から一緒の幸男だ。

彼とは中学の柔道部も一緒だったからホント腐れ縁って感じだと思う。


「ん?あれ??ユッキー、、髪、、。」


「お!さすが我が親友!どう??似合う??」


今日初めて普段の変わらない風景とは違う物を見た。

ユッキーの髪が茶髪&ピアスになっていた。



「ははは、見慣れないよ。てか、茶髪とピアスって頭髪検査で引っ掛かるんじゃない?」


2ヶ月に1回の頭髪検査は結構厳しい。最悪の場合、1週間の自宅謹慎だ。


「ん〜〜。そこらへんは全然考えて無かったわー。」


ユッキーはヘラヘラしながら言った。

ちょっとチャラついた風貌になったけど、性格は相変わらず。むしろ、今の茶髪でピアスのユッキーの方がしっくりくる。


昔からユッキーはおチャラけてた。

良くクラスの女の子に軽い!と批難混じりの言葉を言われていたけど、僕はユッキーの風にそよぐ草木見たいな性格が好きだし、なんとなく憧れていた。


僕が柔道で最後の試合に負けた時も唯一1人だけ、ユッキーだけが「ドンマイドンマイ」「もう俺たち引退だけど、これからは楽しくマイライフ生きよーぜ〜!」と軽い言葉をかけてくれた。


一見、人の心に土足で踏み込むような言葉も、僕の心は結構救われた。

多分だけどユッキーは人のフォローがとても上手なんだと思う。


だからだけど、莉奈さんに告白する決意の話はユッキーにだけ打ち明けていた。


「いよいよ今日が来ましたな〜。同じクラスならいいけどねー。そういや、ちゃんりなは同じ電車にはいなかったけど、今日も朝練かね?」


「多分。てか、ユッキー声がデカい!」


「ん?ああ、ごめんごめん。」


ユッキーはヘラヘラと謝った。


「つーかさ、、俺とコタローも同じクラスかどうかだな。俺が心配なのは」


ユッキーは真面目に考える仕草で言った。


莉奈さんと同じクラスになるのは絶対にだけど、ユッキーとも同じクラスなら最高だ。

僕は本心からそう思った。


でもそれを言うとユッキーは調子に乗るので敢えて言わなかった。


そんな会話をしながら校門も通り、いよいよクラスが書いてある下駄箱前の柱まで着いた。


僕は急にドキドキしてきた。

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