第5話 1日使い捨てコンタクト(4)『コンタクトの外し方』
「じゃあこれ、どこが空いてる?」
「う~ん……右です!」
コンタクトの装着を終えた遥は20分程度付け心地を慣らした後、レンズの度数調整に移行していた。5メートル先の画面に表示されるランドルト環(Cの形のアレ)―――視力検査で見る切れ目のある丸―――の方向を答えていた。
「ま、こんなもんか。ほどほどにするなら今の両目とも今0.9ずつ視力が出ている状態だ。気分は悪くないか?」
「全然大丈夫です!」
ま、こんなものだろう。と青龍は検査を止めた。
※コンタクトレンズ処方に置いて、よく見えるレンズに調整する必要はありません。あくまでコンタクトをつける本人が問題ないと思う見え方であれば構いません。そこに関しては検査員と相談しましょう。こちらから言わなければあちらが適当と判断したレンズ度数になります。
「うーし! レンズの度数も決まったし、あとは外し方の練習だけだな」
「つけるのはできたんですから、楽勝ですよ!」
「……ま、威勢がいいのは何よりだ」
フラグが立った――現代の言葉で表すと、遥の台詞はそれにあたるらしい。
それが現実になるのは数分後のことである。
※ ※ ※
コンタクトを付ける練習をしていた机に戻り、いよいよ外し方を学ぶ。
「手順としては3つ! 1.瞼を引っ張って目を開ける、2.目に着いているコンタクトに触れる、3.摘んで外す、だ。目の開け方はコンタクト装着の時と同じようにやればいい」
説明と共に、遥が右目を大きく開ける。
「外す時はまた右手を使う。親指と人差し指を合わせておけ。その二本指で摘む」
「はーい!」
元気よく返してくれる少女に、若干の不安を抱く。
「……目を触る際の注意点として、出来るだけ黒目を触らないようにすること、だな。本来なら黒目の下にずらしてから外してもらいたいところだが……ま、初めてでそこまでやろうとすると面倒だから黒目の真ん中よりやや下――時計で表現すると4時と8時の位置を指で触れる」
※各メーカーのガイドブックには、黒目より少し下にずらしてからレンズを外すように指示があったりなかったりします。理由としては黒目(角膜)をキズつける可能性があるのでできればレンズの半分が白目にのるようにしてもらうとより安全です。
眼科あるいはコンタクト付け方を指導する人によっても言う事が異なるので、必ずメーカーのガイドブックに目を通しましょう。
「あとは眼球に膜のようについているレンズを指で摘んで外せば完了だ」
指示通り、遥は意気揚々と自身の目に触れるが、
「んッ!」
案の定、目は閉じてしまった。
「コンタクトが乗っているが初めて触る人間はその刺激になれてないからな……根性で耐えろ!」
「えーっ! 何かコツないんですか⁉」
「ないッ! とにかく『目に触れる』ってことに慣れないと何も進まねぇぞ。やり方を覚えたら後は気合と根性! あと少しだ、頑張れ」
気休めに鼓舞し、練習再開を促す。
その後何度か挑むと、遥は目を閉じることなくコンタクトに触れるようになる。
「あ、あれ? 触れてるのに摘めない……?」
「目は球体だからな。半端な力で触っても滑るだけだぞ」
「じゃあ、どうすれば……」
少女の嘆きに、青龍は自分の左手を突き出す。そして右手の親指と人差し指を合わせると、左手の手の甲の皮膚を摘み引っ張った。
「こんくらいで引っ張れ」
「アバウトだなぁ……」
「力加減なんて人それぞれだ……目に触れた刺激には慣れ始めているんだからあと少しだ、さぁ練習再開!」
遥は一度大きく深呼吸すると、気合を入れなおしたのかもう一度大きく目を開けた。
「んん~」
少女の指が眼球を覆うコンタクトレンズに触れる。今度は刺激に負けない。目は開けたままである。
「ここで―——」
指がレンズを捉える。眼球上でつかみ取られ、浮き上がる。
「————取るっ!」
ゆっくりと、ライトブルーのコンタクトが遥の目から外される。しっかりと摘み取った証拠に、レンズは二つに折りたたまれていた。
「……取れた!」
成功で顔のほころんだ少女が、青龍をみやる。
「……頑張ったな、成功だ」
青龍は屈託のない明るい笑みを浮かべ、遥を称えた。
※ ※ ※
その後、左目のレンズを外すことになるが遥は難なく終えコンタクトを外す練習は完了した。
「よし! 完璧だ……じゃ、今の付け外し――着脱練習をもう1セットな」
「えっ?」
※病院によりますが、来院者数の多い場所だと1セット。時間に余裕のある場所では付け・外しの練習を複数回行う病院もあります。
「スムーズに出来るためには反復練習! さぁさぁ、とっとと外してみろッ!」
「ひーっ!」
スパルタ混じりに指導をするが、少女はコンタクトの着脱を完璧に会得していた。
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