あなたへ。

昼下がりの囚人

第1話

いつもより早く目が覚めた。

期待と不安が入り混じって何とも不思議な気分だ。

枕元のスマホを手に取り、まだ鳴っていないアラームを消す。

いつもなら二度寝してしまう時間、、、。

にも関わらず、気持ちが冴えていて、僕は布団からゆっくり体を起こし学校の支度に取り掛かった。


居間に向かうと台所の方から母さんが朝食を作っている音が聞こえた。


「ん?虎太郎?おはよー。アンタ今日は早いわね。」


母さんも僕の存在に気づいて声をかける。


「おはよー、、まあ、、今日から新学期だからね。何となく早く起きた。」

いつでも寝起きの声は低めだ。気持ちとは裏腹に僕の声は眠そうだった。


「新学期だからと言わず、普段から早く起きなさいよ。」

料理を作りながら母さんは言った。

後ろ姿だから表情は分からないけど、何となく笑ってる気がする。



少しして母さんが出来たての朝食をテーブルに置いてくれた。

僕はスマホに目を落としながら、ありがとうと答えた。


「アンタも今日から高校2年生かー、、早いねー。」

そう言いながら母さんもイスに腰をかけ、テレビのチャンネルを変えた。

テーブルの上にある朝食は僕の分だけ。母さんはまだ食べないらしい。


「高校2年生ってのは進学だー就職だーって、結構大事なんだから、虎太郎もちゃんとしなさいよ!ね!」


待ちわびてたLINEが鳴る。

僕はドキッとして気持ちが早るのを抑えてゆっくりLINEを開いた。

莉奈(りな)さんから返信がきたのだ。


「おはよ!こちらこそ今日からまたよろしくね!」

続けて「また同じクラスになれるといいね!」

更に続けて可愛らしい犬にハートのスタンプ。


他人が見たら普通のやり取りだろうけども、僕はテンションが上がった。


母さんの「ちゃんとしろ」の意味は分からないけど、確かに高校2年生は僕にとって大事だ。

もし、、、もしも莉奈さんと同じクラスになれたら。。。

僕は7月の体育祭の後、莉奈さんに告白をすると決めていた。


莉奈さんと僕は小、中、高と一緒の学校だった。

莉奈さんの事を意識しだしたのは小学校5年生の時に一緒にクラスの生き物係になって、よく話すようになってからだった。

仲良くなればなるほど莉奈さんに惹かれて行ったけど、それでも中学の時は告白する勇気がなかった。


高校に入ると同級生が付き合いだしたり、恋バナが増えたりして、自然と告白を意識しだした。


更に、莉奈さんと同じで小学生の頃から一緒で同じ高校のクラスメイトの幸男(ゆきお)こと、ユッキーに言われた「早く告らないと、莉奈も誰かと付き合っちゃうんじゃね?」という一言が僕の決意を固めた。


もしも、莉奈さんと2年生でも同じクラスになれたら、、、僕は絶対に告白をする。


その為か、いつもよりも新学期を待ちわびて春休みを過ごした。


僕は朝食を食べ終わった後のお皿を台所に運び、いつもならやらないけど、何となく皿を洗った。


母さんはビックリしてるような感動してるような、、「まあっ!」と物珍しそうな声をだしていた。


準備を終えていざ外に出ると、日差しは暖かいのにそれでも空気は冷たかった。それを感じた瞬間に何故か心が高揚した。


僕は期待を膨らませて自転車のペダルを軽ろやかにこいで学校に向かった。




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