第6話 1日使い捨てコンタクト(5) 『コンタクトの注意事項』


 コンタクトの着脱をマスターした遥。既に来た時の緊張はなく、ややテンション高めのご様子。


「……大丈夫そうだな。じゃあ、練習終わり!」

「疲れた~……結局5セットだったし……」

「家で付けれなかった~って言われたくねぇんんだよ。ほら、全部終わったからあとは気を付けるポイントを言っとくぞ」


 キリン眼科お手製の『コンタクトの注意点!』という紙を差し出す。


「まず1つ! 『手を清潔にしておくこと』。爪はもちろん短くしておくことと、コンタクトレンズは目に触れるものだ……それを触る手指も必ず洗って清潔にしてからやれ。

 2つ! 『付けている時間を守る事!』。コンタクトレンズは目にフタをしているのと同じようなもんだ。本来目は呼吸しているがそれがやりにくくなって目の負担になる。長くても12時間くらいにしとけよ。

 3つ! 『何かあったら病院に来る!』。無理してコンタクトレンズを使うと取り返しのつかない事になる。少しでも痛みや違和感があったらキリン眼科ここじゃなくてもいいから眼科に行け。

 その他細かいことはこの用紙と、メーカーが作ってるガイドブックに書いてあるからよく目を通しとけよ」


「は、はひ…………」


 疲れて机に突っ伏す遥。矢継ぎ早に言い過ぎたか……と青龍は言葉を止める。

「ま、何はともあれこれで終わりだ! よくやったな。晴れてコンタクトデビューだ」

「や……った~」

 


※ ※ ※



 勘違いで遥が最初にやって来ていた受付で、青龍はコンタクトを袋に詰めて渡した。


「じゃあ、諸々サービスして……ほれ、込々で3千円な。片目に1箱ずつで1か月分だけど使い切るくらいで定期検査に来てくれよ」

「わかりました!」


 金銭のやり取りを終えると、眼鏡ではなくコンタクトを付けた遥は深々と頭を下げた。


「青龍さん……今日はホントにありがとうございました!」


 垢抜けた――――わけではないが、その一歩を進み始めた少女は来た時よりも明るく見える。


 あぁ、良かった――と青龍は微笑む。


「最初は……っつーか、無理して使うなよ~」


 夕日の差す院外へ去っていく少女の後ろ姿を見送っていると、金髪の院長がゆっくりと現れた。


「お疲れ様……なんだかんだしっかり指導するんだから、青龍君もツンデレねぇ」

「うっせ……仕事だからやってるだけだよ」

「もぅ、素直じゃないんだからぁ! 本当は子供好きのくせにぃ~」


 このこのぉ、と麒麟につつかれる。


「じゃあ子供好きでいいから言うけどよ、院長殿?」

「なぁに?」


 柔和な笑みで麒麟が青龍を見つめる。


「……今日来た人間、長野遥あいつひとりだけだぞ。大丈夫か、ここ」


 キリン眼科……それは、人間ひとならざる存在が、迷える人間へコンタクトレンズについて教え導く謎の病院。青龍せいりゅう麒麟きりん……彼らの正体が何なのか、真実を知る人間はいない。



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